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少女でおじさんな悪 3

裁判官の設定を後書きで書こうとしました。ですが設定が一部の人々を怒らせそうなので書くのをやめました。足りない部分や修正が必要であれば後日します。今のところ更新を優先しています


 

 少しばかり遊びたくなった。この姿が少女であるからか、精神が幼くなることがある。白衣をきた少女姿の僕が飛び跳ねて、手を上げる。



 そんな僕の様子をみて、眉をひそめた裁判官。しかも僕だと気づくと頬をひきつらせ、警戒するような面持ちだ。



「裁判官!シャークノバを重罪にしよう!」


 小粋なジョークに会場は一瞬静まり、傍聴席からその後罵倒が飛んでくる。主に怪人が殺気とともに僕へと標的を定めた



「裁判は終わった!シャークノバ様は執行猶予がついた謹慎だ!!どこのだれかは知らねぇが、ガキがなめるなよ!!」


「てめぇが重罪を求めるなら、てめぇを殺してやる!!」


 傍聴席が騒々しくなり、怪人たちが席をたつ。乱暴にしないのはここが法の中心だからだ。下手をすれば自分も裁判に組み込まれるという判断。罵倒と殺気の中、僕はニタニタしていた。



 下級怪人の殺気ごとき、大したことはなく。


 肩をすくめて返す。僕の態度に腹を立てたか、怪人がさらに口をはさみかけた。だが騒々しくなるのとは他所に扉から羽アリ怪人が慌てて乱入。羽アリ怪人の怖さも強さも知ったものたちは皆、ここで口が閉じる。


 鵺の処刑人。


 怪人としては最弱クラスの蟻タイプ。


 だが鵺の蟻タイプの怪人にして、戦線を生き残った猛者。


 時折裁判の結果を無視して処刑し、罰を食らうことでも有名。



「処刑人まで来ちゃったね、よしシャークノバを重罪にしよう」


 

 そんなジョークだが、当の本人ことシャークノバは僕たちに視線を向けることもない。いくら部外者がいったところで裁判官が最高責任者だからだ。


 そして僕もシャークノバを重罪にする気はない。そもそも怪人は暴走するものだから、裁判すら必要ない。



 だが見せしめは必要だ。そのための謹慎処分とついた執行猶予。この判例に異論はない。だけど面白みがなく、反感を買うものでもある。命令違反を知っているのは鵺の戦闘部隊だけだ。だが中には情報を漏らすものもいる。その噂の中でシャークノバが見逃されれば、どうなるか。


 怪人優遇説があがり、弱者への暴力が発生する可能性。


 もしくはシャークノバの特別視による、部下の問題行動の多発。


 怪人を強くするのは逆境だ。決して都合の良い展開によって強くなるわけじゃない。




「シャークノバは作戦でありながら、自分の本能を優先した」


 

 ここで僕もペンダントをかざす。少女姿での僕。その立場を知っている裁判官は、睨みつけるよう凝視してくる。だが周囲は僕をしらないため、ペンダントの有無が権力の強さを示す。




「鵺のペンダント?」


 シャークノバの部下であろう怪人たちが、言葉をなくす。権力とは相手が人間であっても付随する。技能あるものや、知識あるものを前に怪人は暴力をふるってはいけない。見たこともない少女が権力の象徴をもち、なおかつ裁判官に対し反論する。


 この異様な姿をみせて周囲は固唾をのんだ。



 僕が一瞥すれば、傍聴席の怪人たちは黙りこくった。



「鵺の処刑人がいなければ、あの状況ではどうなったんだろう?思い返していこう。野田市侵攻の際、あのとき誰がいた?味方だけじゃなく、敵もいたよね?どんな敵だった?」



 僕は笑って語り。


 裁判官は僕相手には権力は使えない。同様のペンダントは同様の権力でしかない。


 だがすぐに裁判官は鎚を叩き、かんかんと音を立てた。



「…ここは貴女の管轄ではない。戦闘部隊に関しても同様」


 今の姿の管轄は怪人に対してのものはない。設定上、鵺の法にも関与できない。それでも口を挟むのはロールプレイによるものだった。



「飯田裁判官、君は怪人相手に生ぬるい」



 僕は手のひらを見せるように人差し指を向けた。



「あくまで作戦は、野田市侵攻をスムーズに行い、その責任は処刑人が背負ったものだった。状況が変化する兆しすら見逃さず、重圧の中で作戦を指揮した責任をシャークノバは無碍にした」



 僕は歩き出す。ペンダントをかざし、指をさしながら前へ前へだ。後ろを軽く振り返り、羽アリ怪人を見つめる。


 来いという命令を混ぜた視線。その圧に羽アリ怪人がうなずき、あとをついてくる。



 僕は状況をかき乱したいのもあるけど、怒るべき場所は怒るべきだとは思ってる。



「これが自分の責任で行う作戦であればよかった。だけどね、共同作戦だったことを忘れているよ。ダガーマンティスノバ、シャークノバの2幹部を動員し、鵺の処刑人が実務経験の濃さから指揮を担当。失敗は許されない、非常に重いものだった」



 僕はペンダントを見せびらかし、シャークノバの隣に立つ。



 その間にも羽アリ怪人が立つ。


 今の姿の立場を知るのは、裁判官と羽アリ怪人、シャークノバだけだ。



「その作戦で気をつけなきゃいけない相手は誰だったかな?野田市の戦力だったかな?違うよね?一都三県の有力者だったかな?奴らもそうだけど、来る可能性は低かったね」



 僕はペンダントを指で絡めて、くるくる手まわす。薄いチェーンを指にひっかけ、回すさまは子供そのもの。


 だが権力の象徴である、それを遊ぶものはいない。


 僕のふざけた態度に誰もが黙っていた。



「隣町の戦力だよね?あの人間たち相手に僕たち鵺は閉じ込められていたはずだよ?忘れたかな?時間差だった。隣町の勢力が東京の有力者と敵対した隙を狙ったものだよ?あの悪名高いロッテンダストに金持ちが喧嘩をうったことで、動けた」



 僕は裁判官を見た。強い視線で非難を向けた目だ。


 演技であり、現実を知るシャークノバは真実を語れない。


 あくまでロッテンダストが大首領で、マッチポンプだとはいえない。今の僕の正体を知らないからこそ、強くは反論できない。


 法はあくまで裏側をしることではない。裁判官は真実を知らしめるためのものでなく、あくまで判例を下すためだけのもの。



「あの作戦は鵺の意向を示すものだったんだよ。わかるかな?僕たちの悪名を、強さを一都三県に轟かせる。それでいて手出しをさせないための組織力を見せたんだ」



 鵺が生み出す世論で、見えることの解釈。シャークノバは暴走したけど、マッチポンプであるため命の危機はなかった。そういう物事もあるからこそ罪はない。罪はないけど世間的に見た際の印象の悪さが残る。


「東京7大悪とは異なる組織力を持つ。怪人生産工場も持たず、首領自ら作成する。場所にとらわれない悪は僕たちだけだ。首領がいる限り、滅びはない。だからこそ僕たちに必要なのがあった」


 このままであればシャークノバは幹部だから許されたと思う奴らは出てくる。


「名誉であり、名声だよ。どこまでも徹底した作戦実行力と困難を可能にする実力」


 ティターノバの作成した怪人が、実力を発揮する恐怖。誰一人殺さず、支配する武力。それらが生み出すブランドが野良の怪人を引き寄せ、組織ができる。それらに規律を守らせれば、弱者である労働者が集まっていき、人口を増加させる。



「鵺の宣伝だったんだよ、あの作戦は」



 表向き非難するものはいない。


「悪名によるブランド化が僕たちを更に強大化させていく」

 

 僕はペンダントを掌に落とし、握りしめて掲げる。



「たまたま上手くいったから、暴走も何とかなった。その原因が隣町の悪名高き、ロッテンダストだなんて笑えるよね」


 裏で確執が生まれる原因の一つになりかねない。小さな兆しでもある。内部だけで済むならいいけど、外部勢力から口を挟まれ、たきつけられでもすれば、面倒だ。



「ロッテンダストがいなければ、相手側に被害が出ていた。相手側の被害はこちら側への攻撃する口実になっちゃうんだよ?わかってる?いくら鵺の武力でも一都三県を本気で相手にしたらどうなるか。ただじゃすまないんだよ。あっちには魔法少女もヒーローもたくさんいる。冒険者だってそうさ」


 相手のほうが戦力は上であり、数も上。人口ですら数千万以上の差がつけられている。


 戦争は仕掛けた側が不利なのは歴史が示している。


「僕たちはロッテンダストによって助けられた。こちらの幹部の不手際が相手の功績になったんだよ?」


 これは身内であればこそ、叩く義務がある。


 必ず建前というものが必要だ。そのうえで論争をおこし、事態を荒れさせる。荒れたうえでの決着をつけることで印象を残す。どれほどのものだったかを噂で流させる。


 今の少女の姿は最適だ。一応設定上は鵺の中でも権力者になる。ただ大首領の立場を隠し、好き勝手に行動するための立場だ。大首領としての姿は鵺でも知っている者は数体。今の姿の立場を知るものは数十人ほど。



 好き勝手に外部から文句を言う。


 怪人部隊でもなく。


 裁判の関係者でもない。



 されど僕の建前の口論は止められることになった。それも相手は、この場の責任者。裁判官こと飯田が大きく口を開き、吠えようとしたからだ。


「いい加減になさい!いくら貴女であろうと、鵺の最高科学者であっても!これ以上の発言は首領に報告することになる!司法の場、個人の意見で判決は左右されない!被告は暴走したけれど、怪人に人間と同じことを求めること自体間違ってる!!」




 飯田裁判官は大きく鎚を叩き、金属音を鳴り響かせる。



「貴女の技術なしに鵺は成り立たないことはわかっている。だけど技術者が司法にまで口を出すことは許されない」


「事実を語っただけだよ?」



「貴女の権力は司法に届かない。いいかげん夢から覚めなさい!」



 僕はそこまで吠えられ、指を一本立てた。



 口元から両目の間に建てた姿にて、嘲笑を混ぜた。



「夢から覚めないから悪なのさ、まあでも僕が無理言っているのも真実だ。分が悪いから立ち去るよ」



 白衣を翻し、指を鳴らす。その音に反応した羽アリ怪人だ。全ては演技。ここまで拗らせて荒らせば、ただ事ではないと表現できた。踵を返そうとし、シャークノバを見やる。僕が登場する前と比べて更に落ち込みを見せていた。


 さすがに罪悪感がわく。


 しかもだ。横目で見ているのが気づかれたか、シャークノバが視線を合わせてきた。それとぶつかり、決意を見せた表情を僕に示す。




 シャークノバが表を上げ、裁判官のほうへ。



「スノウシンデレラ」


 その名を口に出した時、場の空気が凍る。騒々しくなっていた裁判は、急激に冷え込んでいく。


 鵺の悪名の一つで、その名を聞けば、誰もが凍った目を僕へと向けていった。




 「首領から異名を授けられた鵺の最高科学者。雪代博士の言う通り。裁判官、自身の罪を重くしていただきたい」


 スノウシンデレラ、雪代香苗。東京においての登録した名前、雲白空と少女ベースを共有した姿。今の僕の姿を軸にティターノバが適当に与えた異名と名前。鵺の最高科学者設定だけれど、大首領の別の姿であることを知っているのは、羽アリ怪人とティターノバのみ。



 大首領の存在自体は3幹部と処刑人しかしらない。


「え?」


 思わず口から漏れた予想外さ。シャークノバは怪人ゆえに傲慢だと勝手に思い込んでいた。


 大首領がいることをスノウシンデレラは知らない。そういう設定だ。つまり本当の意味で信用されていない立場であるはずの存在。そんな人間の言葉なんて軽いものだと思っていた。


 だけど重罪を自身から求めるほどになり、僕は足を止めてしまっていた。あくまで外聞のために、嫌われ役を演じたというのにだ。本気にしてしまった。困惑をこえ、頭が混乱しかける僕。さすがに自分の孫みたいな怪人に重罪を与えるわけにもいかない。


 今の姿が最高科学者の設定だからこその影響力。それだけなのかはわからないけれど、シャークノバはやたら僕の意見を重視しているようだ。



「裁判は終わっている」


 飯田裁判官はシャークノバの要請を退けた。応じる様子もない確固とした態度だ。食いつく様子を見せた。

「裁判官、自身は本能を抑えきれず、功名心で暴走した。鵺の作戦であることを忘れ、侵略を優先し、本筋を狂わせた。大…隣町の魔法少女が和解をしたことにも気づかず、戦況を都合よく有利と思い込んだ。そのせいで鵺の処刑人の手間をかけた」


足元のテープからは動かず、身振り手振りで己の罪を語りだすシャークノバ。



「自身はただの怪人ではない!鵺の幹部としてふさわしい罪を!」




 内心冷や汗が止まらない僕。


 裁判官がシャークノバの様子を見て、徐々に鎚を上げ始める。この場合、飯田裁判官の性格を思えばだ。このまま妥協して罪を重くする展開が見える。本人の意思と状況証拠を組み合わせ、できる限りの建前の重罪化を目指すことだ。



 閉廷はしたけれど、僕が邪魔をしたため正式には閉廷していない。そんな理屈を押し通すに違いない。本人の立ち位置を理解したうえでの悪の司法を再開だ。



 シャークノバの潔さが、凍った空気を溶かしていく。自身の上司の強さだけでなく、首領が作成した幹部。立場も確かなもので、安定した権力。それでいて傲慢にならず、問題があることを認める素直さ。


 周囲を熱狂にかりたてる。傍聴席に座っていた部下であろう怪人たちが騒ぎ出したからだ。自身の上司の魅力を勝手に誉めたてる声の連発。


「え、も、もういいんじゃないかな?」


 思わず小声になっており、誰にも届かない。この少女の姿で出せる音量などたかが知れていた。怪人が騒ぎ出せば、少女の声などかき消されてしまう。



 もはや僕ではどうしようもならず、背中に冷や汗をかく。近くにいる羽アリ怪人の気配もあり、何か視線を向けづらかった。じろっとした抗議されているのかと錯覚するほどの視線。



 仕方ないじゃん。外聞があるんだよと言いたくても言いづらい。悪は油断をすれば、風評一つで組織を分裂させるやつもいたんだ。だから悪役になったというのにだ。


 だが裁判が開始され、正式に本人の意向を取れば、この姿では変更もできない。その場合はティターの命令でなければ撤回も難しい。だから焦っている。自分の子供と孫に手間をかけさせる、創造主とか恥ずかしすぎた。


 時間はもはやない。


 だから開き直った。



 全力で手を叩く。魔力を込め、音を反響させる。裁判の場を僕が爆音で満たす。人間である裁判官も傍聴席のものも思わず耳をふさぎ、怪人たちも騒ぐのをやめた。近くの羽アリ怪人もシャークノバですら爆音に身をびくりと反応させた。だが音の主が僕であるため、視線をむけるにとどまった。



「素晴らしいね、さすがは誇り高い鵺の幹部だ。そんな君に失態を晴らす最高のチャンスをあげようじゃないか!この仕事をこなせば、君や君の部下は再評価されること間違いなしだよ。首領からの褒めの言葉もいただける」


 満面の笑みを浮かべて一気に語りだす僕。やけくそだった。



「隣町にバラバラにされた周辺の悪を叩き潰す。ロッテンダストと数十人の武装集団ごときに怯える悪を蹂躙して、侵略する。簡単な作戦だよ」


 院長が悪がまとまるのを防ぎ、分裂した中小規模の組織たち。


 八千代町の勢力では拡大しても、人口密度が薄くなり防衛が難しくなる。占領コストばかりが増えていく。人材が少ないからこその弊害は管理ができないことだ。


 それに対し鵺は悪だ。下妻市を支配し、支配するための数もある。


 鵺は野良怪人を吸収しても管理できるほどの強者がそろっている。


 処刑人も3幹部も首領も怪人だ。上級怪人を幹部とした部隊だけでなく、内部に予備部隊とした怪人もいる。その予備隊を管理するのが僕の作成した怪人だ。


 人間自体も価値があるため、虐殺などさせない。搾取もさせないため、法の下に支配される。周辺の悪が搾取している人間も鵺ではなじみやすい。


「シャークノバの強さを見込んで、君には先鋒を担ってもらおう」



 鵺は侵略と侵攻を軸に拡大政策がとれる悪。何事も呑み込み己の力となす化物組織。通常の悪は他組織の怪人を仲間に引き込まず、駆除する。悪の組織にはテーマとモチーフがあり、そこから外れる怪人など求めていない。自分たちで生み出した怪人のみを信じ、それ以外は捨て駒にすらしない。



 だが僕の考えも、金属を叩く鎚の音が邪魔をしてくる。



「下妻市内だけの謹慎処分となって」


 裁判官の判決は絶対だ。雪代博士の僕では撤回できない。だけども妥協できる人材で、本人の意向や反省があれば減刑も求刑通り以上の刑罰も与える。


「今を見逃せば、奴らは膨れ上がる。隣町が管理できず、放置している今こそ、吸収するチャンスなんだよ。未来でもない、過去でもない。僕たちの今が過去になったとき、賞賛できる。そんな未来をつかむ唯一だ」


 僕が頬を吊り上げ、自身の胸元付近で、両手を掲げる。


「膨れ上がった周辺勢力は八千代には手を出せない。怖いからだ。だけど鵺には手を出してくる。理由は簡単。隣町より鵺は怖くないからだよ。恐怖のブランド化ができていない。隣町よりも強い部隊があるのにも関わらず、一向に支配できない。そのような悪は、鵺は八千代町より怖いかな?」



 指を鳴らし、魔力を満たす。この空間を満たす莫大な魔力が、重圧をうむ。呼吸と共に魔力が人々や怪人の体内に入り込み、気分の悪さを増長させていく。少女姿の僕はロッテンダストほどには力は出せないけれど、冒険者程度ぐらいの力なら出せる。それこそ下級怪人程度なら威圧をかけれるほどにだ。


 息苦しくなる会場を前に傍聴席は呑み込まれていく。


 裁判官も同様だが、気配が変わらない。苦しくても表に出さないよう耐え、僕から目線をそらさない。


「恐怖が僕たちを平和にする。一方的な暴力が、理不尽が僕たちを育ててきた。やられてきたからこそ、その怖さを皆しっているはずだよ!」



 東京7大悪も鵺と同様の拡大政策がとれる。それらを維持するのは莫大な人口地帯と経済地帯だからこそだ。その他一部の悪も同様にできるけれど、大手ほどの規模でなければ管理は難しい。この近辺では鵺だけだ。経済規模も人口地帯もなく、鵺の特性がそれをなす。




「裁判官、シャークノバは鵺を安全にできる。謹慎処分を撤回し、僕に一任しろ。君なら間違いなく判断できるはずだよ。僕に任せれば、大切なものを失う辛さを鵺の人々は味わうことはない」


 自分の胸元へ手を当て、僕は語る。騙って笑う。


 含んだ言葉、大切なものを失うことへの恐怖。


 その言葉を聞き、裁判官の鎚を叩く手が止まった。過去が一度に脳内に現れ、裁判官の行動が鈍くなる。思考する中で、きっと考えているはずだ。あくまで鵺は悪。裁判官は司法でありながらも、鵺の邪魔をすることはしない。自分から鵺の支配下にはいり、特別階級になった人間だ。



 だから考えは数十秒かかり、鎚を振り下ろした。



「シャークノバの謹慎処分労働を撤回し、代わりに雪代博士の依頼を刑罰の代わりとする!」



 気高い裁判官は融通が利く。鵺の利益が確保されるたびに、恐怖が生まれる。恐怖が生まれることで、平和が生まれる。武力がさらなる拡大を促していく。理解したからこそ、人間である裁判官は判決を下した。


「素晴らしい!さすがは鵺の裁判官!貴女の変わりは今後現れることはないと、この僕が保証してあげよう!」


 裁判官が僕を凝視しながら口を開いた。



「よりよい安全を」



「シャークノバがいれば余裕さ」



 僕は不敵な笑みを浮かべて、指をならした。



 閉廷を告げる声と同時に、裁判官が席を立つ。書記も同様に慌てて席を立った。踵を二人は返し、この部屋を後にした。僕と裁判官の関係など、用が終われば会話することも視線を向けることもない。冷めた関係だった。



 傍聴席の皆も席を立ちかけた。その前に僕が声を出す。





「下妻寄りの筑西、結城の悪を支配し、安全地帯とする。作戦名は、どきどき雑魚ばっかりで行う酒池肉林だよ!あっ、悪いことするつもりはないんだけど。敵の怪人が捕獲出来たら少しばっかり用事があるから!僕に渡してね!ちょっと見たいだけだから!中身を見るだけだから!敵の支配する魔獣とかも見たいし、改造個体も中を見たいからこっちに回してね!!」



 勢いよく頭を回さず、口だけを動かす僕。

 

 だけど口に出す言葉の不穏さが一部あったのか、周囲が引くような気配を持つ。シャークノバに至っては知っているのか、上体をわずかにそらしていた。


「中ってなんだ?」


「中身?中身って?」



 誰が言ったかわからないけれど、僕は聞こえていない。



「異論はあるかな、シャークノバ」


 僕が両足を組み、上半身を前に小さく倒した格好。小悪魔ポーズをもって、尋ねた。浮かべているのは嘲笑交じりの元気な姿。


「雪代博士の仕事なら贖罪にふさわしい。ぜひお受けします」



 胸に手を置き、静かに頭を下げる上級怪人。丁寧であり、僕を見下す様子もなかった。秘密を知らないものを見下すのは人間だって同じ。それなのに一切なかった。すごく罪悪感を感じる。


 贖罪扱いの仕事とされているのは気になったけど。


 相手の怪人を解体し、中身を見て新しい構築魔獣を作る。怪人を素材とした部品の作成。新規怪人の設計など主に鵺のメイン産業軍事力に影響を及ぼしている。やっていることを文字化するなら普通。だけどやっていることは相手の人権侵害そのもの。怪人に法はなく、他の組織の怪人を時折やっている。


 鵺の怪人に対して手を出すことだけはしていない。


 知るものは知る。



 

「量産品ばっかりだから、新作がいるといいなぁ」





 ロッテンダストと引けをとらない異常者だと。


雪代香苗、雲白空の姿は共通です。主人公が東京で口座名やスマホ購入した際の名義、雲白空。その姿は雪代香苗と同じです。変な設定と王道を底辺風味にすることは得意です。魔法少女ものの中でも、変わったものを皆様に提供できればと考えます。

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