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少女でおじさんな悪 20

深夜12時。翌日と変わってすぐ邂逅があった。


社長室は元暴力団のトップの部屋だ。ほぼ前の遺物は壊しており、新しく入れ替えたデスクが一つ。入り口から左壁側に設置。部屋奥にテーブルが一つと、挟み込むよう小型のソファーが二つずつ設置されていた。また観葉植物が部屋の隅におかれている。



 壁際のデスクに両肘をおき、座るのは僕だ。ファブリックの生地の社長椅子。背もたれも一定の角度までは沈む。生地の厚みがある座面によって衝撃も緩和。据わり心地が大変よかった。



 デスク前に傅く女性。いや人間タイプの怪人。八千代から派遣していたうちの一体。前髪に赤のメッシュが入った怪人、赤メッシュの怪人が敬意をもって傅く。その隣には蛙をベースにした怪人が立っていた。シルクハットをかぶり黒のローブを羽織り、片手には渦の巻いた飴の棒に似たステッキ。



 ティターノバだ。


 ブラックホールのごとき黒の目が僕を見つめていた。



「結城市攻略まで読まれてたの?」


 こう尋ねる僕は、きょとんとしていた。可愛らしい容姿のおかげか、見苦しくもない。それに対し頷くのは大怪人ティターだ。


「そうだ、父よ、いや今は母か。改めて言おう。母よ、あの人間、鵺の戦略目標をわかっていたが。計画に支障はあるかね」


 そう答えるティターは堂々としていた。僕相手でも引くこともない。僕たちは互いに同等の地位をもつ。実力だけならティターに勝てない。だけど怪人、魔獣生産能力においては僕のほうが上。再改造および、新規作成含めた全部、こちらが勝る。



 生産系の魔法使いと戦闘系の魔法使い。前者が僕で、後者がティター。


「ない」


 断言する僕は、腕を崩す。顔の前で両手を合わせた。口元を隠すような形になりながらも、にやけるのを隠す気はなかった。にやにやと悪らしく策略を企む顔の僕。


 そんな僕に呆れた様子をみせたティター。だが呆れを消し、真剣そうな表情を取り繕った大怪人。


「あの人間、勘が鋭いのかね。思考力がすさまじいのかね、計算づくとしか思えないほど落ち着いていた。このティターノバを相手に引きもしなかった。やつは本当に弱者か。あれは何だ?本当に人間か?人形のようにしか見えなかったが、母が作成した新規の怪人ではあるまいな」



「怪人はあそこまで感情を殺せない。徹底した感情制御の裏には、弱さがあるんだよ。ああみえても年頃だよ。でも、地方では弱さは隠せる能力が必要だからね。怪人よりも、人間よりも、どこまでも無を貫き、強者を支配する弱者」


 この話題にあがる人物、それは院長だ。15歳にして、ティターを相手にひかなかったようだ。負けず劣らず、ロッテンダストや八千代の武力と同じように対応してみせたようだ。それどころか筑西攻略もばれていた。結城市攻略もばれていた。


「本当に大丈夫だといいが」


 心配そうというより、懸念がある感じのティター。顎に手をそえた大怪人をよそに、僕は一切の心配をしていなかった。


 院長を相手にした際、あまりにも自然であり、弱者らしからぬ態度だったために疑念があるのだろう。果たして都合よく使える駒になるのか。僕たちの最終目標にたどりつくのに邪魔にならないか。


「弱者なりの意地を見せた。意地を見せれるから逸材なんだよ」


 人形は人間だ。意志の強さは弱さを殺し、強者へ立ち向かう。暴力も脅威も本能が悲鳴を訴える中、耐えて見せた。その強さは人間だけの理性が為す。



「母が言う逸材の通り、結城市を半分渡しても?」


「院長が求めるなら、渡して。そっちのほうが面白そうだし」



 ニタニタと口端が大きく歪んでいく。悪は悪らしく。自分のものに手を出されれば報復。自分の期待するものには力添えをしていく。人には人の価値。強者も弱者すらも価値になる。院長に求めるのは弱者ゆえの知恵と勇気。戦える力がないならば貸せばいい。牙をむく意志さえ出せるのなら、問題ないのだ。


 はぁと溜息をあからさまにした大怪人。



「鵺が管理したほうが安定するがね、母が言うのだから、従うが」


 渋々とした態度をもつ大怪人。その大怪人の意見などは無視。僕のやりたいことを優先させる。



「そうしてよ」



 僕は肩をすくめて言った。どこまでも傲慢に物事は進んでいく。



 

 そして、大怪人と僕の会話が終わる。ティターが一歩引く形で後ろに下がった。そのブラックホールのごとく黒い目が傅くものへ向けられた。僕も同様だ。


 大首領と首領。この強大な権力者の視線を間に受ける赤メッシュの怪人。


 びくりと視線に震えていく。空気を吸う音、心臓の音が聞こえるかのごとく、空気が変わった。緊張感が走った様子。


 震えながらも赤メッシュの怪人が恐る恐ると顔を上げようとした。


「上げるな、下げてなよ」


 僕は許可を出さず、冷たく否定した。権力者は常に上から目線。その言葉に赤メッシュの怪人が勢いよく下げた。



「は、はっ!」


 僕が作る空気に赤メッシュの怪人は耐え切れない様子。傅く体全体が震えている。恐怖の感情が支配しているはずだ。この僕はいつもと違う。冷酷な表情を作って見下しているからだ。



 頬杖をかきながらも、つまらなそうな僕。見下す冷めた視線を赤メッシュへと向けた。



「君に期待してたんだよ?」


 責める口調だった。真綿をもって首を絞める環境を僕自身が作り出す。赤メッシュの怪人には役割を与えていた。八千代の怪人の中でも古参を配置。凶悪面の怪人、令嬢怪人は八千代から外せない。その次の実力者である赤メッシュの怪人。


 八千代においてのDランク最強。


 それを配置し、他の部下は交代制での配備。



 わざわざ八千代の戦力を減らしてまで、ビルに配置した理由は安全のためだ。Dランク怪人4体をも動員した環境。部下24名が今回死んだ。高梨と商人の遺体はなかったのは運。僕が高梨の依頼でやらかしたら逮捕された。その後、釈放。僕の身元引受人だったから高梨は無事だった。


 高梨が呼び出された間に部下全員殺された


 そうさせないための過剰武力。


 いくら魔女であってもだ。


 戦えずともだ。避難はできたはずだ。



 ここまで損失を出すものではなかった。



「君さ、人間の価値をなめてるの?」


 僕が責めるほど、縮こまっていく赤メッシュの怪人。恐怖もそう、冷たい視線もそう、呆れた様子もそう。僕が向ける感情すべてに敏感に反応していた。


「この僕が雇用した人間はいらないものだと思った?失っていいものだと思ったの?たかが人間だと思ったの?答えてよ」



 八つ当たりかもしれない。僕は怒りの感情が収まっていない。奪われれば奪われるほど、怒りが増す僕の感情。でも、あながち間違っていない。怪人は人間を見下すのが習性だ。例外は処刑人ぐらいだろう。人間を見下していない怪人はいない。


 院長ぐらいだ、見下されない人間はだ。



「も、申し訳」


 僕がつめたくも、つまらなそうに責めていく様は怪人を震え上がらせていく。あまり罵倒はする気はない。罵倒をすれば、怪人は自分の価値そのものを見失う。創造主である僕の言葉はよく届く。どこまでも突き刺さるし、どこまでも心に残り続ける。褒めれば長く心情を上げ、叱れば大きく下げる。


 赤メッシュの怪人が謝罪しかけた様子に、言葉を挟む僕



「謝れっていってないんだよ」


 感情が徐々に減っていく。こもる意志の強さはなく、ただ責めるだけの僕。あまり圧力をかける気はない。しかしながら今回の失態は僕にあるけど、怪人にもある。



 見下したまま、創造主としての目線をもっていく。頬杖をやめ、両手をふたたび組む僕。上体をかるく前のめりにした形。


 視線での赤メッシュへの抗議。



「何人死んだと思う?」



 感情をなるべくこめず、静かに尋ねた。その言葉に赤メッシュは頭を下げたままだ。だけどもだ。床に向けた表情ははちきれんばかりの感情で支配されているだろう。恐怖と絶望。僕からの叱責は心に来るらしい。



 やがて答える赤メッシュの怪人。



「商人を除いた全員です」


 声が曇っていた。まるで泣くのを我慢した、湿った声だった。この失態は赤メッシュの怪人のせいだ。魔女ペインは強い。非常に強力な魔女だし、赤メッシュの怪人では勝てない。仮にもAランク魔法少女であり、絶滅の魔女と称されるほどの実力者。



 だけどもだ。


 こんな強力な化物が出るとしても、全員の被害が出るはずがない。生き残りが商人だけとはありえない。Dランク怪人がそれを許すほど、実力が低いわけがなかった。商人兼社長と高梨の二人だけを残して全員が殺される。その事実は本来ありえないことだ。


 実際起きてしまったことが、僕への責め苦にもなる。



「気が抜けてたね?」


 強い抗議の目線を赤メッシュへ送る。敵意すら感じるほどの眼光をもって、見下した僕。もはや怪人は気位が保てずにいるようだ。床面をみれば、液体が数滴以上垂れている。僕に対し反論しないのは事実だからだ。


 平和が続けば怪人ですら当たり前という誤解をする。


 人間もそう、怪人もそう。


 生きとし生けるすべてが、当たり前を享受し、それ以上の思考を停止する。



「もういいや」


 回転する社長椅子をぐるりと回し、壁際に正面を向いた。冷めた感じで告げた言葉に赤メッシュの怪人からの気配が変わった。恐怖もあったものが、より強くなっていく。僕の心が別のほうへ向いたのが、怖いのか。


 興味をなくした様子の僕を察したのか。



「申し訳ありません!もう一度だけチャンスを、チャンスをください!お願いします!」



 赤メッシュは顔を上げることなく、僕へ告げた。悲痛な思いすら籠った叫びだ。言い終えた直後に嗚咽すら届く始末。その鳴き事すら僕の感情を揺るがすことはない。大首領となる以上、たかが怪人の泣き言程度に意識など向きはしなかった。



 視線を戻すことなく、背を向け続ける僕。



「み、みずでないでぐだざい」


 ぐすんと涙声の怪人だ。あの周辺勢力を震え上がらせた怪人とは思えない姿。気配だけでもわかる。背後へ横目をむけるだけでもわかる。むせび泣く気配だ。だけどもだ。赤メッシュの怪人は油断をした。



 僕は口を開く。



「地方では油断しなかったのは、いつ攻めてくるかわからないからだよね?東京ではなぜできなかったのかわかる?見くびってるからだよ、構築された社会が安全だと思いあがってるからだ」



 地方は油断をすれば死ぬ。すぐさま弱みをみせれば、殺し合いが発展する。ここ最近安定してきただけで、坂東市の悪も一年前までは敵だった。鵺と八千代の軍事力があるから、周辺がおとなしくなっただけだ。それも警戒を続けたうえでの平和。


 僕たちによって、僕たちが管理する平穏ができた。


 でも東京は違う。


 人々の営みが社会を形成。他人を比較的に傷つけあわないよう意識ができていた。人々の共存意識がベースにあったからだ。悪がその社会ベースを利用し勢力を拡大。基本的な人の営みを全て奪わないような策略が展開されている。


 地方は殺し合いからの奪い合い。


 東京は奪い合いからの殺しあい。


 順序が逆だ。地方は殺されるのが挨拶で、奪うのはその後。だから勝手が真逆な東京は、地方民からすれば平和だった。奪うだけならば、守ればいいだけだ。そんな傲慢さが出てくるほどに、退屈な平和だった。


「東京には東京ではの、怖さがあるんだよ」


 

 圧倒的な強者が東京にはいる。


 人がいる以上、優秀な人間も多くいる。無能な人間も多く入るけどもだ。人かどうかはこだわらず、強者だっているのが当たり前。

 

 その強者が魔女ペインだった。


 強者が攻めてくるのを予測はしていても、いつ攻めてくるかはわからない。八千代の悪名、ロッテンダストの悪名が攻めづらさを作ってもだ。いかれた奴らは手を出してくる。その実態を忘れてしまったのだ。



「人間を見下さなきゃ、こんな失態は起きなかった。だからさ」



 一呼吸を挟み、赤メッシュの失態への興味を失っていく。



「もう君には」


 投げやりな感じで僕は言おうとした。


 期待しないと。


 だけどもだ。赤メッシュの怪人は察したのだろう。この僕が言おうとする言葉にだ。



「がんばりまず、二度とまぢがいまぜん!ずでないでぐだざい」



 傅く気配が変わる。より低くした姿勢。両膝を床につけた気配。がこんと床を叩き、反響が部屋に満ちた。思わず振り返れば赤メッシュの怪人が額を床に押し付けていた。怪人の頭部は堅いため、少しばかり床面が心配なほどだ。


 強く強く床面に頭を押し付け、この僕へ誠意を見せている。



 責める態度の僕と、必死に許しを請う赤メッシュの怪人。



 見苦しくもあるけどもだ。


 怪人は暴走するし、傲慢にもなる。その当たり前が抜けているのは僕も一緒。



 赤メッシュの怪人も悪い。


 僕が一番悪いけどもだ。責任を負っているし、赤メッシュの怪人を作ったのは僕だ。東京のスラムビルに配置したのも僕だ。全部僕の責任だ。その配置した理由は実力があるのと、信頼があったからだ。


 魔女ペインが相手だからこの被害。でも赤メッシュであれば事前に気づくぐらいはできた。油断をせず、常に地方と同じ警戒をしていればだ。ビル内に入り込まずとも、スラムに入り込んだ時点で警戒し避難させる準備ぐらいはできたはずだ。


 全員を守ることはできずとも、何人かは守れたはずだ。


 出来なかったのは油断だ。東京の完成された社会環境が一定の暴力を抑制した。共通した常識が労働や権利や義務などに基づくもの。地方の常識は、殺すか死ぬかの意識。


 そんな環境で生きた怪人に、構築された社会は生ぬるい平穏だろう。


 油断もするに決まっていた。



「僕が一番悪い。でも君も悪い。次、期待していいか迷ってるよ?」



 僕は感情を自然に消していた。冷めた感じに問えば、赤メッシュはさらに平伏してみせた。




「君を信じていいの?」



 僕は静かに問うた。二度目はない。損失は早めに切るのと一緒。損切りを平気でするのが悪だ。赤メッシュの怪人を八千代に戻し、別怪人を専属にするのもいい。最悪、処刑人あたりに担わることも考えよう。あいつなら上手くやる。


 頭でごちゃごちゃと考えていると、赤メッシュの怪人の体の震えが少なくなっていた。握りこぶしを床面に押し込む体制。



 そうして告げられる。



「お任せください!」


 恐怖が抜けていない。この僕を相手に出せた言葉がそれっきりだ。あとはぐずぐずとした涙声だった。あまり怪人を虐める気はない。しかし失態は失態。この僕の物が24人も消されたことが大きな問題。この心の怒りは、次の改善に生かすべきだ。


 失敗を許すのも方針。


 僕はデスクを両手で叩く。


 大きな打撃音がするけどもだ。その音に大きく反応したのは赤メッシュの怪人。それでいて頭を下げたままの土下座状態だ。



 僕は立ち上がると、ゆっくりと赤メッシュの怪人の前に行く。頭上にたつ僕の気配に気づいたか、更に床面に頭を押し付けている様子。


 両膝を軽く後ろに伸ばして、真上から覗き込んだ。相手の顔が見えないけどもだ。手をさし伸ばし、頭を撫でた。



「信用しよう、僕も悪かったね」


 にっこりと微笑んだ。空気を重くした後はフォローする。赤メッシュの怪人が撫でられている形に、ほっとした気配。心に感情が安堵へ急に動いたものだから、涙声が強くなっていた。



 僕は両膝を曲げて屈んだ。黒のコートが床面に触れ、埃がつきそうだ。でも気にしなくてもいい。


 落ち着くまで頭をなでていった。



「大丈夫、大丈夫」


 できる限り優しく言ってあげた。


 上目線でも、実際に立場は上。偉いやつが対等な目線を持ってきた時点で人間失格だ。偉いやつは偉いまま嫌われなくてはいけない。好かれてならない。この僕は好かれる気もない。嫌われる気もない。ただの人間も怪人も興味がない。関心はない。だけども僕の物には真剣に取り組む。


 赤メッシュの怪人は僕の物だ。ティターも僕の物だ。



 死んだ部下24名。これも僕の物だ。ただでは殺させない。こうして生き残るものへの教訓として生かす。死んでも尚消えない。この僕のものになるということは、永遠に記憶に残し続ける。どこまでもだ、いやだといっても消えていかない。


 ようやく泣き止んだ。屈んだ状態で相手の両手をつかむ。僕も立ち上がるのと一緒に赤メッシュの怪人の動きも連動。上体を引き上げた形になって、僕とのご対面。



「綺麗な顔が酷いことになってるよ」


 両手を離し、空いた手で赤メッシュの怪人の涙をぬぐう。綺麗なモデルを参考に作った美貌。それが恐怖と悲痛な涙の狭間でくしゃくしゃだった。もはや僕にされるがままだった。涙をぬぐってもぬぐっても新たに流されてしまう。


 こういう時に言うべきことは簡単。



「僕のために死んでくれる?」


 覚悟を問うことだ。殺す気も死なす気もない。でも僕の物だから、きっと赤メッシュの怪人は言うだろう。涙が流れなくなった。覚悟を決めるために涙を止めた。だけども、ぐずぐずとした様子は残ってる。しかしながら答えに遅れるのは失礼と考えるだろう。



「もぢろんです」


 一部濁音が入ったけどもだ。



「うん、信じるよ」


 涙をぬぐうのをやめて、背を赤メッシュの怪人に向けた。


「あっ」


 名残惜しそうな言葉が背後から聞こえるけどもだ。そんなのも無視して、デスクへ再び戻った。椅子に座り偉ぶる自分。



「君たちに言うべきこと、結城市および茨城統一戦争は院長と協調して行うように」


 両手の指と指を触れて合わせる。その手の隙間が丸を作り、二体に向けた。その手の丸に二体がはまる形で僕は覗き込む。


 茨城統一戦争。


 文字の通り茨城を平定する。フォレスティン、ザギルツ、鵺は手を結んだ。7大悪の二つと地方悪一つ。さすがに見栄えが悪い。人口も少ない下妻、現時点で筑西も支配下。二つの市を合わせても、人口など一都三県の市町村一つに負ける程度だ。だから見下される。


 人口が少なくてもだ、価値のない地方であってもだ。


 領地が広ければ広いほど見栄は出る。


 経済を無視した、戦争重視であれば土地には価値が出る。


 だから茨城を統一し、悪名を一都三県へ轟かせる。


「院長は確証してなくても、鵺と八千代がグルなのを気づきかけてる。結城市を半分求めたのは訳があるはずだ」



 楽しくて仕方ない。愉悦をもって、感情が高ぶる僕。何をもたらす気なのか、何をしようとしているのか。ただの15歳の子供がだ。15歳で成人となる年少引き下げ制度。一都三県では大人になったとしても、僕からしたら子供だ。18歳になりたても子供だ。



「一体何を企んでるんだろう」


 だけど確信がある。この僕の邪魔をする気はないだろう。この僕無しに院長の権力は届かない。あくまで八千代の武力は与えられたものだ。自分の物でない力を上手く駆使して、ようやく本人の価値が生まれる。


 身近にいて、唯一僕の物ではない人間。


 それが院長だ。


 院長は精神的に自立を求めている。力は僕によって与えられてもだ。意志と責任だけは己の手に残している。全部僕に明け渡したほうが楽なのにだ。それをしないのは、本人の強い覚悟があるからだ。


 人間としての価値を、自分の手によって示そうとしている。


 この僕の邪魔をせずに、自分の理想を描く企みを。


 ティターも赤メッシュの怪人も口を挟まない。この僕が楽しんでいるところを、邪魔をする気がない。泣き止んだ赤メッシュの怪人は傅く姿をみせた。ティターは後ろに両手を回して見守るだけだ。



 くるくると椅子を回転させて、僕の視界がくるくると変わる。怪人がいる場面だったり、壁であったり、観葉植物がある場面だったりとだ。



 くるりと回転を止めた。両足を床につけ、人差し指を口元付近で立てた。


「僕が釈放されたことは院長に内緒ね」


 

 悪らしく邪悪に微笑む僕。

 


 幼くも可愛らしい容姿は絵になる。邪悪さ満開でも、見栄えするから素晴らしいものだ。





 同日、朝6時18分。


 舞台は茨城に変わっていく。


 早朝の明かりが空から満たされ始めたころだ。心地よい風が吹く中、市街には雄叫びが響き渡った。戦争の軍靴に似た音、怪人の進撃する足音が結城市に響き渡る。土埃も大きく舞う。森林も縦横無尽に踏み倒しながらの大進撃。僅か数十もの手勢だが、気迫は何万もの軍人よりも恐ろしい。

 

 侵略者には殺意が満ち溢れ、奪うためのためらいなどない。


 その姿を見た者は、慌てふためく。泣きわめく。侵略される側の怪人がもたらす悲鳴。周辺勢力最大の悪が争いを持ってきた。


 知恵者も無知も含めて、戦わずして敗北を悟る。


 誰もがわかる、勝てない戦争。


 鵺の拡大戦争が、こうして始まった。



 

今まで書いた前書き、後書きの大半を消しました。全部は消していません。設定などの記載もしておりますが、いずれ消すかもしれません。消した場合、一話にまとめる可能性はあります








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― 新着の感想 ―
[一言] これは赤メッシュも堕ちたな… やったね鮫鳩!真の仲間が増えたよ!
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