友梨奈の過去(前編)
感想ありがとうございます!
私の名前は二宮 友梨奈。自分で言うのもなんだが、私は結構モテる。中学ではファンクラブができていたほどだ。
※
話は中学まで遡る。私は普段同様、学校へ向かっていた。中学校はとても楽しく充実した毎日を送っていた。しかし、勿論いいことだけが起こり続けることはあり得ない。それは私にも言えることだ。
私が学校へ向かっている途中、川で子犬が溺れているのを見つけた。私はすぐに駆け寄り制服のまま川へ飛び込んだ。
そこからは無心だった。私は子犬を助けてまいと必死に泳いだ。そして遂に子犬を助ける事に成功した。私は安堵した。しかし、それがいけなかったのだ。子犬が急に暴れ出したのだ。溺れて混乱していたのだろう。私は子犬を宥めようとするも、パニックに陥ってしまった。そこからは簡単だ。
私も溺れそうになった。苦しさから抜け出すために、もがいて、もがいて、その結果、また苦しくなる。その連鎖の繰り返しだ。
このまま死ぬのかもしれない……。
もがき続け沈んでいく私は死を覚悟した。
そのときだった。一人の男性が水に飛び込んで猛スピードで駆け寄ってきたのだ。男性は30メートルほどの距離を数秒で詰め、あっという間に私の目の前に現れた。
「落ち着いて!しっかり!」
彼は私の腕を自分の肩に回し、子犬を頭の上に乗っけて岸の方まで泳いだ。
男性のお陰で私と子犬は助かることができた。
私は彼にお礼を言うと、彼は私のお陰で子犬は助かった、と謙遜する。彼は当たり前のように私たちを助けたのだ。きっとこの時からだろう。私が彼に恋をしたのは。
私は彼の衣服を見ると私と同じ中学であり、同じ2年生であることがわかった。彼も気づいたのか私に声をかけてきた。
「君も第一中学校の生徒なんだね。」
「はい!この度は助けていただき本当にありがとうございます。」
すると彼はさっぱりとした笑顔で言う。
「どういたしまして。それと、多分君、俺と同級生だよね?紋章が赤いから……。なら、タメ口でいいよ。」
私は嬉しくなり、彼に名前を覚えてもらおうと自己紹介をしようとした。
「私は──。」
私は思い止まった。私の名前を聞いたら彼が私のことを避けると思ったからだ。上記で述べた通り私には有り難い事にファンクラブがある。それ故、男子生徒が私に近づこうとするとファンクラブから制裁が下るらしい。そのせいか多くの男子生徒が私に話しかけてこない。ここまでまくるとファンクラブが少し邪魔だと思ってしまうが、取り敢えずそれは置いておいて、
つまり、彼が私の名前を聞くと私がお近づきになれないと言う事だ。
「私は、ってなに?もしかして俺と会ったことある?」
どうやら彼は私のことを見たことが無いようだ。
「いえ、貴方とは初めて会いました。良ければ貴方の名前でも……って!何してるんですか?」
私が彼に聞くと彼はリュックからタオルを取り出しながら言う。
「ごめん、ちょっと急いでるから、このタオルで体拭いてね。それじゃあ、俺はもう行くから。」
彼は濡れたまま、風のように私の目の前から去っていった。
私は突然の出来事で少々理解に苦しむ。
……つまり、まとめると、彼は私を助けてくれたが、名前も言わずにタオルだけ置いて去っていった、と。
「なにそれ!かっこいい!」
私は心の声が漏れてしまう。私はタオルを鼻に近づけ匂いを嗅ぐ。彼の匂いがした。とてもいい匂いだった。側から見ればただの変質者だろう。しかし、初めて恋をした私に取ってはこの行為はとても幸せな行為だった。
私はこのタオルで体を拭く。そして、タオルを畳んでいると刺繍が目に入った。
『琉輝亜』
私は彼の名前だとすぐにわかった。私の心は舞い上がった。
早く会いたい!
心からそう思った。
これが私と彼が初めて会った日であり、私が彼に恋をした日だった──。
※
私は一度家に帰って制服を着替え直し学校へ向かった。勿論遅れたのだが、朝の出来事を伝えるとお咎め無しとなった。
私は学校の名簿を隈なく調べる。そして遂に彼の名前を見つけた。
それは同じクラスの『上条くん』であることがわかった。クラス替えの影響もあるが、私は男子と関わることが少なく殆どの男子の下の名前は覚えていなかった。彼はとても明るく、優しそうな人でとてもかっこよかった。
私は思い切って彼に話しかけた。
「上条くん!」
彼は驚いたような顔でこっちを向く。
「私と一緒にお昼ご飯食べない?」
私がお昼ご飯を誘うと、彼は戸惑いながらも承諾してくれた。周りの男子たちは上条くんの背中を軽く叩きながら、盛り上がっていた。
上条くんは恥ずかしいのか少し顔が赤くなる。私も恥ずかしくて、親友のなーちゃん(広瀬 七海)に抱きつく。すると、なーちゃんは驚きを隠せないまま、私に聞いてきた。
「ゆーりっていつから上条くんの事好きだったの?!」
「それは……2年になってからだけど……。」
「最近じゃん!でも、あの、ゆーりがねー。」
「あのってなに!もぉー。」
「「アハハッ!」」
お互いに笑い出す。私は良い親友を持ったな。再び感じた。
「頑張りなよ、ゆーり。私は応援してるから。」
「ありがとう、ゆーり!」
※
それから私は彼に何度もアプローチした。我ながら積極的だったきがする。そして、私はいつも通り、彼に食事の約束をしに行くと彼はそれを断った。
少し積極的すぎだったのかもしれない。
当時の私はそんなことを考えていた。結局、彼は拒否しつつも私と食事をとってくれた。その時に気づくべきだった。まさかあんなことが起きてたなんて──。
※
ある日私はある女子生徒の会話を耳にした。
「上条って知ってる?」
「うん、知ってるー。あれでしょ?嘘告された人!」
「そうそう、なんかちょっと優しくされただけでころっと好きになったらしいよ。」
「へー、上条くんって軽くない?」
「そうだねー。もしかして、ヤ○○ンなんじゃない?めっちゃギャルに引っかかってそう。」.
「「アハハハハ」」
2人の女子生徒達は盛大に笑っていた。しかし、私に気づいたのか直ぐその場を去っていった。
私は彼を侮辱された怒り以前に彼が心配になった。
私は急いで彼の元に向かい彼に尋ねた。
「上条くん!大丈夫?」
すると彼は乾いた笑みを浮かべ言った。
「俺は大丈夫だよ。でも、これから高校の勉強しないといけないからこれからは一緒にいられない。だから、今までありがとう。」
そう言って彼は席を立ち離れる。私は唖然とした。
なーちゃんが駆け寄ってくる。
「ゆーり、大丈夫?」
私はさっきの彼の事を思い出す。彼は乾いた笑みを浮かべていて、そして、──濡れていた。
まさか──。
「なーちゃん、上条くんってイジメられてたりしたの?」
するとなーちゃんは言いにくそうな顔をする。
「えーと、そうなるね……。」
私は顔が真っ青になった。
彼がイジメられていた……。私はショックで倒れそうだった。
そして、今日以来、彼の目に生気が宿ることはなかった。
入りきれなかったので前編と後編に分けさせていただきます。