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少女でおじさんな悪 12



 僕が冷酷に持ち掛け、奴らは耳を傾けた。炎は消さず、続行。ティターノバは上空で優雅に待機。その更なる上空では魔法少女やヒーローが待機しているのにも関わらずだ。


 ただティターならこの場のヒーローや魔法少女は皆殺しにできる。それだけの経験と実力がある。莫大な魔力を隠さず、さらけ出している。この僕ですらティターには魔法勝負ではかなうことはない。この場の登場人物で、ダスカル以外ティターに傷つけることは不可能だ。


 それらがわからないやつは誰もいない。


 冒険者も魔法少女もヒーローもだ。わからないやつは死んでいるし、わかっている奴は余計な手を出さない。


 この場の主役は僕だ。


 それ以外は演者と観客でしかなかった。


「人質を解放する。ラフシアも人質を解放しろ。それと今日聞いたことは全部忘れることだ。報復してきた場合、どうなるかわかるよね?」




 脅迫だった。僕自ら脅迫をこぼし、毒をもってこの場を制す。


 それに合わせてくるのは勿論ティターだ。



「人質の解放は素晴らしいことだがね。今日聞いたことを忘れろというのは虫が良すぎるのではないかね?」



「そうかな?」


 僕の言葉に一部合わせ、否定もこめてくる。都合よく合わせるには事情が必要だ。だから追加事項をこめろとティターは言っている。



「ラフシア、ダスカル。聞いたことを忘れる代わりにといってはなんだ。気が変わらない間、手を出さないであげる」



 あくまで上目線。この場を制すは僕だ。ザギルツはフォレスティンを切り捨てられない。同盟の中核を担った以上、鵺やフォレスティンを庇う義務がある。またフォレスティンもザギルツを切り捨てられない。この状況を打破したのはザギルツだからだ。恩をうけて仇で返すのは簡単だ。だがそれをすれば、待っているのは孤立だ。


 悪だって無情で進めるほど甘くない。



 鵺は僕を知っている体で話す。



 ティターは上空から僕たちを見下ろしている。それでいて妥協案として提案してくるはずだ。



「そこの宿敵、ロッテンダストは有言実行しかしてこなかった。だからだね、フォレスティンもザギルツも今日聞いたことを忘れたまえ。そうでなければ殺されるぞ」



 ふてぶてしく大胆に提案をこぼしたティター。この僕は大首領だけど、ロッテンダストとしての僕はあくまで敵。その役割を理解したうえでの提案。



 ティターノバが加勢すれば、この状況は僕の不利となる。だけどティターは宿敵の怖さをしっている体でいる。だから合わせてこない。他の二組織はティターの参戦を求める気配を見せているが、本人は応じる気がない。



 宿敵だから。


 そういう演技はやがて大怪人二体の妥協を生んだ。


 同盟だからこそ、この場に3大怪人がそろった。



 これ以上の暴挙は僕でもできない。ティターの顔をつぶすことになる。同盟関係の顔をたて、安全をつくる理由をつくり、なおかつ僕への話を合わせてくれた。


 

 これを理解できなきゃ、悪は成り立たない。



 最初に妥協したのはラフシアだ。この僕は絶対に最初に人質を解放するわけがない。もし要求すれば人質の怪人を殺してやると目線で送った甲斐があった。


「わかったわぁ」




 茎の拘束がとかれ、少女がゆっくりと地上へ降ろされた。そのまま少女が体の痛みにたえてうずくまっている。


 その姿に僕は口を開く。



「はやくこっちにきなよ。殺されたいの?」



 油断もせず、殺気と共に嫌みをとばす。その言葉に嘘はなく、腐敗の炎を今にもむけんとむき出しにする魔力。それらをみて少女は悲痛な表情となり、体に鞭うって僕の元へ寄ってきた。少女が僕のわきへたどりつくころに人質である怪人を投げ飛ばす。


 放り投げられた怪人は、ラフシアの枝などが受け止めてつかんだ。



 そして炎を消し、ダスカルを開放。



 あとは僕は目線を上空へ向けた。



「これでいいかな?鵺の首領」



「勿論だとも!我が宿敵」



 お互い会話が通じる形だ。だが向ける野心は本物で、互いにむける殺伐とした空気は演技とすら思わせない。むろん演技だ。僕とティターは互いに演じることができるやつだ。ロールプレイが得意だったりする。



 この場の主役は僕。


 でも進行係はティターだ。



「鵺の同盟相手、中核を担うザギルツも、フォレスティンも今宵のことは忘れたまえ。我が宿敵は非常に陰湿で狂暴だ。もし忘れずに手をだせば激しい報復がまっていることだろう」




「僕を相手とれるのは、ティターノバだけだ。今のところ敵を増やす気はないよ。もし敵になりたいなら、鵺より弱いやつらから狙っていく」




 ティターが進行し、僕が合わせていく。互いにバチバチとした殺気を飛ばし合う演技。油断も隙も無い。重ったるい空気が場を満たす。大怪人2体も僕たちの様子を伺い、警戒。助けたはずの少女ですらこの僕を見上げて震える始末。



 言外に鵺より弱い。実際は鵺のほうが弱い。悪としての地盤もそう。組織力としてもそう。ティターノバと3幹部が突出しているだけで、野良怪人が大半をしめる鵺の怪人たちだ。いつ裏切るかわかりはしない。


 その点7大悪は、自分たちで作成した怪人ばっかりだ。安定性も高く悪としての地盤は強固だ。


 だけど大怪人2体を相手取り、無事に済む僕の言葉は誰にも届くだろう。実態も関係ない。この場を監視する武力たちにもだ。証明は先ほどの戦闘でした。あとはどう判断するかは各々次第。


 強さは別の形の証明を示す。僕の戯言も真実に聞こえてしまうのが、強さの良いところ。


 強い溜息の音。ラフシアのものだ。


「わかったわぁ、鵺の首領が手を貸してくれれば、ロッテンダストちゃんも殺せそうなのにぃ。きっと手を貸さないわねぇ」



 諦めづらいのだろう。渋々としたラフシアが言葉を発した。




 そこまで同盟関係は深くない。この場にきて、大怪人の誰も命を落とさずに済む。被害はフォレスティンだけだし、怪人一体殺された。その被害だけで済むのが奇跡。


 そういう災厄がロッテンダストだ。


 またラフシアだけではロッテンダストを倒せない。生命系の最大の敵、腐敗魔法。そんな姿を身で味わってしまえば、この僕に対する敵意は恐怖へと変わっていることだ。この僕が睨めば、ラフシアは僅かに目線を落としている。


 直接視線を合わせることができなくなっている。



 ほくそ笑みを見せる僕。



 そうこの僕からラフシアは離れたいのだ。だが大怪人としての見栄とフォレスティンの名誉がある。その重圧を背負っているからこそ、言い訳をしなければいけない。その言い訳を論破することは簡単。


 だが論破すれば所構わず襲撃してくることだ。悪にはプライドがある。それらを崩して上にたっても待つのは被害だけだ。


 なので言い訳は論破したりせず、相手の言い分を受け取っていく。


 ザギルツのダスカルは事を見守るのみだ。この場はラフシアの救助であり、同盟の中核としての役割を十分に果たした。僕から見ても、立派な仕事をしたと褒めるしかない。


 ダスカルがいなければ、ラフシアを殺害していたかもしれない。別に殺す気はないし、生かすつもりはあった。だけどラフシアは生命系の中でも大怪人に繰り上がった化物だ。手加減をすれば、こちらがやられかねない。


 腐敗魔法を駆使して、弱点を容赦なく叩いて。手にした勝利。


 相手の生死に気遣う余裕はなかったからだ。



 僕は蔑みの表情を作った。



「わかったらとっとと失せろ」




 丁重にお帰りいただくよう促し。僕の言葉にむすっとした気配もたくさんあった。だが、大きく反論はできないだろう。勝てない時点で命を未来へつなぐ必要があるからだ。下手に僕の機嫌を損ねて、狙われても厄介この上ない。



 大怪人、ラフシアとダスカルは交互に視線を交わす。言葉ではない、視線での会話が行われていることだ。ティターが含まれていないのは、戦闘に参加していないからだ。信用がないのもそう。結局ティターが戦闘に参加すれば、勝利は悪側になる。


 それをしないのは、ロッテンダスト脅威論を固めるためだ。ティターは僕を脅威として形作ることで、新たな風評を生み出そうとしている。


 ロッテンダストに手を出すことを避ける姿勢を7大悪に見せたのだ。


 鵺として同盟での信用は得られなかった。



 そして、ダスカルが殿を担うことになったようだ。ラフシアが警戒しつつ撤退。その際つぶれた装甲車を枝が持ち上げて移動。その後方をダスカルが庇うように撤退していった。



 その二大怪人の姿にかぶさるようにティターが移動。空中で浮きながら後方を庇うように演出。





「追い打ちは認めないがね」



「する気もないさ」



 そう僕は腐敗魔法を展開し、片手を向けていた。黒泥の両目をもって、2大怪人の背を追っていく。自然と展開させたように演出。実際は演技だし、追い打ちもしない。


 これは鵺側の顔を立てるためだ。


 戦闘に参加しないのに、何もしない体では立つ瀬がない。追い打ちをかけようと腐敗魔法を展開する僕から味方を逃がす。その演出をすれば今後、多少は信用が高まることだろう。



 莫大な魔力をもって、見せびらかすように魔法を生み出した僕。


 ティターと僕が互いに目線をあわせ、緊張を作り出す。



 そして、僕のほうから魔法を消した。両手を小さく上げ、降参といった感じにだ。



「さすがは鵺。この僕をわかっている」



「宿敵の考えることなど、想像つきやすくて簡単だ」


 僕たちを監視する武力たち。また魔力を感知したであろう大怪人たち。また別の悪だって潜んでいることだ。夜の闇に隠れて、いくつもの監視する気配が僕たちを突き刺している。それらに下手な誤魔化しは聞きやしない。


 互いを牽制し、殺伐とした緊張を作っていく。


 そのことが本物の敵対者として証明できるからだった。





 大怪人2体の姿が見えなくなり、ティターが上空へ浮き上がる。その姿は無防備そのものだが、周囲に漂わせた魔力は油断ならない。いつでも反撃できるように圧をかけているからだ。それらは生存本能を刺激し、呼吸を乱すほどのものだった。


 闇に隠れる武力たちにも圧をかけている。


 全員に圧を魔力でかけ、ティターは闇に同化した。透明化の魔法だろう。息をするのすら痛々しいほどの魔力は突如として姿を消した。



 上空を睨み続け、やがて目線を少女へ落とした。



「君はどこまで忘れられる?」



 声の抑揚を低く落とし、鋭い眼光を飛ばしておいた。その目力に少女がびくつき、何度も首を横に振った。


「全部!」



「察していると思うけど、高梨の関係者さ。まあ暴露すると僕は上司にあたる」



 腐敗魔法を掌に集め、少女へ向けた。一撃で骨すら溶かす魔法。その魔法の弾丸をみて、少女は口をぱくぱくと開いて閉じた。



「余計なことはしないほうがいい。たとえば報復とかね。今回のはこちらの手違いだった。でも君の準備不足でもある。能力不足もそうだよ。10億だして攻撃魔法一撃叩き込ませるだけの依頼に、君は失敗しかけた」


 冷たく、心に残す命の危機を与える。少女の目線は怯え、掌に展開する黒炎に集中している。



「仕事ごときで、命を失いかけるなんて馬鹿じゃないか」



 そう、仕事はあくまで生きるためのもの。死ぬためのものでもない。蔑みの表情を作り、少女を見下した。



「だからね、余計なことはするな。命は大切にするんだ」



 腐敗魔法を展開する掌を、少女の眼前へ。制御しているため、被害はない。だが少しでもかすれば、少女の容姿は酷いことになるだろう。


 

 報復などを考えれば、殺すという圧力だ。


 それを仕事と命との会話で切り離し、警告している。


「わ、わかりました」



 警告はした。命を奪うと言外に圧もかけた。あとはどうなるかは本人次第。掌を握りしめ、腐敗魔法を消し去った。



 踵を返すよう背を向けた僕。その際、一転。勢いよく回転した勢いをもって、裏拳を少女の側面へ。顔面すれすれで無理やりとめた。




 僕が背を向けたとき、油断した空気があった。安堵したようにだ。だから紙一重での暴力未遂を起こした。


 裏拳による空圧が少女の髪をかき乱した。また安堵した表情を張り付けたまま、凍っていた。状況の変化と安堵からの一点、命の危機再び。



 少女の横目が、顔側面の裏拳を見た。


 その流れで僕の顔を見た。


 急な展開に張り付いた凍った顔が、感情によって解凍されていく。涙目が震えを展開し、むせびだす。




「さようなら」



 そういって今度こそ踵を返す僕。少女の凝視を背に浴びながら夜へと姿を消していく。油断をすれば死ぬかもしれない。そういう警告を実践してみせたから、怖くてたまらなかっただろう。だが僕はそういうやつだ。



 今の時代、あのような無様をすれば殺される。


 最後の時まであきらめてはいけない。安堵してはいけない。


 情けをかけても、相手は躊躇ってこない。手加減をしても、隙とみてくる。己の非情が明日を手にするカギだ。



 右手を炎が包み、メリケンサックが再び変質していく。魔法で生み出した武具がドロドロとして、熱をおびていく。姿かたちをかえ、装飾品。王冠への姿を取り戻す。



 王冠を頭に乗せた。その瞬間、力が制御されるようになっていく。全身に満ちた力が抑制され、頬の刻印も薄く消えていく。また黒泥の両目も再び白目を開放し、通常の黒目部分へ復帰した。



 東京の夜を踵を返すうちに、気配は多くなっていく。武力たちの監視だけじゃない。冒険者も魔法少女もヒーローもそれぞれ契約を結ぶ企業の護衛。その護衛の任務にしては、気配がまとわりついてくる。


 

 また訓練されている気配もあった。この訓練はサバイバル方式でもあるけれど、一定のルールが刻まれた正式なやつのものだ。




 あえて大通りに出てやった。誘導されている感もあった。僕が進もうとするたびに襲撃の気配があり、さすがに手を出すには相手を知らない。


 相手が求めるルートの場合、何も送ってこなかったので合わせた。


 暗闇から、監視区域外のビル群、建物の住居全てから赤いポインターが飛び出した。僕の体を幾つも赤の点があたっていた。照準が定められ、突如先方が光出す。まばゆい光が目線をさえぎるかのようだ。あいにくロッテンダストには通じない視界妨害だ。


 先方には装甲車があった。フォレスティンが乗っていた装甲車とは別式のものだ。悪路走行用の車体が浮いた形、SUVタイプの装甲車。運転席、助手席しかなさそうだ。その後部座席が本来ある場所は切り取られている。屋根がなく、貨物車としての荷台。その荷台に機関銃が一つ。


 その装甲車が列をなし、通りを封鎖。


 機関銃が僕へ向けられた。


 まばゆい光も装甲車のものだ。


 そのわきには歩兵が配置され、突撃銃を構えている。既存の銃式と姿自体は変わらない。長身のロングバレル。銃身を重くすることでの反動を減らす構造も一緒。夜に同化させた黒の突撃銃はポインターを装備され、全部僕へ向けられている。


 全員軍服を着た、正規兵だろう。



 足元のスカートにも赤い光の点。全身すべてを赤の点が覆いつくしたところでだ。



 歩兵の後ろから、別のものが出現。拡声器をもち、軍服をまといし人間。階級は東京軍ならではのシンボル。一本筋の星がついたパッチが一つ軍服の胸元に一つ。その頭にかぶる帽子にも星が一つ。


 東京軍、少尉のものだ。軍帽の鍔を空いた手でつかんでずれを直すさま。その少尉の男は、まだ若いのだろう。30歳になっているかどうかの年齢。こちらを睥睨する鷹のごとき目。しゅんとのびた鼻筋から見ても容姿は悪くない。眉毛も短くととのえ、髭もない。口の荒れもない。


 



 清潔感を整えている士官が拡声器で告げる。



 

「魔法少女、ロッテンダスト」



 見下すよりも、油断をしないのを前面に出した表情。警戒をもって僕へ当たる、その眼光。それらが音を拡大。僕の耳にも届いた。



「ある容疑にて貴女を拘束する」




 赤いポインターはずれず、離れず。僕の顔以外を覆いつくす全面的な攻撃する事前準備。この程度で僕は殺せない。倒すこともできない無駄な準備。それを相手方もわかっているのだろう。あくまでの緊迫した空気があった。



「容疑?」


 疑問に思った風に怪訝な顔をする僕。


 だけど僕の態度にさらなる警戒を示す少尉。拡声された音の中に、固唾をのむものが入っていた。僅かすぎて、気づいたのは僕のみだろう。




 攻撃してきたら、正当防衛を果たすからだった。



「その容疑とは…」


 渋るように、じらすかの如くゆったりと告げられた。



 その容疑に侮蔑の目線を作って、両手をあげたのだった






 東京は都会だ。ビル群には各自のモニターが上部壁面につけられている。モニターごとに放送内容が違うのに、音が交じり合わないのは道路やそれぞれのビルの音量が定められたものになっているからだ。また音を周囲に反響させず、直射する方針で、ある一定の範囲しか届かない。だから音が混ざらない。



 だが本日の放送は内容が一致していた。


「本日未明、東京監視区域すぐ近くで大怪人との戦闘が発生。ザギルツ、フォレスティンの大怪人2体と所属不明の魔法少女が戦闘。魔法少女は善戦し、大怪人2体を撃退した模様。また一部の情報では他の大怪人がいたとのことですが、詳細は不明です」



 放送番組内で一人のアナウンサーが伝えて終わる。


 また別のビルのモニターでは別の内容が語られた



「所属不明の魔法少女は、大怪人2体を撃退したものの、わざと見逃したという見方もあるようです」



「大怪人3体が現場にはいて、それらを相手に余裕があったとのことです。その真偽が明らかになるまではわかりませんが、もし事実であれば悪関連の処罰法に引っかかる可能性があります。わざとであれば賠償請求がかかるかもしれません」





 様々な情報が通勤時間中に流された。都内の人々の動きは、どんな事態になっても流れている。せわしなく動く人々の副音声として、それらは耳に入っていく。大怪人を相手どる魔法少女、それの姿は人々の記憶になんとなく出てくる姿があった。


 わざと見逃すほどの強さ。


 大怪人2体を相手どる異常性。



 それらに関連する賠償請求などの文言。



 そうロッテンダストがダスカルを見逃し、経済界側に2800億円を請求され、逆に3000億を奪った事件がよぎったのだ。




 朝などに人々の思考は回らない。耳に入っても頭に入らず、時間がたつ。やがて昼となり、仕事中や外出中のものたちに速報が入った。都内のビル群のモニター一面にある映像が映る。休憩時間のテレビ、スマホのニュース情報などにだ。




「国家転覆罪の疑いでロッテンダスト逮捕」




 そのニュースは激動が走った。



 その映像は、放送は人々の足を止めた。大怪人を倒し、新自由主義を掲げる経済界を煽り立てた役者。7大悪を何ともせず、立ち向かう異常性。


 

 良くも悪くもロッテンダストは目立つのだ。


 東京の軍隊、通称、都軍によって連行される一人の少女。場面は都内の23区内における都軍基地の一つ。その基地前で兵士たちに銃口を突き付けられ、堂々とあるく姿。黒基調のドレスをまとい、くすんだ灰色の王冠を被った少女。



 ドローンによる撮影のため、空中から覗き込むような映像になっている。そうして魔法少女の顔を映した際、口端が大きく歪んでいた。目元はどこまでも野望の炎をもやし、反省の余地など一切見えない。



 そんな映像の中、テロップや音声が走る。



 テロップは、本日未明、魔法少女が7大悪の大怪人ダスカルとラフシアを相手取ったことだ。その正体がロッテンダストだと紹介されている。



 大怪人2体をわざと見逃した疑い。また映像内において3体目の大怪人もあったというのもテロップで流れていた。



「国家転覆罪の詳しい容疑はわかりません。戦闘の映像や現場に居合わせた冒険者に聞いてみたところ、見逃した姿が多いという意見ばっかりでした。もし今回逮捕されたのが見逃した容疑によるものであれば、今後どうなるかは都軍の出方次第となります」




 そう誰も詳しい実態はわからない。憶測で放送され、風評が事実のように語られる。


 なぜ拘束されているのかの真実など誰もわからなかった。


 大怪人を見逃したロッテンダスト。そのため都軍が激怒するという風潮ができてしまったのだった。風潮を常に誰かが決めつけ、人々の都合がよければ形となって真実になる。




 一都三県の人々の関心は一つ。


 ついに逮捕されたと。



 そう戦えない人たちや、戦えるが、ロッテンダストより強くはない。そういう嫉妬や安全地帯からの上目線などをもつ人々の手によって叩かれていった。



今回の出来事を大きく炎上させた。逮捕された、拘束されたなどの事実だけが先行していった。


凶悪犯のようにロッテンダストに悪評を立てていった。


 


 他人を評価するしか能がない人たちの餌になっていった。他人に自己責任をもとめ、自分では責任を負わない人々の戯言が盛んになった。







 その中でロッテンダストの動画アカウント。そのアカウントに一つの動画が投稿された。




 場面は田舎だろう。背景は田畑が広がり、崩れた電柱や壊れた廃墟などがいくつかある。自然豊かな空間。崩れた電柱の脇にひしゃげた看板が一つ。


 八千代へようこそといった案内看板。


 それらの風景をバックに少女が立っていた。


 白いカーディガンを羽織り、内側に黒のシャツ。胸元のポケットが一つ、ボタン仕掛けで留める式のシャツだ。両膝までかかる黒のスカート。しわ一つなく、今回の映像に合わせてクリーニングでもかけたのだろう。



 その少女は、髪を後ろに一つにまとめている。ただ輪ゴムといったもので、髪質を傷つけるまとめ方だ。また化粧をしていないためか、肌本来の若さがあった。年は中学生か高校生初等ぐらいのものだ。


 だがこの場面に相応しくないものが両隣にいるのに、一切表情に変化はなかった。少女らしさも見えない。怖がる様子も、喜ぶ様子もない。無表情で立っていた。



 そんな少女の隣には歪がいる。右隣にはシルクハットをかぶり、片手にはキャンディーの渦巻きのステッキをもつ化物。爬虫類の一つ、蛙の化物。


 その名はティターノバ。知る人ぞ知る、鵺の首領だった。大胆かつ温和そうに目元を細める怪人。怪人の表情はわかりづらくても、ティターノバはわかりやすかった。



 また少女の左隣には、提灯の尾を額に生やす魚の怪人。アンコウに酷似した提灯怪人が並んでいた。坂東市のパンプキン。そのボスの片腕たる提灯怪人が、居心地悪そうに立っている。


 少女が一歩前へ進んだ。


 無表情のまま、言葉を紡ぐ。



「都軍のロッテンダスト逮捕を大変遺憾に思います」



 感情を込めず、だけどもいうべきことは言う。その強い覚悟は表情でなく行動で示すものだ。だからか少女は、つづけた。


 指をカメラに差した。



「今回の不当な行いは、言いがかりのようなものです。正当性がどこにもありません」


 ロッテンダストの行いは正当なものだと少女はつづけた。一方的な解釈によって、事実が歪曲されていると主張。無表情でも告げる内容は一種の疑問をなげかけた。だがロッテンダストの悪評を思えば、少女の行っていることは事実無根。



 少女こそ言っていることが、庇うだけの中身のない内容とされてしまうだろう。



 だから少女はつづける。




「今回の件を不服とし、生存戦略を変更いたします」



 目を強くカメラに向け、両隣の怪人たちを紹介するよう両手を広げた。一歩前へ出てきたことによって、手の案内がすっぽりと怪人との親密さすら見せてしまう。知らない中で、そんな信頼をするかのような挨拶はしない。


 政治家のように見せる少女。




「八千代町は下妻の鵺、坂東市のパンプキンと停戦いたします」



 爆弾を投げ落とした。それらは地方や茨城と面する部分の戦略を大きく変えかねない爆弾だ。その少女の言い分に蛙の怪人がにやりと笑い、提灯怪人が目線をそらしてしまう。


 鵺やパンプキンを抑え込んだ制御装置。それだけじゃない。八千代以外の周囲全体が大きく乱れることとなるだろう。勢力の転換期が訪れたのだ。


 ロッテンダストが手を出さない宣言で野田市は支配されかけた。ただ経済界との和平が進み、野田市は解放された。支配しかけた鵺。その大進撃のなか死者数がいなかった。そう理由は一つ、ロッテンダストだった


 ロッテンダストが怖いからだ。だが、それだけが怖いわけじゃない。


 周囲を圧倒する八千代の武力。


 ロッテンダストすら手駒とする組織構成力が強みだった。




 八千代が停戦するということは、余計な心配が増えるということだった。野田市も無事で済まないかもしれない。軍備を整え、千葉県全体ができる限りで対策をうつ。その費用だって無駄にかかる。埼玉にも影響だってある。野田市が落ちれば、春日部まで狙われる。春日部が落ちれば、越谷も立て続けに落とされる。隣接した地域とは非常に厄介なものだった。



 千葉県、埼玉県においての軍事費がかさむこととなる。その軍費は勿論税金。


 



 少女がカメラに背を向け、先ほどの定位置に移動。無言の視線を提灯怪人に向けた。その視線におびえる提灯怪人。少女の目線から逃げ出すように、一歩前へ。また後ろを警戒しているのか、びくびくしていた。



 少女の監視が続く中、提灯怪人の表明が一言。




「下妻の鵺とは懇意にしている。八千代との停戦は、パンプキンにとってもいいことになるだろう」



 そのまま先ほどの定位置へ。少女の目から逃げるよう、だが動きは一切止めることなく隣にたった。



 あとは蛙の怪人とばかりだ。少女が目線を送るまでもなくティターノバは前へ一歩。


 少女は無心でティターノバの背中を見つめる。


「我々鵺は、フォレスティンとザギルツと同盟を結んだ」


 こちらも爆弾だった。戦略がかわる。地方でなく、一都三県の都市部分においての戦略が大きく変わってしまう。フォレスティンとザギルツ。互いに怪人を多く所持する大手の悪。その7大悪が手を結んだ事実が戦況を、状況を悪化させてしまうことになった。


 7大悪は互いを牽制しつつ、人間側の武力を警戒していたからこその平和。



 それらが2つも手を結んだ。もはや平和は望めない。人間だって一枚岩ではない。破滅が目の前に迫っている。


 それらは無知な人間でもわかる爆弾だった。




 鵺はおまけだ。7大悪と同盟を結べる鵺とは何か。野田市を攻略するだけの力をもつ。そのぐらいの認識しか人々はもっていない。その認識と実体の差が混乱を呼び起こすことになるのは間違いない。


 だが千葉県も埼玉県も防衛に人を回すことになる。税金を使用し、その結果一都三県側の武力は一部の地域に偏ることになる。その場合、都内防衛の人出は、東京だけが補うことになる。


 神奈川だけがフリーだが、その裏では軍隊の派遣をことごとく割り振ることになる。一都三県は互いが足を引っ張らず、助け合わなければ滅ぶ。だから同盟を結んでいる。千葉県が滅びれば、神奈川も滅びるし、埼玉県が滅んでも同様だ。神奈川が滅んでも一緒。


 3県が滅んでも東京だけは生き残るだろう。


 だが東京が滅びれば、3県は滅びることになる。それほどに東京一極集中は進んでしまった。経済も人でも技術面もエネルギーですら全部東京で補っている。東京7大悪同士が同盟を組む恐ろしさがわかるだろう。


 高らかに告げる大怪人ティターノバ。


「元々鵺はパンプキンとも同盟を結んでいたが、八千代との停戦も結べた。もはや鵺に敵はいない。我らは拡大する。暴力をもって支配しよう。容赦のなさをみせてやるとも。地方悪と見くびることができなくなるだろう!」



 そしてティターノバは最後に述べた。




「感謝する、都軍。ありがとう一都三県!八千代はお前たちの盾にならなくなった!」



 ティターノバはカメラに背を向け、少女の隣に立った。少女の視線とぶつかり、不敵に笑う姿。それらの視線の衝突も映像に映っていた



 最後に締めくくる映像は互いに手合わせのものだ。提灯怪人が手を前へ出し、その上にティターノバの手が乗せられた。その一番上に少女の手が合わせられた。





 一人と2体の怪人による停戦の映像。出演者全員の視線がカメラ目線をむいた。


 そして映像は途切れた。







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― 新着の感想 ―
[良い点] 被害者の魔法少女も結構キャラが立っていていいキャラですね。 軍もどういう政治的意図があっての行動なのかが今後楽しみです。 この状況で院長を表に据えたのがどういう意図でなのかも、今後どうなっ…
[一言] ママンと引き離されて首領と幹部とカラスが内心ガチ切れしてそうで草 しかし人類くんはどうして悪手しか打たないんだい? 怪人ですら義理と情は大事にしてるのにさ! やっぱ悪が求めてやまない見返りを…
[一言] 都軍は愚かですねと言いたい所ですが、 彼らだってやりたくてやってるわけではないんでしょうね。 ロッテンダストが憎い政治家が命じたことなんでしょうし。 その結果が破滅の引き金を引こうとは・・・…
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