96:進化
「転生…… この装備か?」
グレンガに問う。
「装備っつーか、守備系強化の進化させたんじゃないの?」
「いや、知らんな……
スキルが増えたのは、レベル上がったおかげかと思ってたんだが。」
「ふーん?
条件満たすと、勝手に進化するものなのかな?」
グレンガは髪をかき上げながらズボンを整えている。
中で着替えてから出てこいよ、腹筋が見えてるぞ。
通りかかりの娘がチラチラのぞいている。
くそっ。
「転生アルトって言ったな、パズ&ダズにそういう精霊がいたのか?」
「ああ、ゲーム内の告知にはなかったから一応隠し要素になんのかな。
つっても、聖鎧アルトを手に入れて覚醒アルトに進化させるだろ。
次の進化素材とか画面に普通に表示されてたから、ネットではネタバレ扱いでもなかったけどな。」
俺はバーミィの手によって、いつのまにやら覚醒し、転生まで果たしていたらしい。
「転生アルトって、精霊としてはどうなんだ。」
借り物だから性能をどうこういうつもりはないが、立ち回りのヒントがあれば知りたいところだ。
「覚醒アルトが回復もできる重戦士だとすると、もっとソロタンク寄りの性能だな。
一人で守備強化と継続回復ができて、鉄板騎士とか呼ばれてたか。」
「鉄板……
ネタキャラか?」
嫌な予感しかしない通称だ。
「まあな、その道のキャラならほかにもいるし、状態異常回復持ちとはいえ状態異常耐性は完璧じゃないから、確率で行動阻害くらったら自分じゃ回復できないという悲しい展開があってな。
自立する鉄板(ただし倒れたら一人では起きられない)っていうかっこが付く。」
「……ほかには。」
「火力は下がるぜ。
なんだったかな、ストーリーがらみのネタはあんまり覚えてねぇけど、誰かを逃がすためにしんがりを務めたシーンを表現するための進化だったかな。」
ふーん。
どういうエピソードなんだろうな。
「なんにしろ、転生進化は後戻りできねえからな。」
確かに、パズ&ダズの仕様はそうだった。
ん?
「……バーミィ?
この身体は、借り物ではないのか?」
「……借りたものではありますニャ。
ただ、マスターの骨の身体は、もうありませんニャ。」
「は?」
……は?
「死ねば、リスポーンするだろ?」
「いえ、ですから、もう骨の身体ではなくその肉体でリスポーンしますニャ。
今は結晶に閉じ込めてあるあふれた力が、デスペナで消えてしまうので、お勧めしませんニャ。」
「おい、待てよ。
この身体、闇の精霊術とか使えねぇんだけど。」
思わず、マスターらしからぬ口調で問い詰める。
つ、強くてニューゲームっていうか、転生で力を失うって、どういうことよ……?
「安心してくださいニャ。
一つ、再び闇の術を使えるようになる方法がありますニャ。」
「一つってなんだよ!
めっちゃ限られてんじゃねーか。
安心できるかよ!」
「ははーん、そういうことか。」
グレンガがあごに手をやって茶々を入れてくる。
「知っているのか、グレンガ!?」
「うむ。超転生だな。」
「超転生!」
俺が叫んでも、身体には何も起こらない。
「イベで超転生の素材が手に入るんだよ。
超転生アルトクリフは、光と闇の属性を併せ持つ遠距離魔術師タイプになる。
闇もそれなりに強力なスキル持ってたから、そんならいいんじゃね?」
「そういうことですニャ。」
「それまではどうしたらいいんだよ……」
転生済みレアキャラのソロタンクつったって、以前の俺からすればただ進化させただけの素体でしかない。
クルスにもまったく対抗できねぇ。
グレンガがマッチングバトルで同格のプレイヤーと戦闘に入ったら、はっきり言って流れ弾か範囲攻撃で瞬殺される自信がある。
「だから、言ってるじゃん。
俺が守ってやるって。」
なんでタンクが守られてんだよ。
その優しい目つきをやめろ。
ほれ、またカーマインがうれしそうにキラキラしてんじゃねえかぁ……