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おじさん 魔法少女 13

 ビルから悲鳴が響く。窓の外へ漏れ出す恐怖の感情があちらこちらへ拡散していく。この周囲のビルたちは何も思うのか。この周囲の人々はどう思うのか。大した組織ではなくても、この一帯での暴力団だ。


 スラムと化した人々が襲わない時点で、影響力が悪いほうに高いことがわかる。



 失うものがない人は暴走しがちなのに、抑制しているってことだからね。


 怯える商人が悲鳴が上がるたびに体を震わす。がたがたと揺れ、僕を見る目は恐怖そのものだった。怪人の殺気をうけ、魔獣を軽々と潰し、現在は暴力団を攻めている。


 

「君はどう思うの?」


 尋ねた僕に対し、商人が壁際へ更に自分を追い込んだ。僕の声、視線から必死に逃げるようだった。でも問いに答えなかったため、隣の怪人の表情が険しくなった。手でそれを制した。



「強いでしょ、連れてきたやつら」



 自慢する。僕が盛大に偉そうに自慢する。ふんぞり返って、両足はテーブルに乗せた態度。背もたれに両手を広げたりもした。それが今では許される。



 上層部がどたどたと駆け出す音と、発砲する音がした。その音が鳴ると同時に沈黙していく。抵抗する音はあっても、続かない。怪人が移動して、暴力団が抵抗して、排除されての繰り返し。音によって構成員が撃退にむかい、それをたやすく倒す。




「あいつらは増えるんだ。。強いやつを作り上げる。君たちにはできないし、そんなことありえないと思ったかもしれない。でもいうよ。何度もでもいう。できるんだ。僕ならできる」



 新規作成という点。怪人を一個まるごと作り上げてしまう。


 商人が思うであろう増やすというのは、教育。


 本来なら笑われる理想論を語る僕。その様子を見ていた商人が化物を見る目で見つめてきていた。この惨状を見て、実力を見て、怪人たちを支配する姿を見ての変化。出会ったときは見下し、無理と判断したくせにだ。



 この時代の教育なんてコストがかかって、敵対者に塩をあげるぐらいの感覚しかない。資本家や企業にとって労働者なんて教育したら裏切るものだと思ってる。無知のまま、教育をせず、コストもかけずに即戦力を求めてくる。


 商人からすれば教育は、自身を殺す武器を与える愚かな行為。


 それをあえてするように見える僕は何に見えるんだろう。


 まあ表情からすれば、狂っていると思ってるんだろうな。


 敵対するかもしれない人間を教育し、生み出す。それでいて部下にし、忠実だ。この自己責任、新自由主義における社会において、どれほど異常なことかわからない人間ではない。労働に積極的じゃなく、裏切るのも当然。弱くなれば切り捨てる。


 保証がない世界において、優しいものは誰一人いない。


 資本家や企業がするように労働者も同じことをする。


「だからね、君は今日のことを覚えておくんだ。いつしか復讐しにきてもいい。そのころには手が付けられなくなるほど僕たちは強くなっている」



 その言葉を聞いても、商人の顔が悲壮めいたものから変化することはなかった。



 上から音が鳴る。下から音が鳴る。上のは発砲音と構成員の叫び、雄たけびであり、続くのは悲鳴。下からくるのは突入音。このビルの危機に仲間がかけつけたか、スラムの人々が襲いにきたか。弱さをみせると、すぐ襲いにくるところは嫌いじゃない。


 わかりやすいからね。


「どういたしますか?」


 

 この音を聞いた怪人が僕を見ていた。赤のメッシュが入った前髪の怪人。その特徴的な前髪が揺れている。思わず、乗り出した。両足を床につけ、膝の上で指を組む。



「排除しろ。僕の敵はここだよ。下のやつらが仲間じゃないなら、適当に相手して外へ捨てていい。仲間なら殺さず捕獲してね」


 音が減る。発砲音がしなくなる。どたどたと下から上へくる音もするけれど、階段から上ってこない。たぶん撃退にむかった怪人が階段部分で排除したんだろうな。上がりかけてきた気配が下へ急速に去っていく。


 怪人が強すぎて逃げた。


 隣の怪人に目を向けた。



「命令を下す必要すらなかったね。こんな優秀なやつらが増えるんだよ。君のお仲間がたくさん増えるよ。どう思う?」



「安全な体制が築けます。下手なものは手をだせず、この程度の暴力団ごときが調子に乗ることもないです」


「まったくだ。この程度のやつらに舐められたら商売あがったりだよ」



 僕たちは嗤う。笑って商人を見つめ、当人は耳をふさいでうずくまっている。ビル内の音が完全に止み、鎮圧がほぼ済んだのだと判断。あとは怪人たちが適当に構成員たちをまとめてくれるだろう。


 そのうち、この部屋の扉が開かれる。


 凶悪面の怪人が現れ、一束の書類を持ってきていた。僕の目の前のテーブルに置いてきた。



「これは?」


「暴力団が所有する、建前と戦利品。そのうちの建前がこれですな」



 書類に手を伸ばし、めくる。クリップで止められた書類を、適当に見ていく。



「なるほどね。なら戦利品は見つかったの?」


「はっ、戦利品は上層におりました。ですが儂らの顔をみて、すぐ怯えましてな。また独特のにおいが部屋に満ちており、すぐさま似たタイプの部下を向かわせました」


 僕が疑問に思うと、凶悪面の怪人がすぐさま補足してくる。


 書類に書かれた数字、似たような金額が書類それぞれに書かれている。対象の日付や時間。締結日から達成日までの色々な数字。そこにまつわる金額のもの。


 おおよそ1千万。



「ふうん」


 人の名前があり、性別は女性。一枚ごとに一人が記載。複数の書類にはそれぞれの女性の契約書だといえた。


 年齢は若く、高くても20歳から下は15歳までだった。これが複数あって、借金が1千万ほどあるという形になっていた。



「このお金は一体何に充てられたんだろう」


 このお金の有無だ。お金を借りる際において、この時代に1千万を貸す奴はいない。誰も返せない。一部のスキルや魔法持ち、技術者や金持ちであれば別。利用目的に関する条項も書かれておらず、不明。



「他に書類は?」


 凶悪面の怪人が首を横に振った。膝の上で頬杖をつき、書類をぱたぱたと弄ぶ。何度書類を見ようとも、契約日と金額と名前。それらに通じる数字のみ。



「まあ何となくわかるけど。戦利品とやらにも会ってみたいかな。ただ仕込みが終わってからにしよう」



 僕は書類を折り畳み、隣の怪人に預けた。前髪に赤のメッシュがある怪人が受け取り、自分の懐へ仕舞う。



「下っ端や偉い人たちを部屋にまとめといて。できる限り上窓があって、廊下に直通の部屋がいいな」」


 抵抗の音を聞いても大した数はいない。二つぐらいの部屋でまとめられるだろうと勝手に予測。



 僕は怪人たちに指示を出し、ついでに商人を指さす。



「君はホースを買ってきて。家庭用のホース、水の延長コードみたいなやつさ。わかってると思うけどビルの蛇口に適応したものだから。6個ほどあると嬉しいな。キャンプで使うような杭もたくさん買ってきてよ。もちろんお金は出すよ。僕のお金じゃないけど」


 僕はそういって権田の懐に手を伸ばす。権田の財布を抜き取り、商人へ投げた。田村の懐にも手を入れ、財布を引き抜き、商人へ投げた。足元に転がった財布を商人は視線で追うだけだった。


 パンと両手を叩けば、急いで商人は財布を拾った。



「よろしくね、もちろん自己責任で逃げていいよ」


 そう告げて興味をなくす僕。制圧を終えた怪人たちが続々とこの部屋に戻ってくる。ただ一度指示したことは二度も告げない。勝手に仲間内で情報を共有して、男たちを運んでいく。ソファーにいた権田も田村も同様に連れていかれた。部屋に残ったのは僕と護衛の怪人。


 いまだ震える商人を僕は眺めていた。


 愉快気に浸る僕が再度問いかけた。


「君もみんなと一緒に遊ぶ?」


 商人は慌てて、財布をしまって、外へ飛び出した。化け物として扱われ、この怪人たちは異常な人間と思われる。逃げても逃げなくてもどちらでもいい。頬杖をついたまま、準備を待った。




 

 


 一つの部屋に男たちがいる。両手は手錠で縛られ、足はクラフトテープで固定されている。胴体から肩上部、脇にかけてロープで縛られている。ただロープの場合は身体の動きを直接縛るものではない。一定の自由ができる程度の縛りだった。胴体につながったロープが部屋の床に打たれた杭につながっている。廊下側に出れるほど長くもなく、数歩ほど歩ける程度の短さだった。一人につき一つの杭といいたいが、何人かは共有した杭にロープが固定されている。


 この部屋にいるのは30人ほど。このビルの構成員が54名と考えれば半数以上だった。


 また天井にはモニターが不安定ながら固定されている。またコードが天井にテープで固定されており、廊下側の上窓まで続いていた。小型のマイクとスピーカがセットで、部屋の壁や天井に複数設置されていた。


 カメラは5つほど天井にテープで固定され、コードが接続されている。テープで道中を固定し、廊下側へ流れている。


 窓には隙間を埋めるように緑のテープが張られていた。外は暗く、外の気配は都会ながら活気がみちている。スラムであってもなお、人の生活音が絶えない。


 扉の下部にはホース一本分が設置せっちされており、その幅分くりぬかれていた。また隙間も同じテープで埋められていた。



 廊下と接する上窓は開けられており、全開だ。上窓からホースが5本ほど垂れており、それは床側まで落ちていた。動かないようにテープで道中に固定されていた。


 男たちが気絶から目覚めたのは、水の音だった。水が流れる音、床面を打つ音、水が水面を叩いて、弾く音。様々な水音によって男たちは目覚めた。体が一部濡れているものもいる。濡れて目が覚めるものもいれば、そのまま意識を失っているものもいる。


 足元まで浸る水。


 眠っているものすらいた。それは男たちにとって上司だ。幹部だ。普段なら手が届かないものが、寝転がされ、水で濡れている。起こそうという意志が浮かばないほど、状況がよくわからない。困惑と状況把握のためか頭はパンクしていた。



 モニターがつく。


 スピーカーからノイズ交じりに音がなる。


 

「おはよう。こんにちは、こんばんは。ぐっすり寝れたかな?疲れは取れてるといいな。君たちがこれから味わうのは非常に疲れるからね。体力回復には寝るのが一番。まあ気絶だったんだけど、途中で睡眠のほうへ切り替えてあげたから安心してね」




 水が浸る。ホースの水が狭い部屋をひたすらためていく。床から抜ける水もなければ、外へ染み出す水もない。ただ水がたまる。休憩することを忘れて複数のホースから大量の水が流れていく。ときおりホース外、窓から水だけが放り込まれてたりもしていた。



 男たちの困惑が徐々に緊迫したものへと変わっていく。水がたまり、寝ているのが幹部やボスだけになっていく。ただ呼吸するさいに水が入り込んだようで、それらは大きく上半身を上げた。幹部数名には片腕の田村、ボスの権田もいる。


 皆激しく咳をしていた。



「遅いお目覚めだね。おはよう、こんにちは、こんばんわ、略して、おはにちわ。もう察していると思うけど、君たちは水の牢獄に閉じ込められている。君たちは両手両足が自由に効かない。また体から床に固定されたロープは廊下側へ出れるほど長くもないし、体をほぐすほどぐらいの短さ。この部屋は風の魔力で固定されていて、外の音は聞こえるけど、水は漏れないようになってる」


 人を小馬鹿にしたような声が語る。この声に聞き覚えのあるものは青ざめ、幹部たちは激しくせき込みながらも、この声を聴けばおびえだす。敵対者に対しては苛烈な対応を指示した幹部たちが狼狽していた。



「ほんの遊びだよ?怖くない。怖くない。この水はこの部屋を満たすまで流れる。ロープはちょうど水が満ちる前にピンと張るようになってる。まるで水面に顔を出せないようになってるんだ。手違い、不慮の事故さ。本当ならきっと、水面ぎりぎりに顔を出すまでは長さがあったかもしれないのに」


 不気味に嗤う声が続く。スピーカーから流れ、それらは男たちを焦らせていく。性悪なたくらみがわかってしまう。男たちは暴力団だ。その手のことはしてきた。嫌がることも痛がることもだ。それこそ相手が子供や年頃の人間であっても構わずだ。



 だからわかる。


 スピーカーの主は、わざとやっている。



 両手は動かず、両足はクラフトテープで固定。ただ水が満ちていくとクラフトテープの固定が緩んでいく。粘着やテープ自体が脆くなっていくようだ。紙のテープであり、水に弱いタイプを使用されている。


 これに喜びを見せるものもいれば、逆に絶望が深くなるものもいる。水がたまり、テープがとけ、足が自由になるものが増えていく。


 幹部やボス。権田も田村も含め、立ち上がり、せき込みながらも絶望を濃くしている。



「なんと、水が増えたら足の拘束が溶けていくじゃないか!!なんてことだ。ああ僕はなんて失敗をしてしまったんだ。これじゃあ皆足が自由になっちゃうじゃないか!!!」


 棒のように言葉の語尾だけを強くした主張。わざとらしくて、性根が悪いものだ。下手くそな棒読みのセリフ。演技を見せられるほど、男たちが煽られていることを理解。怒りよりも絶望が増えていく。



「水がたまって足が自由になったら困るなぁ。きっと足が自由になったら脱出できちゃうんだろうなぁ!!!」



 できるわけがない。足が自由になったところで両手は固定され、体はロープで床の杭につながっている。懐の中身は何もない。拳銃もなければ武器もない。前向きに両手が固定されているため、体をさぐることぐらい多少はできた。何もなかった。


 抜け出す手段も刃物も一切取り上げられている。


 それでいて、あえて足はクラフトテープ、水に溶けやすいテープを使用した。



 希望だ。逃げ出せる可能性を見せ、どうにもならない現実を理解させる。


 一瞬の希望を作り、男たちにさらなる地獄を見せるためだ。



「怖いから水の勢いを強くしよう」


 スピーカーからの声がそういえば、少し時間がたって水の勢いが増す。上窓から水だけが飛んでくるのが増えた。バケツか何かで水を部屋に放り込んでいるのだろうか。ただ増えていく水量が恐怖をつくる。窓の隙間から水が漏れない。テープごときで水が止められるはずないのに、漏れていかない。



 膝まで水がつかる。上窓から放り込まれる水の回数が確実に増えている。ホースの水をとめたくてもロープが伸びず、そこまで体が動かない。



 男たちが絶叫する。恐怖、水による窒息を想像し、慌てだした。



「どうしたの?騒ぎたくなった?いま夜中だよ?騒いでもいいことないよ?ご近所さんに迷惑だよ?音が聞こえるんだったら、音が外へ出ることも心配しなきゃダメだよ?皆静かに。びーくあいえっと。確か英語でこう静かにしてというんだよね。大丈夫、みんなが濡れて辛くても、騒ぎたくても、ご近所さんが見放しても、ちゃんと」



 スピーカーのノイズが強くなる。相手の呼吸が強くなる。



「見守ってあげるから」


 この言葉を皮切りに、発狂が止まらなかった。暴力団が、スラムの中で影響力をもつものが、子供のように発狂した。幹部たちはさすがに我慢しているようだが、絶望を濃くし、地獄を想像しているようだった。わめきたてないだけまし。下っ端の悲鳴を聞き、幹部たちも田村も権田も表情を更に重くする。


 ぶちっとスピーカーが切れた。


 そしてモニターが付く。



 映ったのは別部屋だ。


 そこにいたのは組織の冒険者や、ヒーロー。戦力とみなされていたものたちが、息も絶え絶えに転がっていた。腕が曲がり、膝がまがり、指があらぬほうこうへ曲がるものたち。ヒーローのスーツをきたものが、一部を被った状態でボロボロにされている。


 部屋でピースをするのは、このビルに入ってきた客人だった。凶悪そうであり、片目の瞼に切り傷が上下についた男が、ぼろ雑巾のようなものを蹴り上げている。確かそれは組織の中でも特攻隊として名をあげた男だったはずだ。


 今では表情すら残さず、サンドバックと化していた。



 壁につるされたもの、他の客人に頬をぶたれ、意識があるのかわからないほどに壊れたものたち。



 スピーカーがぶちりと音を立てた。



「君たちがしたことをしたら、こうなっちゃった」



 希望はない。優しさはない。暴力で苦しめられ、心を折られるか。水によって苦しめられ殺されるか。助かる見込みはなく、死のみが迫る。男たちは全員発狂した。幹部ですら涙をこぼし、鼻水をたれながら命乞いをしだした。



「ごめんね。君たちが僕たちを利用しようと考えなければよかったんだ。君たちが都合よく考えなければ、平和だったんだよ。君たちがね、僕のものへ薄汚い欲望を向けなければなかったことなんだ」


 最後の言葉には感情がこもってなかった。



「僕はね、欲張りなんだ。大切に思うものを都合よく考えられるとむかつくんだよ。だからさ」



 スピーカーの声は口調も先ほどと違う。仕込む空気が変わっていく。



「人の痛みの味を知ろうね」



 今度こそスピーカーが切れた。モニターだけがうつって、甚振られる光景。



 発狂の連続。部屋から漏れ出す悲鳴がビルの内外に漏れ出した。その声を聴き、スラムのものたちは察したのだろう。手をださず、沈黙した。悲鳴が流れるたびに地獄があることを勝手に理解。



 誰も助けに来ない。


 悲鳴がいつまでも続く。




 その悲鳴はビルの内側もそう。





 


 僕は漏れ出す悲鳴をバックに、マイクを切った。先ほどの部屋とは違い、ボスの部屋にいた。社長室のごとく豪華な装飾品に彩られた部屋だ。部屋の壁側にある装飾品の数々。宝石にも似たそれらの価値は高く、ボスの椅子の後ろにおいてある。僕が座るボスの椅子は、後ろの宝石のおかげで非常に空気が重くなる。


 部屋の重さを決めるのは、そこにいる人間。


 宝の多さだ。



 ボス部屋のデスクは良い素材が使われているのか、肘をおいても痛くない。ヒノキ調の木目がありながら、衝撃をある程度吸収。また書くには程よい硬さ。触り心地がよく、値段の高さがわかる。


 そんなデスクも今じゃ簡易的な放送室だ。右隣部屋は水地獄。左隣は暴力部屋。コードはこの部屋の出入り口まで続き、天井をはうように両隣へつながっている。


 

 入り口から見て、奥がボスの椅子ならば、その左側はソファーだった。窓を見下ろすためだけに置かれたソファーは高い生地でも使われているのか、皮目でありながら劣化した様子がない。黒い皮を使用しつつ、つやのある数人掛けのソファー。


 そこには6人ほど座っている。一人が別の部屋から持ってきたパイプ椅子。合計7名の女性。


 また女性たちのわきに、女性型の怪人をおいてある。僕の隣には前髪に赤のメッシュのある怪人。


 その7人は僕が連れてきたものではない。


 このビルにとらわれていたもの。


 暴力団の戦利品たちだ。

 

 女性だった。20歳を最大値とした最低15歳までの女性が7名。身だしなみは今でこそ整えており、服装も洗濯したようにみえる。だが当初みたときは、服装が汚濁まみれで、不快なにおいを充満させていた。


 欲望を満たした器。欲望の残り香があった。


 最初であった際、非常に警戒された。第三者というか、男というものに強く警戒をされた。死にかけの顔のくせに、救出されたくせに、警戒する力だけは残っていたようだった。



 僕はそんな態度をよそに鼻をつまんだ。もちろんワザと。



 風呂を入らせるために、わざと臭いことを理解させ、女性型の怪人に誘導させた。その後綺麗になり、この部屋へ連れてきた。その時着ていた服装は、近くのコインランドリーまで怪人が洗濯物を持って行った。ゆっくりと風呂へ入らせ、その間に洗濯し、乾燥機を使用。女性たちも汚されている以上、それを落とための風呂は長かった。おかげで出る前には服は綺麗になった。


 そんな拘束され、戦利品であるものたち。暴力団に好き勝手にされた女性たちをソファーへ座らせた。


 ソファーに座れないのが一人。余ったから別部屋からパイプ椅子を持ってきた。


 パイプ椅子に座る女性が20歳だった。


 その女性は僕が座る椅子の前に、デスクを挟んで座っていた。


 今頃は女子大生といえるぐらいの若さ、容姿からみて、快活さが見える女性だった。活発といってもいいのかもしれない。髪型を短くしすぎていて、スポーツをたしなむような女性に見えた。



 

「助けてくれてありがとうございます」


 身をきれいにし、短髪の女性が僕に頭を下げる。警戒は隠さないし、この部屋や廊下を警備する怪人にも警戒をしている。男性型の怪人は全員廊下へ連れていき、この部屋の護衛は女性タイプにしてあった。


 


「別にいいよ。たまたま助けた形になっただけだからね」


 僕は相手もみずに、デスクに置いてあるモニターを見る。嘲笑を浮かべ、悲鳴がこの部屋を満たす。隣の部屋に設置されたマイクから伝わる音が、モニターのスピーカーから流れている。その悲鳴が聞こえるたびに女性たちは体を震わした。



 

「怖がるな。君たちは自由になったんだ」


 折りたたんだ書類を片手でぱたぱたと振る。その書類に見覚えがあるのか、パイプ椅子に座る女性が眉をひそめた。



「借金1千万を踏み倒した気分は?」



 僕が尋ねると女性が不快なことを隠さず、口を開く。



「最悪です」



「そりゃそうだろうね」



 借金を踏み倒すことではない。パイプ椅子に座る戦利品の中で最年長の女性。短髪の女性からは責任という重さを感じない。だけど嫌悪感だけは強く感じる。



「まるで被害者といいたいみたいだね」


 その態度は加害者ではなく、被害者のみがもつ独特のものだった。だからか僕は尋ねた。書類を開き、目の前の女性の特徴と一致した書類を見つけ出す。



「これは契約書だよね?」


 その書類を見えるように降れば、女性は悔し気にされど縦に首を振った。



「この借金を払えず、搾取された感じかな?労働としての対価じゃなくて、女性ならではの搾取をされたようだけど」



 僕の言葉に女性が強く唇をかみしめる。またソファーに座る女性たちの体も揺れだしている。



「書類に書いてある、所定の作業によってというのは、そういうことだよね?」



 僕が確認すれば、女性は渋々悔し気に、憎悪に満ちた表情でうなずく。僕に対してか、暴力団に対してか、もしくは男というものに対してか。されどよくはない感情だろうな。




「一応確認するけど、答えたくなくても答えてね。この金額はどうして借金になったの?」



 

 時間をかけ、女性は口を開く。



「自由がほしかった」



 その言葉だけは重々しく、自由というものの価値を強く求めた人間のもの。その言葉が部屋に流れた瞬間。ソファーに座るものたちもまた大きく同調したように見えた。




 だけどその言葉だけで僕は理解する

 

 年頃の女性、大人に満ちない者たちが1千万の借金を負う理由。世の中の究極の自己責任論。それらが僕の頭脳を回し、解答を導き出す。





「ああ、君たち、身内に恵まれなかったんだ」



 軽くこぼした僕の言葉に、強く戦利品たちは反応した。体をびくつかせ、目の前の女性も敵意をむき出し、ソファーに座って背を向けていたものたちも僕へ視線を向けていた。絶望か、悲痛なものか、苦痛か。この世界を生きるには一方的に弱者がいるわけじゃなく、必ず訳ありがいることを再確認する。




「今の東京は家族から逃げれないもんね」




 その僕の言葉は図星を得ており、女性たちは口を挟むことなく沈黙が部屋を満たしていった。



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