おじさん 魔法少女 12
僕と院長が新造東京駅のロータリーで待つ。人の流れが激しく、渋滞を起こしている。見ているだけで人に酔いそうだった。先ほどのモニターは出口から目の前のビルのもの。左右を見渡してもビルに大きなモニターがあちらこちらに見える。ここから見える通りの一角ごとにモニターをつけてるビルは普通にあった。
都会の喧騒を感じながら馬車側を待った。この時代に電車はあるにはあるが、一部だけ。駅の大きく開かれた馬車専用の入り口と車道はつながっている。個人でもつ馬車の場合東京に入るには検査があるため時間がかかるのだろう。余計なものや地方からの危険物の持ち込みを規制しているためだ。
東京に入るには駅を使うしかない。主要道路も途中で分断されているからだ。分断しているのは壁だ。東京全体を囲んだ鉄骨のコンクリート造りの防壁がある。厚み20メートルにもなる巨大な防壁が道路をふさいでいた。
莫大な資源を用いての安全対策。
東京の人口1720万人を支える防衛のかなめだ。
警察はおらずとも軍隊はいまだある。東京に滞在する軍隊総数約11万7500人。東京軍と呼ぶ人もいるし、首都軍と呼ぶ人もいる。
戦車などは18両しかないが、それでも所有している。戦闘機は2機を整備して何とか運用しているが、そろそろ飛行寿命を迎えかけている。戦闘ヘリ14機。この時代にあった拳銃を12万丁ほど保有し、また生産も可能としている。ただし弾丸においては不足気味だ。材料を魔獣などの代替部品に切り替えており、生産工程が複雑になっているためだ。突撃銃もこの時代に適した材料を使用した数7万丁ほどある。
これは東京の膨大な人口や職人による的確な生産によって可能とされていた。
この時代に膨大な電力はない。だから手作りだ。装備は職人の手作業によるものだ。魔法使いの熱源を使用したり、巧みな職人の技術によってうみだされている。
原発もない。街並みや人の生活に必要な電力は別の方法で確保している。魔結晶や魔石による代理エンジンによって発電をしていた。莫大な都市の電力を生み出すため、魔石や魔結晶なども使用されている。そのエンジンの開発は人類の手によって生み出されたとしているが、実際は悪の組織が市場に流したものでもある。
エンジンの使用によって魔獣を呼び寄せないよう3県を利用し盾とすることで、東京には魔獣が来ない。また東京で生産された電力は3県に配ってもいる。3県で手に入れた魔石や魔結晶は基本東京でエネルギーにし必要なインフラへと割り当てている。その余りが3県に与えられている。これに関しては行政が管理している。
民間も口をはさんだりはしていない。
民間が口をはさむと値段が高くなる電力に関してはノータッチだった。
周囲を圧倒する経済力、人口、軍隊。これは八千代町の規模を大きく上げたものだ。
埼玉軍4万4100人。埼玉県人口1190万人
神奈川軍5万8000人。神奈川県人口1260万人
千葉軍3万2600人。千葉県人口1049万人
一つの県より過剰な軍隊を持つことによって実現した体制。
東京による3県の管理であり、エネルギーも東京から手渡す。絶対的な支配体制を確立していた。また3県に対して圧政を強いたりしていないため、反発もない。建前は国家の代理的立場のため、表向き反発する必要もない。
首都圏だけで人口数千万人を確保している。地方からの人口を吸収し、職人や特価したスキルを持つ人々、魔法使いや冒険者などヒーロー、魔法少女を確保しての強さだ。
国家の力が弱まり、首都圏の力が強くなり、それでも警察がいない。この膨大な人口の治安を管理する警察がいない。新自由主義があることで、民衆は失うものがなくて何しでかすかわからない人状態。
そのおかげで悪の組織が強まった世界。
首都圏は怪人に襲われている。3県を上回る軍勢がいて怪人や魔獣や魔物から被害を減らせない。専門家の力がないと安全を保てない。冒険者やヒーロー魔法少女などの力なくして平穏が作れない。
あくまで軍隊は弱い相手がメインだった。弱い魔物や魔獣などを相手にするだけのもの。3県を牽制しつつ上にたつ武力。その武力は徴兵制によって維持されている。17歳になると男女問わず自動的に徴兵制の対象となる。19歳までの3年間を首都圏に搾取される。
最近は20歳まで伸ばすべきとかいう人もいる。昔の大人は20歳が基準だったから、元に戻そうといった発言。大体は高齢者とか資本家とか企業とかがそういってる。自分たちが巻き込まれないから好き勝手言ってた。
むろん逃げ道はある。大学生になればいい。高校生になればいい。資格をとるなどの特化した人材になればいい。
徴兵される以上の価値をもてばいい。
今の時代に学業に回す金があればの話だけど。
結局、新自由主義による搾取のせいで皆お金がない。だから金持ちの子供以外、皆が徴兵制の対象だった。
勉強は贅沢であり、知識をもつ国民がいると搾取ができない。ならば知識を与えないようにという奴隷生産体制を作っている。夢をもち、成り上がろうとする若者を容赦なく引きずり落とす現実。
新自由主義者において、成り上がる環境を与えないことが優先されてしまう。
「いやな時代だね、本当に」
本当に恐ろしい時代になったと思った。僕は考え込んだ悪い思考を振り払うため、視線をあちらこちらへと回す。ようやく検査が終わった馬車が車道へ姿を現していた。ジャージのポケットに手をつっこみ、馬車を待った。
馬車が僕たちの前に止まる。
馬車から降りたのは三船だった。また手にはスマホを持っていた。ノイズ音がスマホから流れており、会話が漏れている。地方では通信インフラは崩壊しているけども、東京では機能している。
インターネットや通話ができてうらやましい限りだ。
三船は僕の姿を見ると頭を下げてきた。
「すまない。冒険者ギルドに呼ばれた。本当なら東京を案内して、状況を説明しないといけなかったんだが、急な呼び出しをくらって出来そうにもない。仲間に案内させようとも思ったが、俺だけじゃなくパーティー全員呼び出しだ」
「呼ばれたなら仕方ないよ。気にしなくていいから早くいきなよ」
謝罪をする三船は申し訳なさそうにしていた。何度も下げる頭を僕は小さく手を振って、受け入れた。
冒険者たちが下りていく。馬車に頭を下げ、僕たちに頭を下げて離れていった。三船は最後まで頭を下げていて、僕は気にしてないと笑顔で手を振った。
ロータリーで僕たちと馬車が残された。馬車の開いた中には商人が一人だけいる。
僕は院長に顔を向けた。
「院長、東京を観光してきなよ。今の東京はかつての東京じゃないけど、少なくても田舎よりは楽しいはずだよ」
僕は財布を取り出し、お札を何枚か取り出した。6万円ほどの金額だけど、今の東京では足りないかもしれない。だけどこれ以上は財布に入ってないので我慢してもらう。
院長は躊躇ったあと、僕の顔を凝視した。
そのあと無言で受け取った。
僕の意図を察してくれたようで、院長はそのまま去っていく。ただ院長が令嬢の怪人と近くにいたDランクの怪人の袖を引いていた。僕はそれに従うよう怪人たちにジェスチャーで指示。Dランク怪人2体、令嬢怪人の過剰な戦力を率いて、院長は東京へ繰り出していった。
商人が口を出してきた。
「院長さんにも用事が」
商人の言葉を僕はかぶせるよう口を開いた。目論見などが手に取るようにわかっていた
「もし巻き込んだら君は無事じゃすまない」
嘲笑を浮かべた僕に対し、商人は一瞬怯えを見せた。僕の表情の変化を悟った怪人がすぐさま殺気を商人へ向けたからだ。また怯えを訓練されているはずの馬も暴れだし、御者が慌てていた。
僕が指をならせば、怪人は殺気を止めた。
「自己責任したいかな?」
僕の問いに商人は思いっきり顔を横に振った。怪人の実力は来るまでにたっぷり見せた。魔物や魔獣からの暴力を暴力で蹂躙して見せつけたのは正解だった。
僕は笑みを浮かべた。
商人が乗っている馬車は大型だ。冒険者パーティーを2つ乗せれるぐらいの広さはあった。
「君の目的はわかってる。だから連れて行ってもらおうかな。拒否したければしていいけど」
商人はおびえつつ縦に何度も首を振った。
冒険者パーティーがいるときにはしない脅迫。三船たちに対しては恨みはない。あくまで冒険者の依頼があって、それを受けただけだからだ。ロッテンダストになって過剰に甚振ったけど、あのときは暴力団とグルだと思ったからだ。
敵対するものには過剰な暴力を与えること。
これが現在の八千代町のルール。
「まあ悪いようにはしないさ、君だけはね」
そして僕たちは乗り込んだ。商人の隣を怪人で埋めて、僕の隣は凶悪面の怪人と前髪に赤メッシュが入った怪人のみだ。
僕たちを乗せた馬車が進んでいく。車道をこえ、目的地へ進んでいった。
その最中に会話はない。僕はにこにこしていて、怪人は殺気を商人に向けていた。だからか商人は生きた心地がしなかったと思う。目的地に着き、馬車が止まった際、慌てて降りたのが証拠。
僕たちもついていく。
うす暗いビル群が立ち並ぶ。路地ではないけれど、雰囲気が最悪に暗かった。景気も悪いのか、周りにいる人々の表情がどん底の感情を秘めていた。僕たちの姿をみて、一瞥し、観察してくれた。
だから僕は笑顔のまま、親指を下に向けた。
それを見たものたちが憤恕の感情を高めていたけれど、怪人が殺気を飛ばせば足早に逃げていった。
ここは東京のスラムだ。ビル群は立ち並ぶし、人の通行はある。だけども暗く、薄汚い格好の人々が多かった。馬車がとまったあと、御者はこの場所での居心地が悪そうだった。ただ手を出される心配もないと思っているのか、今すぐ立ち去ろうとしていない。
商人が駆けこんだ先のビル。
薄暗いビルだ。廃墟ではないけれど近いビル。
僕たちはそのビルへ向かっていく。
ビルに入ると目の前の受付カウンターには一人の男がいた。僕たちを見た際、怪訝な表情を浮かべてすぐ笑みに変わった。ただ雰囲気が違うし、笑みに変わる瞬間値踏みするものになったのを見逃さなかった。
「八千代町の方々ですね、連絡は聞いております。どうぞ2階へ」
男が笑みのなか手を通路奥のほうへ向けていた。その奥の通路は暗すぎてよく見えないのだけど、きっと階段があるのだろう。
「ありがとう」
僕は答え、案内されたほうへ向かっていく。怪人も同様、ただ凶悪面の怪人が男へ一瞥すれば、視線をそらされていた。ジャージのポケットに手をつっこむ僕がいう。
「態度が悪いよ」
「申し訳ないですな。ああいう輩をみると虐めたくなってしまいましてな」
ちっとも反省の気持ちがない凶悪面の怪人。
僕は手をつっこんだまま、肩だけをすくめて見せた。
「僕を見習いなよ、いつだって平和さ」
そういって僕たちは進んでいく。暗闇の中であっても、近づけば見えないわけじゃない。ちゃんとうす暗いけど灯りはあった。だから奥へ、階段があったので上っていく。2階までたどりつくと、目先に見える通路の奥から人の気配があった。
「あいつらはやばい」
聞き覚えのある声があったので、その方向へ進む。階段を上がって先には広がった廊下があって、いくつもの部屋に分岐していた。ガラス張りの部屋や、トイレ、休憩室、お茶を入れる部屋とか色々あった。それらを歩きながら地図を頭にいれていく。このビルは4階建てのものだ。小さなビルだし、周りのビルに隠れてしまっている。
まあ目立たない努力は必要だろう。
気配のした部屋にたどり着き、僕は怪人へ目くばせをした。前髪に赤メッシュのある怪人が察し、扉をあける。先行するのは凶悪面の怪人、僕はその次にはいる。最後にDランク怪人たちが入ってきた。
部屋にあったのはテーブルを挟んで、ソファーが1つずつある部屋だった。
応接部屋かもしれない。
そう思いつつ、僕は片手を小さく上げた。
「やあ」
笑顔で挨拶をした。
中にいたのは入り口側から見て壁際にたつ3人のスーツを着た男とソファーに座る男が二人だった。僕たちが入り込むとすぐさま、視線を向けてくれた。殺気が一瞬混じるが僕たちの姿をみて、何とか表情を取り繕ってくれた。
部屋の片隅に商人がおり、僕たちの姿を見ておびえていた。
「お客様だよ。仲良くしてね」
そういった僕は相手の反応をまたず、空いたソファーへ座った。僕の背後には怪人が2体たつ。凶悪面の怪人とDランク怪人が1体。ソファーのわきにも2体、僕の隣に前髪に赤メッシュの入った怪人がたつ。
ソファーの背もたれに両手を伸ばし、足をくむ僕。
「偉そうでしょ?実際偉いんだ僕」
そう笑う僕の表情をみて、男たちは表情を変えていた。殺気を隠しつつも、僕をうかがう姿には尊敬すら抱く。テーブルの奥のソファーに座る男二人には特徴があった。
修羅場を潜り抜けたであろう、しかめっ面の男。年齢は40台後半ぐらいだろう。片耳が損傷しており、耳たぶがない。
また年を重ねつつも冷酷さをもつ男。しわがありつつも、体は鍛えているのだろう。年齢も50前半ぐらいに見える。また片耳が損傷している男が敬意を示していることから上司に見える。
その二人が僕を睨みつつも頬は笑みを浮かべていった。
「ここがどこか知っているんだろうな」
40代後半のしかめっ面の男が問う。笑みを浮かべていても青筋を浮かべている。また懐に手をいれているところ、その服の上からの膨らみからわかる。拳銃を仕込んでいる。
「だから何。君たちが八千代町から呼び出したんだ。来てほしかったんでしょう、来てあげたんだ。感謝して、歓迎してよ」
僕はふてぶてしく答えた。その態度に青筋を更にうかべるしかめっ面の男。懐にいれた手が激しく震えていることから、殺意を抑えているのかな。
それを手で制するは冷静さをみせた男だった。
「俺の名前は、権田道兼だ。隣のやつは田村っつう、ここの若頭だ。お前さんも気づいているよう、ここは暴力団の根城だ」
紹介をされた以上僕もそれを返す。
「ご丁寧にどうも、僕は八千代町のしがない用務員、浅田だ。君たちも見てわかるように、ただの凡人だよ」
そういって僕は態度を悪く答えた。
足をくみ、背もたれに首を預けた僕の態度は悪い。
「てめぇっ、ボスを前に!」
しかめっ面した顔の男、田村が僕に対し激しく牙を見せた。懐から一瞬表に出たのは黒いもの。
それを手で制しているのが権田、つまり田村の上司で、ここのボス。
権田が僕の態度や表情をみて、尋ねてきていた。ただ自分の経験によるものか、僕を見くびる様子はなかった。
「お前さん、堅気か?」
「ただの凡人だよ。気にしなくていいよ。僕個人は本当に弱くて、優しくて、気高で、大したことのないやつなんだよ」
僕が浮かべる余裕差をみて、権田は逡巡しているようだ。この部屋に来ても変わらず、態度もふてぶてしい僕。背後にいる部下であろう男たちも懐に手をいれている。
ただ僕は最も怖いものと日々対峙している。この程度の相手におびえることができなかった。その余裕が相手にはおかしく見えたのだろう。
怪人じゃなく、ただの人間。
「ここはな、お前さんのような、いかれた奴が来る場所じゃないんだ」
少しも恐れない態度に相手は勝手に理解してくれた。
権田が言った言葉に僕は嘲笑で返す。
「呼んだのは君たちだ」
その言葉に権田は頭に手を添えて、困った表情を浮かべた。
「ただの田舎ものだから、都合がよいと思っただけだ。呼んだ結果が化物とは思わなかったんだ。許せ」
権田はそういいつつも、空いた手を腰へ回している。ゆっくりと忍ばせたその手は間違いなく腰にある武器を手に取る体制だ。僕を相手に油断をしないのは素晴らしいこと。敵対するには、僕たちは歪すぎる。
「いいよ。許してあげる」
僕は腰を上げ、動き出す。目を向けず無作法に無警戒を装ってだ。だから男たちの動きが攻撃態勢になっていることを意図していない。そういう風に演じていた。
怪人も僕の意図に気づき、追従してくる。
権田の手が腰に回り、僕たちのことを何気なく監視している。
そして僕が扉に手をかけ、怪人たちが背を向けたときだった。
権田が叫んだ。
「全員やれ!!ハチの巣にしてやれ、油断するな、相手はいかれたやつだ。容赦なく殺せ、撃て」
どんな組織にも立場があり、その理由が存在する。僕はそれを理解しているし、怪人はそれを察している。田舎者になめられちゃいけないし、そもそも甘く見られてもいけない。
油断をさそって隙をねらうのは当たり前だった。
でも相手が悪い。
僕の前にたち怪人が盾にすぐさま行動を展開。その直後に男たちは懐から拳銃を引き出した。そして僕たちへ向けて発砲した。何発も硝煙が部屋にめぶき、充満する。撃たれた弾丸と、回数。全部を怪人が防いだ。その事実に動揺している連中。そのさなかにも怪人たちは動き出す。僕の盾をしつつ、男たちへ向かっていく。
銃弾は怪人に当たっている。
ダメージを負わないだけだ。
銃弾を避ける必要も躱す必要もない。Dランク怪人で人型タイプであっても銃弾ごとき大して怖くないのだ。
「銃弾を食らってるのに死なねぇ。こいつ冒険者か」
「だったら組織の冒険者を呼べ!雇っているヒーローを呼べ!!」
男たちの悲鳴が銃声とともに演出されていく。悲鳴をよそに近づき、男たちの首をしめ持ち上げる怪人。壁際の男には二人ほどDランク怪人がゆっくりと歩み寄っていた。銃弾をものともせず、壁際の男たちを締め上げた怪人たち。
首を締め上げ、持ち上げる怪人たちの様子は見えない。
だけど楽しそうなものをうかべているんだろうな。
僕は嗤った。
「殺さないでね。これからそれで遊ぶんだから」
敵対者には絶対の恐怖を。
今も勢力をたもつ地方のルールを味合わせるのだ。
壁際の男二人を首絞めて、気絶させた。銃弾が効かず弾丸が切れたのか、残り一人がおびえて隅へうずくまっていた。その男へ怪人が2体近づき、そして前方、後方から首を持ち上げられ、恐怖の悲鳴をもって持ち上げられた。気絶するまで追い込まれていく。
ソファーに座る男たちは凶悪面の怪人が背後からロングソードで警告を発していた。首筋に迫る切っ先に二人の首筋があった。
二人は拳銃を引き出してはいるし、田村は発砲もしてるけど、今はできていない。
「遊ぼう」
僕が告げると権田も田村もゆっくりと顔を向けてきた。
そして絶望に染まる。
「このビルの構成員全員獲物だよ。倒せば倒すほど得点アップ」
僕は嗤って、入り口から奥側のソファーへ戻っていた。
そして偉そうに座る。僕のわきにたつ赤メッシュが前髪に入った怪人。
「地方をなめすぎさ、たかが暴力団ごときが僕たちに勝てるわけないだろ」
僕はソファーから乗り出し、権田の襟をつかんだ。
表に出されていた拳銃に手を添えて、そのまま受け取った。抵抗はない。僕の顔を見て、この惨状をみて抵抗する気はなかったようだ。
無事なのは商人だけだった。
僕は視線を商人に向けた。
「君だけは無事だよ。これから君には地獄を見届けてもらう。こいつらの地獄を君は見届けて、そのうえで考えるんだ。誰よりも大変だよ」
僕はそういって笑い声をあげた。
「あっはっはっは」
誰もが意見をこぼすことのできない空間。
「このビルを制圧しろ、暴力団に与した冒険者は動けないようにしていい。ヒーローも同じだよ。徹底的に排除していい。手加減できない相手なら潰せ。暴力や脅迫が得意なやつらに地方の意地を見せてやるんだ」
僕は嗤ったまま、それを告げた。今意識があるやつは気絶まで追い込まれ、片隅に集められた。商人はうずくまり、僕を恐怖の表情で見つめていた。
「君だけは無事だよ。保証してあげるね」
そう優しく告げれば絶望を濃くしていった。
銃声を聞けば実力があるやつは必ず警戒するし、撃退しにくる。それを叩き潰せば、この暴力団は制圧できる。人間と怪人の差は歴然であり、冒険者であっても変わらない。警戒すべきはヒーローとか魔法少女あたりだけど、この程度の組織なら用意できても低ランク。
Bランクの上級怪人、Dランクの一流怪人相手には勝てやしない。
「君たちを守るものは何一つない!警察のやさしさは暴力団にも向かっていたけれど、今は何もないんだよ。君たちを甚振っても、何をしても、過剰に反撃しても僕たちに立ち向かう組織はない!」
怪人よりも弱い連中が勝てるわけがない。
普段相手にしている奴らのレベルを思えば、人間なんて怖くもない。
怪人が動き出す。手元に赤のメッシュが入った前髪の怪人だけ残して、他の怪人は動かした。油断せず、怪人4体で回ればきっと面白いことになるだろう。Bランク上級怪人さえいれば事足りる。でもやるなら徹底的に弾圧しよう。
一体だけを残し、怪人たちは出ていった。
Bランク怪人の拘束から解放されたものたちは居心地悪そうにしている。
一体だけしか護衛のいない僕が相手なのに、怯え切っている。
暴力団の片腕、田村に対し僕は口を開いた。
「そこの人拳銃をテーブルにおいてね。発砲してもいいけど、そのときはプレゼントをあげる」
権田の拳銃は奪った。もし素直に渡せばいいし、渡さなければ潰せばいい。だけど僕の言葉とともに拳銃をテーブルに置いた田村。
「抵抗しないの?」
嘲笑し続ける僕に対し、無言でいうことに従った。顔は下に向けており表情はわからなかった。
「君たちは何も間違ってない。攻撃してきたことも全部正しい事だった」
最後にそう告げ、隣の怪人に目配せをした。
「眠れ」
怪人が指先を二人に向け、魔法を放つ。緑色の魔力が一瞬見えたけれど、その頃には二人はソファーに体を預けていた。
「僕たちが相手じゃなければ正しかったんだ」




