第2話 開かれた空
こんにちは
今回は説明ばかりですがお楽しみ頂けたらこれ以上の幸福はありません
私は肩の痛みから朦朧として、夢でも見ているのではないかと錯覚した。
乗ったこともない機体に乗り、触ったこともない操縦桿を使い、機体をまるで自分の手足のようにいえ、それ以上に自由に操る少年。
噂に聞いていたゲームがある。
興味がないので深くは知らないけど、別の隊の人がプレイしていたゲームらしく、一見するとそのゲームはただのガンシューティングゲームであるが、それまで普通の成績であった兵士がそのゲームをプレイしてから瞬く間に戦果を上げていった。
プレイヤーのIRパイロット特性を開花させ、新たなステップへと進化したパイロット[セカンドタイプ]、彼らをそう呼ぶものも少なく無く噂程度に知れ渡っていた。
もちろん全ての人に特性があるわけではないらしく、我が軍でも2〜3人だったはず
ただ目の前の少年は全くの操作をしていない、見たこともないIRを見事に操縦していたことを考えると、仮に彼が件のゲームをプレイしていたとすれば、他の[セカンドタイプ]と格が違うように感じる。
「あなた…一体何者?」
無我夢中で操縦桿を動かして息遣いの荒くなった少年に対して疑問をぶつける。
「はぁ…はぁ、何者って…ただのゲームが上手な学生です。」
「そう…だったわね…」
確かにこの少年はただの少年であった。だったと過去形にするべきである可能性はあるが
「取り敢えずこの領域は敵に察知されているでしょうし安全圏まで離脱しましょう。…お願いできる?」
「乗り掛かった船ですし、最後までやりますよ。それに、まだ肩の治療が終わってないでしょう?」
「そうね。ありがとう本当に助かるわ」
私は傷の手当てをしながら比較的近くにあり安全であろう場所を指定する。
「それでどこに、いけばいいですか?」
「街の中心にあるサブターミナル施設…あそこは火器厳禁で銃の使用もマイクロチップで制限されているから戦闘にはならないはず」
西暦2450年から30年余りで造られ、宇宙から地球を輪っかで覆う超巨大建造プラットフォーム[天外の門]、この超大型建造物は地球から3本の柱[アトラス]で支えられ、宇宙まで届く地球の外周のリングである。その構造物は、要はスーパーコンピュータであり、全人類全ての人間が同時に、バーチャル空間にダイブしてもネットワークがパンクしないようにするためのものである。
その容量は凄まじく、限りなく増加した人類全ての人間が同時にバーチャル空間にダイブしたとしても3割程しか容量を使っていない状態でなおかつその際限は無く、新たに自ら開発、容量確保をオートで行う状態である。
精神のフルダイブバーチャル空間という旧世代なら危険視されていた技術もその存在から永久的に安全視されている。
その安全性もさることながら、プラットフォームのバーチャル空間にダイブする以外の接続をする場合、一つのプラットフォームの管轄にある計5つからなるサブプラットフォームのうち過半数3つからの許可が必要であり、そのサブプラットフォームも直接現地に赴き、接続しなければならず遠距離からのハッキングは不可能となっている。
尚、どうしてプラットフォームを、人類にしてはまだ遠い宇宙に作ったかだが、まずはプラットフォームそのものの直接的な攻撃を避けるためである。
現在の技術力でも地球から宇宙にあるプラットフォームを正確に狙い、防衛装置を掻い潜り破壊する兵器は開発されておらず、現実的ではないからである。(そもそも脳に埋め込まれたマイクロチップのおかげで破壊そのものの行動は制限されている)
それと宇宙空間での低温を利用した冷却装置と、地球の赤道上にある外周リング[天外の門]に取り付けられたソーラー発電装置により地球とプラットフォームの電力を補っているからである。
街の中心か…現在の場所は街から離れた漁港なので来た道を戻る形になるだろう。
来た時の襲撃のことを考えると来た道を回り込むようにして行くべきだろう。空を食べるのにどうして上から直接行かないかというと、まず空の上では物影がなく敵の同タイプの人型ロボットに出会った場合、先程の不意打ち紛いの戦闘とは訳が違うと予想できるので、市街地を盾にできる大通りを低空飛行する方が安全と考えた。
「わかりました、そこまで行きます。ですが、せめて素顔とお名前も教えて欲しいところです。」
出会ってから今もなお、フルフェイスのヘルメットを被っており、目元のバイザーを開けた状態なので、俺は彼女の性別と声、瞳の色がブルーなだけしか知らなかった。
「ごめんなさい、うっかりしてたわ」
そう言うと女性はフルフェイスのヘルメットを取り、その顔をあらわにした。
長い金髪を後ろでまとめ、ヘルメットをとってからサラサラとした髪を靡かせる。見るからに西洋風な顔立ちでかなり整っており、ランウェイのモデルだと言っても信じてしまいそうだ。
「対特殊防衛軍独立部隊[イーグルアイ]5番隊所属アンジェリカ・アマルガム中尉であります!」
昔の資料で見たことがありそうな軍隊の紹介と、最後に追加されたウインクにより、情報量の多さとギャップでめまいが起こりそうになり、顔を彼女から逸らした。どうして目を逸らしたかというと決して彼女の美貌が魅力的すぎて眩しく感じたわけではない…決して
お互いに自己紹介をする。俺の場合は本当にただの学生なので彼女の後に言う場合酷く味気なく感じてしまう
彼女の自己紹介でいくつも気になることはあったが軍隊か…戦争は無くなったはずだがと、俺は疑問に思い質問してみた。
「戦争は確かに終わったわ、けど世界各地にあるテロや、今の政府に少なからず不満を持っている人が、暴動を起こすことはそう珍しいことではなく、そのための予備戦力として防衛軍があるの。もっとも今回の一件は…戦争に分類されるでしょうね」
何に対しても絶対はないし起こらないとされていた戦争も元に起こってるそうだ
「確かにあんな機動兵器同士の戦い、一昔前の作り物の映像媒体でしかありませんよ」
「それについても…いいわこの際全部話してしまいましょう。この機動兵器の名前はIRギリシャ神話の翼を得た人間[IKAROS]が名前の由来らしいわ。私の愛機、今あなたが乗りこなしているこの子の名前は[IR-ブルーガスト]、先ほど対峙した機体が[IR-レヴェリス]よ」
機体別に名前がつけられているのか、旧世代のロボットが好きな人なら泣いて飛び付き離さないような代物だろう。
ただ、イカロス…確か、塔から逃げるためイカロスは鳩の羽に見立てた翼をロウで固め飛びったったが太陽に近づきすぎたため、イカロスはロウで固めた翼をもがれ、地に落ちた。だったか…落ちることが前提の名前はどうかと思うのが率直な意見である。
「それで話は…15年と半年前に遡るわ、西暦2450年人類が手と手を取り合い、国の枠組みを超え互いに協力し戦争をなくして50年がたった。その記念として始動したのがIKAROS Project (イカロスプロジェクト)、西暦2500年人類の節目として記念に始まったプロジェクトで、この時代に流用されていた5メートルほどの、人型ワークローダーやパワードスーツの概念を流用して、12メートルまで大型化したロボットで空を自由に飛ばす計画で、人類総出で取り組み自由の象徴である空を飛ぶロボットを世界平和の象徴とする計画であったのよ。
人類規模での設計開発を経て、僅か1年足らずでプロトタイプである[IR.p.-プロトタイプイカロス]が完成され、その半年後プロジェクトの終着点として[IR.r.-イカロス]が完成された」
今から15年前となると俺は3歳か…当時を覚えていないとしても、それほど大きな事柄なら資料が残っていそうだが、どういう訳か初めて聞く内容であった。
が、どうにも話がオカルトチックになってきた気がしてきた。いや、空を飛ぶロボットをいきなり操縦できてる俺の方がオカルトではあるのか…などと、思考を巡らせていると、彼女…アンジェリカは話を続けた。
「でも…話はそこでは終わらなかったわ。ある組織[キャロル]と名乗る連中は[IR.p.-プロトタイプイカロス]と、[IR.r.-イカロス]の開発データを強奪したわ、強奪されてからその存在に気付いた国や組織のお偉いさんは自身のメンツを保つため、そして失態を恐れてその事柄を隠蔽してそもそもなかったことにしたのよ。ちなみに[IR.r-イカロス]が強奪されていなかったのは民衆への発表前の最終チェックで、オーバーホールしていたから取るに取れなかったのでしょうね」
とんでもない話だった。俺はその話に対して言葉が出なかった。
あまりにも…自分には無関係で縁のない話であったからだ。そして一つ疑問が浮かぶ…どうして守秘義務もあるような、今の政権の存続がかかってもおかしくない内容を一般人の俺に対して話したのか、単純に命を救われたからではないだろう。が、知られたからには生きては返さないというのもおかしな話である。
その理由を聞こうとした時、目的地である街の中心のサブプラットフォーム付近に近づいていたことが、コックピットのモニター越しにわかり、次の角を曲がるとそのままサブプラットフォーム施設へと一直線であった。
その瞬間俺は、感じたことのない感覚に陥る、思考にモヤがかかったような、頭の中で毛糸がぐちゃぐちゃに絡まってしまっているような…うまく言葉で言い表されない感覚であったが、一つだけわかることは…この角を曲がった先に何かがあるということ
俺は、アンジェリカの話よりも先に、目の前の角を曲がった向こうに何があるのかが気になってしまい警戒もせずに飛び出してしまった。
見るとそこには聳え立つビルの間、大通りの真ん中に一つのロボット…IRがあった。
そのIRはとても白く、動物のようにリアルで、大きな天使の羽を模した翼を生やしていた。手足は華奢で、今俺が乗っているIRが男性ベースだと仮定するなら、目の前のIRは女性と表される気がした。
それは思わず「綺麗だ」と言いかけたがアンジェリカの言葉に遮られた。
「あれはまさか、プロトタイプイカロス…ッ!逃げて…早く!この領域から逃げて!」
アンジェリカの反応から相当ヤバイ敵であることがその必死さから伝わってくる。が、その言葉を理解して、2秒の時間を有してしまい気がつく、一つの発砲音に…
パン!と一つの発砲音がした直後、ゴトン…と、鈍い音が足元から聞こえる。モニターで確認すると右手に持っていたライフルが、手首の関節ごと地面に転がっていた。
現在の情況から、間違いなく目の前の白いIRが発砲したことは間違いではないが、予備動作の動きがまるでわからなかった事である。
目を逸らさず見続けていたが気がついたのは発砲音が聞こえた後であった。このことから、目の前のIRは文字通り目にも止まらない速さでの早撃ちで手首を撃ち抜いたのである。
遠巻きではあるが発砲音の特徴から大口径の銃では無く恐らく拳銃タイプの武器であることがわかり、これなら敵機体との距離が離れている今ならまだ、速度を出せば逃げられる範疇だろうと、推測を立てた次の瞬間白いIRは翼を両端のビルに擦れてしまうほど大きく広げていて、恐らく飛び立つ体制である。
始動を見誤れば距離を詰められてしまうのは明白なので、危険を承知で背を向け空へと飛び立った
そう、飛び立ったと幻視していたが実際には目の前にいた白い機体が既にこちらの腕を掴み飛び上がるのを防いでいた。
1キロメートルは離れていただろう距離を、一瞬で詰められており、まるで子供が大人から逃げ出すような、それほどの力の差を感じた。
白い機体に腕を掴まれているときにまたしても妙な感覚に陥る。
今度はまず酷い吐き気である。三半規管を刺激され、急激な吐き気が巻き起こる。宙吊りになり胃の中のものが全部外に出てしまいそうになるほどの吐き気。それと頭痛である。頭を強い力で持ちながら、シェイクされ脳がドロドロになってしまうのではないかと思ってしまうほどの激しい頭痛。生まれてきてここまで酷い頭痛と吐き気は初めてであり、思わず叫び声が漏れる。
「ぐあぁぁぁぁ!痛い!痛い!痛い!痛い!痛いぃ!」
割れてしまう…頭蓋骨を突き破り脳が外に飛び出してしまいそうになる。
コックピットで頭を押さえ蹲っていると、座席の後ろに回っていたアンジェリカが心配して駆け寄ろうとする。
すると、こちらの機体の腕を掴んでいた白い機体は空に飛んで行くのがわずかに見え、痛みが頭からすっと抜けていくのを感じながら俺は…意識を手放した。
最後まで読んでくださり誠に有難うございます。
今まで登場してきた機体の頭の中でのイメージを申しますと
[IR.p.プロトタイプイカロス]はガ○ダムX コルレルにガ○ダムW ガ○ダムウイングゼロEW版の羽が生えたイメージが一番近いです。
[IRレヴェリス]はガ○ダムSEEDdestinyのウインダムが一番イメージが近いです。
[IRブルーガスト]はエルガ○ムに戦闘機の羽が生えたようなイメージだったりします。