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95:転生

俺は、割り振られた天幕の一つに転がり込んで横になった。

中は暗い。

夜目が利かないのは不便なこった。


支給の備品がすみに固めて置いてある。

荷ほどきすれば、毛布の一枚もあるんだろうが、そのまま目を閉じる。


ふう。

われながら、酒臭い息だ。

息を吐くのも、酒の匂いを感じるのも、一つ一つが久しぶりすぎる。


頭上から聞こえてくるのは、ささやくような声。


「ねえ、眠いですか?」


「ああ、バーミィか。」


「マスター、すごく眠りたいですか?」


なんだ? 

バーミィが絡んでくる。

いや、どう見ても眠ろうとしてんだろ……


ほっといて背を向けるように寝返りするが、バーミィは離れようとしない。


尻尾でペシペシ顔を叩いてきたり、鼻をつまんできたり、上に乗って揺さぶってきたり。

目を閉じたまま、手を振って追い払う。


「しずまれ、バーミィ。

肉の身体は、か弱いものなのだ。

借り物の身体だ。

ちゃんと安らぎや眠りを与えてやらねばならん。」


今までのようなアンデッドとは違うのだ。

俺は自分にブラックな労働を強いるつもりはない。

ホワイトな道、お天道様の光の下を歩くんだよ。


「借り物の身体、ですか。

そんな言い方はいけませんね。

本気で寝たいなら、心の底から眠いって言ってください。」


なんなんだ、お前。

もう寝かせろよ。

こっちゃ久しぶりの生身で疲れてんだよ……


「本気で眠りたいですか?

眠れると、とっても幸せですか?」


そりゃもう、マジで寝たい。


「ああ、本気も本気だ。

今は静かに眠らせてくれたら、それで最高に幸せだよ……」


「そうですか。

うん、それは良かった、です。」


それきり、平和な眠りが訪れた。




……なんだったんだ、あいつ。

布地越しに感じる朝の光の眩しさに、目を覚ます。

近くにバーミィの気配はない。


上体を起こすと、天幕の外には、すでに人の気配がたくさんある。

隙間からは、青空が見える。

寝苦しかったせいで、革鎧は脱いで肌着になっている。

このまま出ていくわけにはいかんが……


立ち上がり、伸びをする。

全身の筋肉痛に、軽い二日酔い。


深呼吸してから、状態異常回復のスキルを発動させる。

聖気功という、パラディンやモンクには定番の術だ。

訓練の経験値でレベルが上がっていたらしく、取得できた。


金色の微光がただようと、体が軽くなる。

痛みや苦しみに弱い俺にとっては、ありがたいスキルだ。

ほかにも、治癒系や守備力向上みたいなスキルも、いくつか取得したようだ。

また使いこなす訓練がいるな。


さて、着るものがいる。

昼間の光の下じゃ、あの黒い革鎧はかえって目を引くし印象も奇怪だ。

それに、俺が普段使っていた装備は闇特化の付与効果のものばかり。

この身体にはむしろデバフがある。


何かなかったかな、目立たず性能もそこそこの……


光系統のキャラなど育てたこともないからな。

ドロップ品のうち、ガチで強力なものなら系統違いで使う当てがなくとも残しているが、さすがに神器みたいなやつじゃ目立ちすぎる。


インベントリをあさるうち、生成りっぽい布地の白い衣装が目についた。

和洋折衷感のある、ローブと道着の中間的なデザイン。

コラボってわけじゃないが、映画スター・ウェイズに出てくるイェッダの騎士みたいな衣装だ。


派手さはないが、かなり守備力が高く、回復力や状態異常耐性を高めるとかそんな効果もある装備だ。

ゆったりしていて楽に着られるし、フードもあって顔を隠すのにも都合がいい。

いいじゃないか。


袖を通し、帯を締めると身が引き締まる。

鏡を出して写してみる。


ふ、正しい道を歩むがごとき立ち居振る舞いじゃないか。

光る剣でも腰に下げたくなるな。


珍しくさわやかな気分で天幕を出る。

やあやあみんな、良い天気だな。


ちょうど隣のテントから、グレンガが出てくるところだった。

おい。

中に誰かいるんじゃないか?

床に落ちてるのは女物の服じゃないか?


俺がなんと突っ込むべきか思案していると、向こうから声を掛けてきた。


「へー、転生させたんだ。」


「あ?」


「それ、転生アルトじゃん?」



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