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98:取引

黒猫姿のバーミィが、しずしずと歩み寄っていく。


「カーマイン殿、頼みがあるのですニャ。」


王都へ向かう魔道馬車の陰。

街道の脇に開けた草地で、ギルやミーリアたちは野営の支度をしている。


「なによ、改まって。」


しゃがみこんだカーマインが、バーミィの首筋に手を伸ばす。

いつもならするりとかわすバーミィが、大人しく触られている。


「珍しいわね。

何を仕掛けようってのよ。」


「偏見がスゴイ。」


カーマインが両手で身体をモフってくるのを、バーミィは遠い目をしてやりすごす。


ふう。

猫の身体にだって、ため息はありますニャ。


「僕の力では、どうにもならないと思い知ったのですニャ。

力を貸して欲しいのですニャ。

もし力になってくれるなら、なんでも言うことを」


「『何でも』頂きましたぁー!」


僕を抱き上げて妙な身振りで騒ぐカーマインの、目が笑ってないのですニャ。


「聞かせるという、トレスティンに対する権利を提供しますニャ。」


「あー。

そういや、あんた、契約でトレスティンの魂を手に入れてたんだっけ……

断ったら、トレスティンに何をさせるっていうの。

対価を差し出すように見せて、その実トレスティンの身柄を人質にしているというこの悪魔の所業……」


「そんな事、まだ言っていませんニャ。」


このこの小悪魔めが、とつぶやきながらグリグリと耳の付け根を攻めてくるカーマイン。


「しょうがないわね。

弟君を助け出すのは私の使命の一つ。

いつまでもあんたの好きにさせとくわけにはいかないもの。」


「まだ何もしてませんがニャ……?」


「じゃあ、トレスティンは明日から私の物ってことで。」


「言い方。」


身をよじると、地面に下ろしてくれたニャ。

ただし、カーマインが覆いかぶさるみたいにしゃがんできて、両手はさわったまま。


「で。

本題に入る前に、教えてもらいましょうか。

今のあんたのそれ、いつからだったの。」


「何のことですかニャ。」


「いやいやいや、初めて会ったころ、あんた、こっちのひとだったじゃない。

いつのまにか私らみたいにしゃべるようになったけど、あんたの中身はどうなってんのよ。」


「……きっと、マスターの魂の中身を、記憶を、のぞきこみすぎたんですニャ。

魂を見る者をまた、魂も見るのですニャ。」


「……あんた、ギルのこと、ずっと前から知ってるんでしょ。」


「思い出し始めたのは、身体を無くしてからニャ。

カーマインは、分かっていたのかニャ。」


「はっきり気づいたわけじゃないけど、なんだか自分で動き始めたなーとは思ってたのよ。」


「それなら、あとは黙って手伝えばいいニャ。」


「はー。

その見返りがトレスティンなんだもんなー。

断るわけにはいかないけどさ。」


カーマインは、バーミィの脇腹をぐりぐりとしてから立ち上がった。


「それで、私に何をさせようっていうの。」


「それは……」




「ねえ、ギル。

これ、食べてみてよ。」


俺は土属性の精霊術が使えなくなったから、野営は草を払って平らにしたり天幕を張ったり、久しぶりにアウトドアな作業をやっている。

料理に関してはバーミィの精霊たちがいてくれて助かっている。


簡単に皆が座れる場所を作ったところで、カーマインが肉の匂いが香ばしい何かを持ってきた。


「お? 珍しいな。

カーマインが自分で料理するなんて。」


「たまにはね。」


「おっ、焼き鳥か。

はは、ねぎ間もどきにボン尻とか、居酒屋っぽくていいな。

さてはお前、向こうでも相当呑む方だったんじゃないか。」


「ふふ、懐かしい感じするでしょ。」


「スイミンたちの作る料理も相当なもんだが、和食っぽい料理って発想はないわな。

ああ、こんなん食ったら色々思い出しちまうな。

スイミン、ペコ、こういう味も覚えていってくれよ。」


「んー、食べたくなったら私が作るわよ。」


「え? そうなのか?

料理するの、別に好きじゃなさそうだったけど。」


「ま、まあね、おいしい料理作ってくれるヨメがいれば、そりゃ、お任せしちゃいたいって言ってたけど。」


「そうだな、一回作れば再現してもらえそうだもんな。

俺も当分生身で暮らすことだし、スイミンたちに新しい料理を覚えさせてくのも楽しそうだな。」


「ん? ギルって、料理もできるの?」


「ああ、向こうでは一人暮らしだったからな、たまには簡単なものぐらい作ってたぞ。」


「そ、そう。」


なんだ?

宙に視線を泳がせながら、何かしきりに考えている気配がある。

カーマインめ、何か画策しているのか…?


今まで結構ぞんざいな扱いされてたからな、今さら料理作ったぐらいで女子力アピールとか好感度上昇狙いってのもなさそうだが?


「向こうと言えばさ、こっちにないものって他にもあるでしょ?」


「んー、そうだな。

食いモンは、元のパズ&ダズのイメージ壊すようなジャンルはあんまりないな。

システムの介入でどうしても作れない、なんてことはないけどな。」


「よくあるネタだとさ、おっきな風呂とか。」


「風呂みたいなのは、超技術的に充実してるぞ。

魔道具使ったエステサロンの話、したろ?

治癒術で欠損だって回復させられるし。」


「うーん。」


「なんだよ、急に。」


「ううん、何でもないんだけど。」


なんだか気味が悪いな。




サブタイトルを少し変更してます。

なかなか進軍するところまでたどり着けないので……!

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