少女でおじさんな悪 18
こいつは僕が雇用した部下を殺したと言いやがった。事実はどうであれ、言葉にしてしまった。それが気に入らない。我儘なんだ。自分の欲深さが、悪となした。悪となるほどに、自分のものに手を出されるのが一番腹立つ。
この状況で屈しない僕。それに対しての疑惑が相手にあるのか。
じろりとした視線が訝し気に向けられていた。
「…殺したか疑ってる?」
思考を読まれていると思うほどに勘が鋭い。実際に読まれたりはしていない。この僕の思考プロセスは通常のものとは違う方式に切り替えている。魔法防御から霊力防御と気力による精神制御などなどだ。様々な手法をもって、全属性の接触を試みなければ覗けない。
「…疑っているなら見せる」
見えない何かが消えた。この部屋を覆う幻惑が溶けたようだった。
その瞬間、死体が部屋の片隅に積まれていた。何十人もの遺体が、相手の背後にそびえたつ。ソファー後ろから全部を死体が埋め尽くしていた。
死体を景色にコーヒーを飲んでいたわけだ
その中には見知った顔もいくつかあった。死体が山積みにされ、それらは物のように扱われていた。
今まで気づかなかった。本気でわからなかった。死体があることに気づかせない。相手の魔法制御は凄まじいのだろう。だけど僕の意識はそこになかった。
スラムの住人たちは何を思って死んだのか。
何も思わず死んだのか。人間の意志や尊厳はどこに残り、消えていったのか。憧憬が頭に浮かんでは霞になっていく。遠くを描くように妄想が垂れ流れて、全部暗い闇にとけていった。
死んだら何も残らない。
その最後は決して誰にも伝わらず、無意味と化した。
理解してしまった瞬間、声がか細いものしかでなかった。
「本当にやりやがった」
空いた手がコーヒーを落とした。体にコップと中身がかかる。血肉の混じった中身が汚すけども、気にならなかった。
人は死ぬ。無意味に容易く死んでいく。
空いた手が僕の両目を覆う。大きくあふれた感情の雫。感情が顔から床へ垂れていく。重力に従っておち、ドレスも床も汚れていく。
「…皆、殺した。…ペインは嘘つかない」
僕の様子にすら何とも思わないのだろう。一方的な言葉だけがかけられていった。ただ追撃するようなものはなかった。
自分のために泣いている。
痛みが強く残り、心がむしばんでいく。失った片手の痛みと左足の先のない感覚。激痛とともに感情が高ぶっていく。
悲しみはなかった。
僕の失った人体と部下の命たち。これらを天秤にかけられ、自分の無力さだけを突き付けられた感覚。重みだけを背負わされた形に屈辱を感じていた。
そんな様子を相手は別のものを感じ取っていたようだ。
「…弱かった。…人はこんなにも弱い…醜くあがいて生きようとする…ロッテンダスト…あなたも同じだと思った…でも違かった」
関心の声だ。この僕が顔を隠している間にだ。それらを肯定するような口調。僕が泣いた理由なども知りやしない。
悲しみで涙を流すことは絶対にない。
他人のためになく涙はとうに枯れている。
「…あなたは強い。…痛みにもたえ、強敵にたちむかう…弱者のあがきは極めれば芸術だった…芸術は美しい…美しいは強さになる…だからあなたは強い」
賞賛と共に無垢なる殺気が飛んでいる。
「…ペインの頼み聞いて…聞けばあなたは殺さない…」
敵である少女、ペインもわかっている。だから相手はそこに触れてこない。良くも悪くも僕とこいつは似た者同士だ。頭がいかれているし、一気に状況を優勢に保つ力を持っている。
僕は何も答えなかった。
無言のまま沈黙が続いていた。相手が様子見をし、カップ越しに視線を向けてくるのを感じているだけだった。ただ僕の口元だけが動いている。小さく隙にならないようにだ。
小さく、聞こえないように告げる僕の口。
「…‥‥‥くすむ」
相手が顔を上げて、僕のことをソファーから監視する。小さな声にも反応するほど耳が良い。だけどまだ待ってもらう。顔を隠すのをやめた。
涙交じりの顔を相手に向けた。口元を抑え、苦悶によるものをぶつけていた。ペインは監視の目を消すことはない。
「…ペインは気が短い。…時間効率を考えて」
若干の苛立ちを見せる相手。コーヒーもなくなったのか、カップをテーブルに置いた。
強者は常に自分勝手だ。
僕もそう。
か細い声での言葉は止めない。僕は決して最後まであきらめない。
「…塵となり‥‥溶…」
じろりと見つめ、やがて興味をなくしたようだ。
「…あと3秒」
ペインが強く願いの答えを要求してくる。眠そうな顔のくせに、どこまでも上に立つ。
「‥‥‥‥器を作り出した」
人の失敗を馬鹿にしたやつらを思い返す。なぜ今頃になって思い出すのか定かじゃない。
人を少しでも見下そうとするのは無能の証拠。叩くだけしかできなく、何ら生産力ももたない。生産するものを、第三者視点で意見をいい、否定だけ残していく。
僕は気に入らない。全部上から目線で否定する奴らが。
弱者のあがきを、努力を見ずに否定するだけの奴らがだ。必死にあがいて輝こうとしているのにだ。その小さな失敗は歩みとなって、先へ先へ進みだす。
「…0秒、ダスカルを殺して」
決定済みのようにペインが告げる。片手をむけていて、殺気を僕に向いている。見えない位置の敵ですら攻撃できるくせに、わざわざ片手を向けるのは一体何なのか。
僕は顔を小さく縦にふりかけた。その様子に無言でうなずこうとした瞬間だ。
「世に生まれいずる」
最後の呪文は大きく声にだし。
相手がはっとしたように殺気を飛ばす。僕へ迫りくる見えない死の一撃。必死に魔力を抑え、感情を弾圧したことによって、呪文は形をなした。
「その名はダスト!!!」
灰色の液体が頭上に出現。小さな液体でボール一つ分程度のサイズ。すぐその場所に手を伸ばして一部分を変化させた。無事なほうの片手を突っ込み、ドレスの黒袖が変化。灰色の軍服の袖となっていた。
殺気が届く瞬間、発砲音が響いた。マッド加工をなされた黒鉄のリボルバーが煙をはいていた。
発射された弾丸は、見えない一撃を迎撃。こちらに届く前に相手の攻撃を破壊した。
見えない一撃を破壊したあと、なお勢いは失わない。貫通した弾丸は相手の片手を弾きとばした。攻撃をいとしたペインの手はつぶれた果実のようにはじけ飛んでいた。
相手は呆気にとられた顔をしていた。
その直後に僕の体が発光し、体の真上に灰が姿を現す。黒炎が鎮火した際の灰の塵。それらは僕の魔力粒子が形をなしてできていく。すぐに塊となっていく。灰の塵が誰の手も借りず、粘土のようこねられていった。混ざった塵は液体のように溶けだし、僕の体を包み込む。その変化を先に訪れさせようと、小さく完成形をもってきたわけだ。
体全体を包み、変化させた。その際、失った片手は姿を取り戻し、左足は新しく生えていた。
灰色の軍服、太もも部位が膨らんだ軍服のズボン。脛まで伸びた黒の軍靴。腰に巻かれた黒のベルト。その左側にはリボルバーのホルスターが一つ。ダストフォームへ変化した。
その姿を凝視するペイン。
僕は激痛が病み、ようやく涙が止まる。
誰かのためになく涙はない。
痛みさえなければ、決して泣くことなどない。断じてだ。強い意志をもって、僕は銃を発砲する。一発、二発と立て続けに発砲。弾丸の狙いは相手の顔面だった。だけども不意打ちは許しても一撃目は軌道がそれた。相手が何かしたようにはみえないけどもだ。だが外れた。
命中がそれたわけじゃない。
二発目も同様だった。
すかさずに3発目を叩きこむ。4発、5発、6発、7発。弾が切れるまでに何度もシリンダーが回転し、撃鉄が落とされていった。何度も打っても何度も軌道がそれる。だけども最後の7発目だけは効果をなした。
肩口にぶちあたって吹き飛ばす。驚愕と苦痛が入り混じった相手の表情。肩の大半をえぐりとる。ただ貫通はしていない。どこかしら防御によって緩和されている。
「リロード」
ようやく溜飲が下がった。弾丸補充のための魔法を唱え、すぐさま立ち上がる。一気に肉薄し、一転した回し蹴りを叩き込む。だが回し蹴りが相手をつぶすよりも先に止められた。見えない壁が僕の蹴りを受け止めた。
破壊エネルギーが吸収されるような弾力。ゴムのようにも思えるものは魔法だろう。
「…ペインの魔法防御を貫くなんて」
相手が肩を抑えながら苦し気に言う。見えない殺気が一撃、受け止められている足に届く。だが肉体戦闘特化のダストフォームに生半可な一撃は効果をなさない。骨がぐきりと悲鳴を上げる程度ですんだ。曲がったりもしていない。
足を降ろすのと同時に別の足の上段蹴り。破壊を残さず、見えない壁に遮られる。一撃、二度も防がれたが問題はなかった。見えない殺気の正体をなんとなくだけどわかってきたからだ。
見えない壁も、一撃も全部、ダストフォームならば耐えられる。
銃弾の補充が終われば、即座にぶっぱなす。手にしたリボルバーを至近距離での乱射。数発はそらされても、一撃は必ず当たる。相手の魔力のひずみがどこかしらに生じ、そこを狙っていけば簡単だった。
そのひずみの場所が左足付近だった。
だから貫いた。弾丸が相手の筋肉などを吹き飛ばし、太ももから先を消し飛ばした。血肉が舞い、相手はソファーからのけぞった。魔法防御のおかげで敵の体で衝撃が分散する程度。
僕が先ほど受けたように、床に転げ落ちたペイン。
「リロード」
相手が倒れたからだがうつ伏せだった。床と体の隙間に足を入れ、ひっくり返す。そのまま踏みつけて殺害しようとしたが、やっぱり見えない壁に防がれた。頭部を踏み抜こうとした足が受け止められてしまう。
ペインは僕の靴裏を見て、嗤う。
「…いい」
嗤ったまま、僕を凝視する。敵視、敵意、殺意、殺気、凶器にも思える嘲笑を相手が浮かべていた。僕も知らずか嗜虐性によっての嘲笑をうかべていた。
「痛みがお好きならくれてあげるよ」
「…痛いのは嫌い。…でもペインもしたことをされただけだから、問題ない」
そういって逡巡が互いに始まった。探り合いだ。
殺そうとする僕に対し、見えない一撃がアプローチをしてくる。上半身から下半身。顔から肩から指の一本一本に至るまでの破壊エネルギーがあった。全身激痛が走るが表に出さない。指が一部折れて、爪が急にはがれだしてもだ。
両目を破壊しようとする一撃。それはリボルバーでたたき落したりもした。
「…見えるんだ、ペインの攻撃」
「勘」
関心と感嘆が相手から届き、にげもなく短い言葉で応じた僕。見えるわけじゃないが、ダストフォームは感覚も強化されている。
「…ペインの攻撃気づいた、ロッテンダストすごい。…あなたのこと、ペインも気づいたことがある」
その瞬間、僕の体が大きく吹き飛ばされた。破壊されることはなくてもだ。体全体を狙った押し飛ばしがあった。吹き飛ばすエネルギーは防げなかった。
「…危害さえ加えなければ、ペインの攻撃は届く…その姿の特徴をつかんだ」
だが吹き飛ばされる直前、回復した弾丸を何発かお見舞いした。シリンダーの回転に撃鉄が追従。相手の腹部を大きく貫通させたものの、それだけで終わっていた。
一瞬、見えない何かが弾丸にまとわりついたのを確認した。それによって弾丸本来の一撃が弱まったんだろう。
それを確認する前に僕が壁に大きく叩きつけられた。一部の壁を破損させ、きしみが発生。部屋全体を揺るがす衝撃となった。壁にたたきつけられたあと、重力に従って床に転がる僕。
痛みはない。すぐに立ち上がろうとする。
「…反魔法の弾丸。…魔力を媒介にした呪力の力…通常の魔法少女とは異なる構造」
ペインが嗤う。嗤って僕を見た。床に転がるペインは僕の姿と攻撃手段を分析したようだった。反魔法の弾丸。魔力を介した呪力。魔法少女なのに、魔法少女とは違う構造。全部くみ上げた秘密が一度の邂逅だけで抜かれていく。
「…ロッテンダスト、その姿、何のために作ったの?」
「魔法少女が姿を選べるとでも?」
皮肉気につげれば、相手は眠そうな瞼を開く。
「…その姿は、自然発生する魔法少女とは違う…人工的に作り上げられた姿…」
お互い床に転がりながら、相手を凝視する。僕はリボルバー、相手は殺気。いつでも互いに攻撃ができる準備を静かに整えていた。
この姿は相手の言う通り、人工的に作った姿だ。
既存の魔法少女とは違う、別種のアプローチからなる姿。
「…怪人相手じゃない。…人間対策。…魔法使い対策の姿」
ペインが一部の真実に気づいてしまう
この姿は怪人相手に作ったものではない。
人間相手、しかも魔法少女対策に作り上げた姿だ。
それを僕は肯定も否定もしない。返事は銃弾だった。相手に構え、引き金を引く。相手の殺気が引き金を引いた僕の指をねじまげた。激痛が生じ、歯を食いしばる。だけどもだ、二回ほど硝煙が発生。相手の体を一度のみ届く。二度目は届かない。
狙ったわけじゃないが、相手の無事なほうだった手。半分ほど消し飛んだ。
「…お互い、実力は一緒。…殺し合いはお互い得意。…ペインは魔法勝負なら絶対負けない…でも、魔法じゃないなら意味ない…」
ロッテンフォームでは手も足もたたず、殺される。ダストフォームの高い魔法耐性だから、たえている。魔法防御力、肉体防御力。とくに魔法防御に趣をおいた姿がこのざまだ。
「実力が同じでも、お前を殺してやる」
殺意だけは負けていない。実力が同じであってもだ。憎悪のものだけは本物だ。忌々し気に睨みつける僕と、微笑むペインの狂気。
「…殺したのが憎いなら…こうする」
ペインは視線を横へそらす。僕を相手に大きく動いた視線。その隙を狙わないわけがない。指がねじまがった以上、逆の手にリボルバーを持ち替えた。そのまま照準を相手に合わせた。
その瞬間、横から気配がした。
死体の山から動き出す気配。
先ほどまでなかった動きに、一気に視線を持っていく。
死体の山。その頂上の山から一人がゆっくりと床におりてくる。寝ぼけたような表情。まどろみの中にいるかのごとく、何人もが下りてきた。
「…蘇らせれば、恨む理由はない」
まどろみがさめ、死体から戻った人間はゆっくりと意識を取り戻す。この僕が大きく目を見開き、口が何度も動く。
「あれ?」「ここは?」「俺は一体」
意識を取り戻し、自分のことを認識しだすものたち。僕の部下が殺され、よみがえる。その一部始終をもって、心が揺れた。それは悲しみでもなければ、喜びでもない。
憤激のものだった。
元死体が、僕を見た。
見知った顔に緊張が走る様子。僕をみれば、部下たちは緊張し、目立たないようにする。それが再現されていた。
「ロ、ロッテンダストさん」
その様子に僕は銃口を向けた。元死体であって、部下たちにだ。
「は?」
誰の困惑かはわからない。目を開けたまま、歯を食いしばる。その際口内を思いっきり噛んだ。口中ではじける鉄の香り。
引き金を引いた。
部下の頭が飛んだ。直後に灰化が訪れ、人体は塵となった。その凶行によみがえったばかりの部下が反応に追いつかない。気づいた際には大きく悲鳴をあげた。命乞い、僕なら平気で殺すと思われている。だから命乞いをし、その凶行を防ごうとする。
本物だ、間違いなく本物がよみがえった。
だから殺す
全員が両手をあげ、悲痛な表情で助命を願う。その姿を頭に刻みつけながら、殺していった。逃げようとしたものもいた。背後から頭を吹き飛ばした。弾丸が尽きたころに部屋は静まり返った。
全員が弾丸の呪力効果によって灰と化した。
「リロード」
補充用の魔法を唱えて、シリンダーに魔力が充填されていく。
「…せっかくよみがえったのに」
ペインが残念そうに言う。だが感情は一切こもっていない。
「貴様」
出てくる言葉は冷めていた。
だけども内側の感情が高ぶり、憤激が支配している。大きく眉をよせ、目を見開く激情。この僕が自ら部下を殺す屈辱。恥辱以外の何物でもない。何故自分が雇用し、教育の手間とコストをかけた人間を殺さなければいけないのか。
「ただじゃすまさない。爪をはがし、歯をけずり、眼球をえぐり取って未来を見えなくしてやる。皮をはいで、筋肉を繊維ごとに裂いてやる。内臓を一つずつ潰してやる」
頭から出てくる拷問の数々。激情が僕を残酷なほうへ追い込んでいく。その様子に呆れた表情を見せたペイン。
「…ペインはよみがえらせた。…元に戻した。…殺したのはそっち」
抗議の目がとび、僕が怒りのあまり頬をひきつらせた。
「あれが蘇ったとでも!死体に魂だけを戻しても定着なんてしない。一度離れたものは、二度と同じようにならない!あの死体はいつまで仮初の命を残せた!!」
「…半年はもつ」
蘇っていない。死体は蘇らない。奪った命を偽りの命で紡いだだけのもの。偽物の魂が、死体に宿り、脳の記憶を再生する。脳があるから本物そっくりに動くし、記憶もあるから同じようなもの。その際にも暗示が込められている可能性。魂を入れる作業には支配する作業が含まれる。魂を握れば、全て筒抜けだ。
自覚なきスパイ。本人のようにふるまい、周囲の信頼を得て、魂の支配者に流出させる。
しかも本物の魂じゃないため、短い期限があった。
それが僕の見た推測通り、半年だった。
半年後、死ぬ。
突如死んで、困惑したまま命を負える。その姿をみたものはどうなるか。混乱だ。よみがえった命たちが、死んだものを見て、攻撃を受けたと勘違いするならいい。でも、寿命が短くなると人間は悟ってしまう。
本当は自分が死んでいたと自覚するもの多数。本人が自覚しなくても気づいた奴が情報を流す。実は死んでいて、生き返っただけの死体。そんな風評が作られ、生きているものにも風評が感染。疑心暗鬼になっていくことだ。疑心暗鬼で満ちた環境は己も信じれない。他人なんてもってのほか。
その中で死んでいく辛さ、生きていく恐怖。
「半年だけしかない!」
かみしめて、睨みつけた。奪うのは勝手だ。殺すのも勝手だ。
この僕の所有物じゃなければ、だ。
怒りを受けても尚、変わらない相手の様子。
「…半年も生きられる。…死ねばおわり。…終わったゲームが半年も続くなら幸せ」
ペインは価値観が違うようだ。僕は違う。いかれた奴でも、いかれ方が違うようだった。その場で死んでいくか、延長戦で半年生きるか。残された命が長くなるならそのほうがいい。
数字でしかみていない人間の考え方だ
「気に入らない」
僕の部下は数字ではない。数字を作るのに、利用はしていた。だけども損得基準で雇ったつもりは一切なかった。
蘇った命は偽物。
半年だけなら本物。
それがいかに地獄か。
本能が悟り、周囲を巻き込んだ混乱を作る。暴挙にはいたらないが、死んだものと生きている者の格差をかみしめて、絶望に浸る。生きたいのに死んでいく。殺されなければ、蘇らなければ、希望を抱かなかったのにだ。
静かに殺され、蘇れば、睡眠と変わらない。
寝てただけなのに、半年後急に命が消えるなどだ。
恐怖以外の何物でもない。
部下がそれを味わうのが気に入らない。
嫌悪感をむき出しにする僕。ペインが呆気にとられたようだ。その他大勢がどうなろうと知ったことじゃなかった。
かかわる人間を重視し、それ以外なんてどうでもいい。
その傲慢さが僕を悪の道に進ませたわけだからだ。
ペインが嘲笑し、僕は笑えなかった。
「…命を粗末に扱うのはお互い一緒」
怪人も人間も命は一緒。それを甚振る僕が言う言葉ではない。自覚しているし、改善はしない。
「自分がしているからといって我慢はしない。他人の我儘なんてクソくらえ」
お前は僕の物を奪った。悪は非常に傲慢だ。
「矛盾を抱えていいのは生き残ったものだけだ」
そう最後に残した。リボルバーを構えた。相手の顔面に照準を合わせた。
補充された弾丸をもって、攻撃の意図を示した。
「…そうみたい…」
どこか執着のような目線。僕をみて、獲物をみるような目つき。それらに応じるのは無骨なリボルバー。
「…ロッテンダスト…あなたもペインと同じ」
その仲間を得たような、親近感を相手は見せてくる。演出なのか不明。弾丸が発射される直前。
「…地獄を見てきた。…だからそうなった」
狂気によって、こういう存在となった。僕もペインも互いに抱える闇は似た者同士。
僕は悪になった。
ペインは悪魔と化した。
僕は相手の正体を知っている。
「絶滅の魔女」
Aランクの魔女。魔法少女がAランクに達した際に付けられる称号。それが魔女だ。変身せずとも生身で魔法少女として同化した天才。人類に対し最も脅威を与えた人間。
人間殺害数291万。細かい数字はわからないが、おおざっぱな殺害数がそれだ。
そのくせ殺したことを誰にも悟らせていない。隠蔽技術も攻撃手段も正直見えない。
犯罪データーには何も残さず、人を殺していく化物。魔法反応もなければ、躊躇うことすらない。狂気の化け物だ。
犯罪データには残らずとも、おかしな点多数。一都三県での不審な事件事故。
民間企業が情報収集し、公開した。オカルトとして称されるほど、不審な事件事故だった。突然死、突然の魔物や魔獣の襲撃。突然の爆発などだ。これを人為的として考えるには、周りに何もなかった。仕組まれた形跡も仕込んだ罠もない。証拠もなければ、犯人と思しき人物もいない。
そんな不審な事件事故の数々。
それらが人為的なものであると院長が疑いをかけた。その疑惑こそ、調査のキッカケとなった。鵺の諜報機関と八千代の人間タイプの怪人による調査。その調査結果だけを院長に渡し、分別。様々な事件事故の中での共通事項。
それには犯人の証拠がない。
魔力痕跡もない。不審すぎる点が、逆に共通項となった。
何もないのを基軸に調査。やがて鵺が、鵺の処刑人が一人の存在を嗅ぎ当てる。人間側の闘争の最中に一人行動する人間を発見したからだ。
それが魔女の痕跡。魔力痕跡もなしに、人を殺しつくす悪魔。天才的、悪魔の所業。不審な事件、事故が、何もないという点でつながった。そして現場には魔女ペインの姿が始終であった。特徴と証言は人間によるものでない。
犯行現場の魔物や魔獣などに尋ねた。その言語を介して伝わった。あとは言葉の特徴のみで詳細を作った。
そんな手間をした理由は簡単だ。調査に人間は使えない、現場の人間は殺しつくされる。監視カメラなどの文明にも映らない。数少ない事件の中には、全部壊されたものもある。記録媒体すら全部壊された事件もあるが全部じゃない。
残ったのが現地の魔物と魔獣だった。
死体が出るのは一緒なだけだ。証拠が何もないだけだ。それ以外共通項がなく、事件事故の同一犯の犯行とは思われなかった。
そんな不審な事件事故も一時を境に減っていった。
新興組織ザギルツの台頭。ダスカルの出現によってだ。これによって魔女ペインの動きを制限していった。ザギルツの拠点地域には手をだせず、また侵略地域にも顔を出せなくなった。
ザギルツは一都三県を侵略目標にしている。だから一都三県にはザギルツの怪人がよく出現し、ダスカル自身も姿をあちこちに出す。それがペインの凶行を防いでいた。知らず知らずとはいえ、一都三県の延命につながった。
「…ダスカルを殺せ」
間の空いた言葉のくせに、強い命令は殺意としてむき出した。
魔法少女でも、Aランクの魔女でもだ。ダスカルは天敵だ。魔法そのものを受け付けない体質。それでいて強靭な大怪人だ。魔法が使えない、魔法使いなど的でしかない。
「ダスカルは殺さない、お前が嫌がることを全力ですることにした」
ダスカルが死ねば、ペインが動き出す。他の悪も動き出すが、こいつが陰で動き出し、虐殺を開始する
僕が牙をみせ、悪意をむき出しにする。その姿をみた相手は恍惚とした表情をもって出迎える。僕の反応が行動が相手の思惑に沿ったようだった。
「…よいお友達になれそう」
そして引き金を引いた。吐き出される弾丸は破壊をもってペインへと迫る。それらを目で追いながらペインは小さく微笑んで見せた。
大きくぱんと手を叩いた。突如として相手の体が霧状になって薄れていく。ようやく姿をみせる魔力の痕跡。相手が魔力を表にさらすころには、本人は消えていった。
本人の消えた場所に弾丸がたどりつく。狙った敵は既にいない。
空を切り壁を貫いた。破壊される壁面、貫かれた箇所から大きな罅が入っていった。
姿はこの場になく、残るのは言葉のみ。部屋に満たされる、声の響き。
「…ダスカルは殺してもらう…でも、今はいい。…お互い仲良くなったらでいい…社会に死を…人類に死を…一都三県の崩壊を…共にしよう…ペインとロッテンダスト…二人ならできる…友達として…全部滅ぼそう」
その執着にも似た喜色のものが、僕の背筋を逆なでしていった。寒気とともに吐き気すら覚える。敵に気に入られた。その感覚が、理解できずに頭を混乱させていった。
「ふざけるな!!!!」
大きく絶叫し、僕は怒りの矛先を失った。リボルバーの照準を上下左右。前後にいたるまで振り回して探す。
「逃げるな!お前には受けるべき報いが!!!」
この僕の叫びは届かない。敵にもだ。死体の山にもだ。誰にも届かず、祈りすら与えられない。懺悔もない。祈る神は僕にはない。自分の力だけが信頼できるものだ。
「っ」
怒りが、激情が捨てたはずの悔しさが、雫となって頬を垂れていった。リボルバーを落とし、床に金属音が反響。視線を横に向け、部下の死体たちを見る。塵を集めた山のように、適当にあつめられていた。
「くそうっ」
それを見た際の感情は高まっていった。
誰かのためになく涙は枯れている。
誰かのために感情は動かせない。そんな風に壊れてしまった。
死体を見ても感慨深さはない。部下に思い入れはなかった。死ぬことへの重みもない。僕の人生じゃない。他人の人生でしかなかった。部下たちへの感情などそんなものだ。
僕は自分のことしか考えれない。
そんな欠陥だらけでも真剣だった。部下を切り捨てる気は一切なく、普通の生活基盤は与えていた
人は文化的に、文明を享受して、生きる義務と権利がある。
人間としての普通。働いて、遊んで、食べて、飲んで、寝る。こんな小さなことを保証していた。手に入るよう配慮していた。これは嘘偽りのない願いだ。仕事があって、教育コストもかけて、住処も与えた。
給料も搾取はしているけど、スラムの人間がやり直すことを思えば高いほうだ。忘れちゃいけない。マイナンバーで管理された経歴。その経歴がある限り、人は這いあがれない。弱者は弱者。強者は強者のまま管理されていく。
普通が手に入る大切さ、重要性。
普通をスラムの人間に与えたのは僕だけだ。
本気で部下に関わっていた。どんなに僕が欠陥人間でも、真剣だった。その返事がこのような結果になるとは思わなかった。予測はどこかでしていたけどもだ。実際には予測が外れるよう動いていた。
思いの行きついた先が、部下の死。本気の思いは死が返事となった。
これらに、複雑な感情が心を暴れまわる。渦巻く激情が胸をはりさけていきそうだった。胸元を内部から貫き、外へあふれ出そうとする。その自分の感情を必死に抑えて、堪えた。
僕の気持ちの置く場所はどこにもない。考えるのをやめようとしても、どこからともなく溢れてくる。その思い事しまえる場所はなかった。自分だけの逃げ場所なんて、自分の中には存在しなかった。
周りになんて尚更頼る気などなかった。
誰にも愚痴れず、誰にも共有できない。
だって悪だ。弱みをみせれば奪われる。狙われる。常に強者で外道でなければ、牙をむくやつらばっかりだ。
わかっていて、抑えきれなくなっていた
この悲痛な思いは何なのか。胸を突き刺す痛みは何なのか。視界をにじませる涙は何なんだ。悔しさが、自分の傲慢さがむき出しになる。僕は悪だ。外道魔法少女だ。他人のために涙はない。
己の弱さに涙を見せた。
その弱みは殺意となって変換されていく。その元凶を激しく憎悪する。そうして変換しなきゃ、本気の思いに意志が壊れてしまう。心は壊れていても、意志だけは壊すわけにはいかない。
「絶滅の魔女、ペイン!!!」
誰かのために魔女を殺すのでない。
僕が僕であるために、魔女を殺す。その決意が殺意となっていった。




