少女でおじさんな悪 15
「国の食料自給率はご存じか?」
強化ガラスの壁が前に張っていた。強化ガラスにいくつか小さな穴があけられており、その土台はテーブルのように小さく広がっていた。そのガラスの前の向こうに人が座っていた。
それが中年男性だった。その男が僕に問う。前髪が後退し、額についた幾つもの皺。肌自体は40代半ばだろうが、人生の苦難が物語る皺の数。頬杖をつき、両手を組んだ男は、眼鏡越しに僕を静かに見据えた。
「国?そんなもの残ってたっけ」
問われたことに答えず、のっけらかんと鼻で笑った僕。一都三県による代行政府は国ではない。国の真似事をした、偽装国家に過ぎなかった。
都軍、取調室。いや、都内の警察署をそのままリフォームした再利用。だからもとは警察の所有物だったものだ。ただ現場の人間がおらず、指揮系統の管理職のみだけしかいない。
形だけの入れ物だ。
ただの箱を、都軍が利用していた。
狭い部屋はリフォームされ、より多くのものを置けるようになった。ただ、デスク代わりにあるガラスの土台が一つ。その上に小さな照明は変わらない。周囲に配置するものが変わった。
部屋の全方位から囲む設置の銃器。この部屋はリフォームによって丸形に作られている。部屋の外周を囲む形で銃器が置かれていた。
機関銃が取調室の中心を狙うよう向けられていた。そのくせ同士討ちしないよう強化ガラスもはられていた。外周に銃器が設置されている以上、強化ガラスもまた同じく設置されている。
強化ガラスに大きめの穴をあけ、機関銃の銃口だけが外にさらされる。ガラスの内側には兵士たちが機関銃の横に待機していた。
僕がいる場所はその中心だ。
ただ一部銃器が設置されていない場所。
丸みを帯びた部屋で唯一突出したガラスの壁。突き刺した刃物のように突出し、野蛮なハート型の割れ部分によく似ている。その割れ部分、中年男性がいる場所のみが銃器の設置はなかった。
射線上には入っていても、分厚くできている。その他部分よりもより厚みがあるのだろう。既存の科学技術だけじゃない。魔法がかけられている気配があった。
物々しい取調室の中、周囲の人間が見守る中僕たちは語り合うのだ
正気じゃないだろう。僕はニタニタ笑っていて、相手はこちらを注視しているのみだ。
「君も一都三県は国家じゃないと思うか?」
「国家は国民を切り捨てないからね」
固唾をのむ一同。一都三県同盟は、血塗られた過去がある。その一つに国民を犠牲にしたものがある。色々なあくどい手を考え、実行した。
あまりにも非情な選択と手段で生存した。その歴史は抹消しようにも消すことはできない。だけど責めることも難しいだろう。生き残るためには何か犠牲が必要だ。
だけど犠牲が必要だからと言って、払ってしまった時点で、政府と認めない。
必要だから捨てるという事実は正しい。正しいが間違っている。少数の人命なら事故。巨大な被害者数であれば、それは過失だ。
倫理的、道徳的にもわかりきったことだ。血塗られた過去を後世に残すこともしないはずだ。僕ならしない。
その過去を知る僕は皮肉気に伝えたわけだ。
相手が溜息を吐いた。それでいて、僕を静かににらんだ。
「一都三県は国家だ。その前提で尋ねよう、国家の食料自給率はご存じか?」
「一都三県は国家じゃない。前提自体が無意味だよ。でも答えてあげる。52パーセント」
中年男性は代行政府を国家とし、僕はあくまで代行政府でしかないと否定する。前提条件すら会話に入れず、だけども質問には答えた。
訝し気に見る相手の表情。
僕は真っ向から皮肉気に迎え撃つ。
しかしながら相手が小さく首を横に振った。振った後、僕に対し口を開く。
「1年前の食料自給率が52パーセントだ。今では46パーセントになっている」
「へえ、農家が減ったのかな?それとも土地が減って生産ができなくなったのかな?どっちにしても大変だね」
食料自給率など1年前に適当に覚えたものだ。現在に至るデータまでは頭に入ってなかった。そのため知識不足が僕にもあった。
相手の知識は本物かはわからない。
だが相当の自信があるのだろう。
嘘だとは感じない。僕だって余計なことしか覚える気がない、変な人間だ。知識が偏っていることを認め、相手の言葉に耳を傾けることにした。
「全部だ。農業事業者も減った、土地も減った。理由はわかるか?」
「勿論、新自由主義による価格の振り幅が違うからかな、土地も悪や魔物や魔獣などに奪われたのもそうだよね。自己責任と経歴社会、国民一人一人が効率主義を掲げ、自分の実績だけを優先した結果かな?」
農業はもうからない。土地の管理という手間、食料生産したところで価格が下がることが多数。上がることがあっても一時的。必需品のくせに価格管理もされず、市場に流された結果だ。搾取だけが進んだ。いくら作っても、生産者に利益があてられず、中間が搾取した。販売側が搾取した。
作るだけしかしない農家は資本家の奴隷となった。
また学業や経歴社会といって、効率主義が人々に根付いた。そのためか食料は必需品であっても、生産は誰かに任せた。
僕の言葉に眉を細めつつも、頷いて見せた。
「そうだ。農業は大変でありながら、旨味がない。学ぶ手間と時間を考えれば、他のことのほうが金になる。社会全体が自己優先になったことの弊害だろう」
「しょうがないさ、誰だって使い捨てられたくない。他人を使い捨てて、自分はオリジナルになりたいからね」
農家は必要であるけど、誰でもやれるという考えがあったからだ。
もちろん様々なスキルや努力が農業にはある。あるけどもだ、その手間とコストをかけてやるリターンが一切ない。
負担というリスクしかなかった。
土地をもてば税金だってかかる。生産するのにだって肥料も必要。害虫や気候にも気を付けなければいけない。農業機械だって必要だ。その燃料だってそうだ。
円のインフレによって、必要物資の値段だけが上がるけども、価格転嫁はできない。市場が求める値段と農業事業者が求める価格は大きくずれていた。
手間と時間がかかるわりの、見返りは何もない。
搾取されるのに、誰がするのか。新自由主義は農産物の管理の撤廃をした。市場全体の値段を管理し、事業者を食わせるよう調整した組織は今やない。農家に金を貸し、価格調整や危機の際の補償をする組織は解体されたからだ。
効率主義が、自己責任が、新自由主義が、全部を変えた。人々の意識は高まり、学業につける優れた家庭は農業などさせなかった。学生は徴兵制から免れる以上、その時間を使って特別な自分を作ろうとするからだ。
自分は価値あることを実践して、学ぼうとした。とってかわられないよう、己だけのスキルを手に入れようとする。
素晴らしいことだ。かつての社会が求めた必要な人材という定義にのっとったわけだ。
中年は僕を強く睨みつけながら、再び問うた。
「誰のせいか?資本家のせいか?企業のせいか?一般人のせいか?ロッテンダストどう思う?」
だが自分が優先すれば、他人も己を優先する。
だから国家の食料生産率は下がった。みんなの意識が素敵な効率主義に染まって、自己責任が失敗を許さない。その風潮のおかげだ。
「誰も悪くないよ?」
個人は悪くない。時代の流れに乗ったまでだ。
誰だって活躍したいし、切り捨てられたくない。自己責任という風潮が、失敗を許さない。許さないのだから、方向性を決め、大切な人生を割り振るのは当たり前。
資本家も企業も一般人だってそう。
誰も悪くない。
悪いのは国政だ。だけど国はないから、代行政府の政策が間違っていたことに他ならない。だが僕はそれを口に出すことはしなかった。含み笑いを見せながら、両手を小さく広げた。
「政治が悪い」
すました顔で告げた僕。その言葉に眉を大きくひそめた。口がぴくぴくと動く中年男性の様子を見ながら僕は語った。
「もしかして自己責任っていうつもりだったの?偉い人の思惑通りに動かない、庶民のせいだとでも?いやだなぁ、偉いやつが悪いに決まってる。なぜ下の人間に押し付けるんだろうね、どう考えても政治の失態じゃないか」
社会の失態、政治の失態。経済政策の失敗がデフレを呼んだ。物の価値が下がり続け、賃金が下がる現象だ。かつて新自由主義をこの国に蔓延させた際に発生した病気だ。国の経済にはびこるデフレは、国民所得をことごとく低下させた。
「自己責任が蔓延したら、誰だってリスクを取らないよ?馬鹿じゃないの?」
煽る僕と青筋を立てる中年男性。国家が失敗を許すから何とかなる。働けなくなった際の補償から老後の保障も全部そうだ。
今じゃ民間企業がメインだ。代行政府がかつての福祉をしようとしても、民間側が叩くだろう。仕事を奪うなと。また政府側も財政問題がある以上、福祉に金を出したくない。
失敗すれば終わりだ。
「それでもやるべきだった。皆が一丸となってな」
中年男性が怒りを鎮めようと、必死に己を宥めている様子。その中で落ち着いた声を出していた。
「一丸となってやればって、余裕があるやつの言葉じゃん。皆時間もなければ、金もないんだ。余裕なんてどこにもないよ」
所得が減れば、消費が減る。また精神的に圧力がかかり、心から集中力を奪う。しかもデフレによって皆が消費を減らし貯蓄に移行。貯蓄に移行した結果、金が市場に回らない。回らない金は口座にためこまれ、実質的に死んだ金となった。
小馬鹿にする僕の態度。強く意見を押し通す中年男性と皮肉気に笑う僕。
「無理、無理さ。年上を救うために若者を捨てた。前例、氷河期世代を思い出しなよ」
「…氷河期世代を持ち出すか」
苦い顔をする中年の様子を観察。軽々な様子の僕とは対照的だ。
氷河期世代とは、政治の失敗によって生み出された被害者たちだ。氷河期世代が成人し、社会へはばたこうとする頃の時代。新卒主義が当時の主流だった流れに、新自由主義を持ち込んだ流れ。元々小さな新自由主義はあったけれど、その中でも大きな流れを生んだのが氷河期世代の時代だった。
それにも理由があって、バブル崩壊後の経済とは順調ではなかった。順調ではないけども、一応立ち直りかけてはいた。ただし、企業全体が大幅な利益減や先の見えない不安からの消費抑制。
その中での有名な出来事。増税だ。
消費税増税ともいう。3パーセントから5パーセント。様々な施策がとられたが、バブル崩壊の傷がいえず、またの増税が社会を変えてしまった。
これらが積み重なり、ダメージを与えた。
大幅に消費が減り、企業が軒並み倒産しかけた。死にかけの企業ばっかりになった以上、かつての正社員を雇うことは社会的に難しい。自社が元気でも他社が滅べが結局市場は崩壊するからだ。
首にできない正社員を雇えない。
しかし、新しい人材もいれなければ、時代の流れがつかめない。若さとは時代そのもの。
そういう時代の中、新しい出来事が起きた。
新卒主義、正社員主義のなかでの転換点。
派遣社員、契約社員といった期間限定かつ切り捨て可能な雇用が生まれた。新しい時代としての、門出を飾る世代。実態は企業側が正社員を首にできず、死にかけていたための代理案。本来であれば正社員を解雇する流れができるはずだった。しかしながら当時の正社員側、労働者側も抵抗し、既存の犠牲者は出ないようになった。
もちろん理由があれば正社員でも解雇はできた。会社がつぶれる危機の場合とかなんていい例だろう。それ以外で人を解雇するのは本当に難しい。
だから初めから切り捨てられる人材を用意する。
僕が嘲笑をうかべたまま、目の前の中年男性を見下す。
「政治は若者を切り捨てた。労働者を食い物にした」
そのための労働者システム。
派遣社員。直接雇用しないで済み、使い捨て出来る雇用制度。
契約社員、期間限定かつ更新制度の使い捨て社員制度。
これらを生み出して、社会に流した。そうなると正社員で雇用するメリットがなくなるわけだ。
正社員は大きなリスクだ
昇給すれば下げられない。一度雇えば首にできない。雇えば雇用保険や社会保障費などの費用を半額負担しないといけない。税金も社会制度時代が流動的なものでなく、停滞しか生まない。
企業は人を安く使いたいからだ
正社員制度の上手い点は、若者を安く使って、年をとると賃金が高くなる傾向だ。年が若いうちは生産性もやる気もある。だが年をとれば生産力もへり、やる気も減る。物覚えも悪くて賃金も高いのを雇い続けるメリットがない。
逆に派遣社員、契約社員などの使い捨て雇用は、若い人材を安く使えて切り捨てられることにあった。
年をとれば切り捨てられる。
他人とあまり変わらず、まじめなだけが取り柄な人間もいらない。必要なのは最低限の仕事ができる能力のみ。正社員制度と違い、人材の育成をする必要もない。
「政治の失敗を、国民のせいにする。能力不足というのは簡単だけど、上の失敗が下のものにどれほど影響を与えたか知らないわけじゃないよね?」
この怖さを氷河期世代に押し付けたわけだ。それでいて上の世代は保護された。また一部の成功者である同世代からは甘えと称される。正社員となれた同世代は、使い捨て雇用の同世代をひどく見下すわけだ。
勝者と敗者は大きく命運をわけたことになる
「その時に流行った言葉が自己責任。弱者を弱者として見下すための素敵な言葉さ」
自己責任は呪いの言葉だ。自分が他人に押し付けられ、有利になれる凶器そのもの。その凶器をふりかざせば、誰だって勝てるわけがないからだ。その言葉に思い当たる節など持ち合わせない人のほうが少ない。
「そうだな」
中年男性は独り言ちた。認める気はないが、理解はしている様子。知識がある人材特有の、独自な深い思考によるものだ。時代ごとに思いをはせれば、その中に付属する事実あること。過去は過去。今は今。時代の流れによって価値観は大きく異なる。
それを知っているからこそ、中年男性は呑み込んだんだろう。
「若者は決して認めないよ。都合よい人材として演じても、言うことを聞く気がほぼほぼない。従ったふりして、社会を切り捨てるチャンスを狙ってる」
社会に従えば、待ってるのは道連れ。その証明は過去の世代が証明した。
始まりの自由という皮肉でだ。
若者にとって、氷河期世代は始まりの自由と呼ばれている。
ただ今の若者は氷河期世代を話題にしても、それ以上はない。尊敬も同情もされていない。今の時代は氷河期世代よりも何倍もえげつない。地獄なんて目の前に転がるほどだ。氷河期世代を保護した憲法も、代行政府が握っている。国民の生存から何までも政府のものだ。
権力者のものだ。
改正権をあたえ、家族条項を握られ、生存権も義務も権利も全部都合よく改変される。
若者からしてみれば、氷河期世代は甘かったと思えるほどだ
徴兵制だってある。扶養義務だってある。家族から逃げれず、生活保護すらない。年金すらない。氷河期世代のときは全部あった。社会制度から何から何まで手厚く保護された。それを思えば若者は年上を尊敬も同情もしない。
ただ敵としてみなした。
氷河期世代から目立って動き出した、新自由主義。着々と実り、今の時代では非情な地獄まで成長した。
その地獄が育つまでの年数、様々な思想と価値観がうまれた。
その価値観によって育まれた人材が農業をやるかどうかだ。
答えは否だ。やるわけがない。
「わかっていたからこそだ。だから尋ねている。誰が悪いとな」
僕が思い描く内容を、きっと中年男性も思い描いているのだろう。大きく苛立ちをもちつつも、反論すらできずにいる様子。口に出さずとも、思い描かずともだ。まるで自分のことのようにかみしめていた。
だから素直に答えることにしてやった。
「社会のせいだ。紛れもなく社会が悪い。自己責任で国民同士が潰し合っているうちに、政治はそれを鵜吞みにした。政府の意見を変えるのは国民の意志。その国民の意志が同士討ちしてるんだったら合わせるに決まってる」
「そうか、お前は、若者はそう答えるか」
重みがある反応だった。深い呼吸と共に告げられ、その表情は強張っていた。
中年である以上、氷河期世代とは違うのだけどもだ。当事者のように実感がこもった様子だ。感情移入が得意なのかは不明。歴史などの資料を見て、過去の情景を思うのと一緒。そういう類の人間なのだろう。
今の僕は若い。魔法少女ロッテンダストとしている以上、世代差を相手は感じているはずだ。
やはり嚙み締めた以上、思い当たる節はあったのだろう。時代の流れ、その苦労を知らないものはいない。若者も今生きる人々全員が理解しているはずだ。
中年男性の呼吸音。静かなはずなのに息が乱れている様子。目の前の男性は氷河期世代ではない。都軍で事前に逮捕された僕への尋問ができる。その時点で役職をもっている。
ただ管轄外のはずだ。その役職で管理する領分を超えている。
中年男性が意を決したようだ。
「では正直に言おう、この国の食料事情は芳しくない。自給率を上げるにも成り手がいない。お前のいう自己責任のせいで、誰もやりたがらない。技術革新が進んだことによって、一都三県でも46パーセントは代用できてもだ」
鋭い視線をもって、僕を糾弾した。言葉での説明より、目線による圧をかけてきたわけだ。その凄みを受け止めた。
対立する相手に礼儀を示す。
足を組み、そのうえで腕も組んだ。偉そうな態度をもって反抗する僕だ。
「だから?」
それでいて、僕は皮肉気に微笑んだ。
僕の態度を忌々し気にしつつも、相手が組んだ両手に爪がたつ。中年男性の頬に青筋が立っている。怒りか戒めか、静かに抑えようとする反動が、自分の両手を傷つけている。爪を立て続けたからか、血が少し垂れていた。
「…この国はもはや、自分たちで食い扶持を守れない」
一都三県同盟が所有する土地での農作物生産量。それは旧来の手法よりも革新が進んでいた。魔物や魔獣などの魔結晶など、死骸などを利用した方法。これらは農産物の生産をより早めた。込められたエネルギーや栄養素が既存の肥料と異なるからだ。
通常の肥料を使うより、育ちが早い。味も深みがある。そのため大量生産、大量収穫ができていた。少ない土地で多くのものを生産。おかげか農業事業者の負担も大きかった。
利益も少なく搾取される。農産物は大量にできるが、その分手間もかかる。
既存の農作機械が使いづらい弊害は、職につけない奴らを安くこき使って田植え、収穫を使用。機械より人間のほうが安くなる事態にまで発展。しかし人件費が安くても、農作物は値段が上がりつつも下がっていく。
市場に卸す価格は下がり続け、販売する値段は上がっていく。
技術が進めば、大量生産が起き、一つ一つの値段は下がる。しかしながら農業事業者の負担が増すから、廃業ばかりが増えていく。そうなると農作物自体は全体的に下がるから、値段上がっていく。
その得られる値幅を販売者側が奪う。販売会社側の株式を所有する資本家に利益が渡される。
生産者にも労働者にも実は利益が回っていない。上のものたちの間で金が回っているだけだった。上のものが私腹をこやし、下には還元されない。価格転嫁もされず、生産者がやればやるほど赤字を生み、廃業となる。廃業となって、食品全体の供給がへり、価格もあがる。それの繰り返し。
やがて市場に降ろされる食料品は減り続け、価格は上がり続ける。販売会社も資本家も生産者がいなくなり、利益を搾取できなくなる。
もう誰にも食料生産悪化は止められない。
人間は効率主義を極めすぎた。
新自由主義と自己責任を進めすぎた。
知っていて、僕は促すことにした
「結論を言いなよ」
にやりにやりと挑発をつづけた僕。その表情を見てか、相手が自分の手に立てた爪が深くなる。より深くえぐり血で汚す。汚れてもなお、食い込む爪は深くなる。
自国で生産できないものを、本来なら輸入で補う。
しかし世界から輸入をすることができない。
エンジンを回せない、電気系統の移動手段を使えない。船も飛行機も使えない。大規模なエネルギーを発生させれば、敵が押し寄せてくる。敵が船を輸送機を狙って、壊してくる。何度試そうと何度も壊される。
そのため世界から一都三県は孤立した。ただ一部エネルギーが確保できるのは、ユーラシア大陸からの大国からの横流しだ。
その横流しもだ、原始的な手段をもって受け取るのみ。
市場が終わり、経済も終わり、少子化が極端に進んだ。人々は自由と権利を代行政府に奪われ、結婚すら家族に支配される。
本人の意思は関係なく、周りが勝手に進める時代。
人々は効率主義で新自由主義で、自己責任を掲げる。
そんな時代の食料は自前で用意するしかない。肥料も日本では手に入らない。本来なら輸入するしかない。だけど輸入すら敵わない。なら、どうするのか。簡単だ。
自前で用意すればいい。できないかと思うけど、できている。
ただ肥料というよりは、それら生み出す生産物を先んじて手に入れられることとなった。
一都三県の食料生産率46パーセント。
その足りない分は代行政府が管轄しない場所で補われた。
政府が管轄できない組織が補填した。地方でもあるし、一都三県内の書類上領土にもある。だけど管轄はできていないから、実質放棄した区域からだ。
一都三県の莫大な人口を支える食料は。
中年男性が苦しみながらも真実をさらけ出す。重みをもって、僕を見つめた。
「この国は、悪によって生かされている」
悪の組織が生み出した食料が補っていた。悪が作った食料は、人々の食卓に並ぶ。自給率が少ないことは情報でしっていても、簡単に手に入るから人々は気にしない。きっと考える必要がない体。
その裏には血が流れ、土地が奪われ、自由を束縛されたものたちの嘆きがつまっている。
幾つもの悪が食料を生産し、一都三県で売りさばく。その資金源が次なる悪事と拡大に使われ、一都三県は土地を人を失っていく。買わなければ社会は崩壊し、買えば敵を肥やす資金となる。
「悪が滅べば、この国も亡んでしまう」
中年男性の嘆きをもって、真実が明かされた
その悪の代表格の名はフォレスティン。ボスの名はラフシア。
ラフシアが死ねば、1000万人は軽く餓死。ラフシアが残した戯言は真実だし、滅べば効率主義と新自由主義が足元を見て、値段が吊り上がる。吊り上がった値段で食品は変えず、暴動が起き、奪い合いが発生。やがて殺し合いにまで発展していくだろう。
一都三県はつんでいる。
「貴様がしかけたことはそういうことだ」
強い抗議の目をもって僕を貫いた。だけど一切気にしなかった。
フォレスティンのボス、ラフシアを殺すことは。
一都三県を殺すことと同じだと目が語っていた。
氷河期世代の云々はこの小説ではの設定です。現代社会をベースに作り上げた虚飾の世界です。たとえ心当たりがあっても、フィクションでしかありません。本気になさらぬよう願います




