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93:覚醒

「その顔で…… 何を…… している…… のかな?」


カーマイン。

俺に気どられずに背後につくとは、腕を上げたな。


いや、俺に探知系のスキルがなくなっているだけなのか。

くそ、グレンガめ…… 

デッキにまともに組み込む予定もなかっただろうが、育成不足だろう……

これでは、俺は単なる脳筋キャラではないか……


驚いている雰囲気を気取られないよう、ゆっくりと壁ドンの腕を引き戻し、振り返る。

焦るな、キョドるな……


「……ミーリア嬢に、伝えたいことがあってな。

どうかしたか。」


「ふぅーん、伝えたいこと、ねぇ……」


「なんだ。」


「『淫魔の衝動』のスキルが使われたってうちの精霊が言うから、どこのどいつが何してんだかと思って、ちょっと様子をね。」


カーマインの背に立ち上る、ほの暗いオーラ。

そういや、王都でカーマインが契約した精霊の大半は闇属性だったと思いだす。


トレスティンというかバーミィが寄せ集めてしまった夜行性の精霊たちを、アカツキがまとめて倒した流れでカーマインが引き取る羽目になったのだ。

が、こうしてみると意外と相性がいいんじゃないかという印象も浮かぶ。


カーマインの闇覚醒か。

なんかもともと堕ちている感じもあるしな。

闇はいいぞぉ……って、今考えるべきはそういう話ではない。


淫魔の衝動って。

それは俺が被害者のやつや。

ミーリア、なんとか言ってやってくれ!


期待を込めてミーリアに視線を送るが、スッとそらされた。

ああ、まあ、バーミィがいなくなったあとにイタズラしてたのは俺かもしれんが。


「……その術は、バーミィが使っていたやつだ。俺は知らん。」


俺が被害者だといっても、衝動に負けて襲おうとしたのかという話になるだけだろう。

事実だが。


「バーミィねえ。」


カーマインの視線がわずかにあたりをうかがう。

バーミィの気配はない。


「それで。

伝えることってのは?

私が聞くとまずいんなら、お邪魔する気はないけれど。」


「個人的な話題ではあるが、俺たちの今後の動きにも関わりのあることだ。

カーマインにも一緒に聞いてもらおう。」


ミーリアは、唐突な展開にも黙って応じている。

よし。

いいぞ、そのまま静かにしていてくれ。

この埋め合わせは、いずれするからな……


「ミーリア嬢、前に、そなたに伝えたことがあったはずだ。」


「……?」


首をかしげるミーリア嬢。


「忘れたのか。カイバル少年を、手のひらで転がしてやれと。」


「はあ……」


急に出てきたカイバルの名前に、隠そうとしてもとまどいが見え隠れする。


「なんなら、俺を悪役に仕立てたって構わん。

このままでは、俺の愛人にされてしまうとでも言って、揺さぶりをかけてやれ。

カイバル卿が俺以上に魔獣討伐の功績を上げられれば、俺が退く流れも成り立つだろう。」


俺は、まったく別の話を展開して、白々しくもこの場を強引に突破する腹を決めていた。

危うくミーリアにキスを迫る流れだったなどと、知られるわけにはいかん。


カーマインは、微妙な表情のまま脇に立っている。

そうだ、他人のコイバナなんだ、事情を知らないお前がしゃしゃり出る場面じゃないんだ。


「……討伐の功績、ですか……」


話を振られたミーリアは、難しそうな顔をしている。


「心配するな。実際には俺が魔獣を討伐しつつ、最後に彼に功績を譲ればよい。」


漫画やラノベでは、定番のエピソードだ。

咬ませ、当て馬なら、まかせとけ。


「……カイバル家は、文人の系譜なのですが……」


連れてるNPCが敵の攻撃ですぐ落ちる、攻防両立させなけれならんパターンか。

よくある話だ、問題ない。


「カイバル卿は、まだ、少年なのだったな。

ならば、その護衛から育成まで引き受けよう。」


謎の傭兵にして指南役、その正体は王室の影武者というのはどうだ?

カイバル少年からしても、燃えるシチュエーションではないかね。

俺は、精いっぱい不敵な笑みを浮かべてみせた。


「はい……。

ですが、カイバルは、本来は戦に出るような家ではありません。

カイバル卿ご本人もですが、従者たちも、討伐に参加できるような者がどれだけいるか……」


ミーリアはうなずいたが、その顔には不安しかなかった。

完全な合意は得られなかった。

くっ。


「カーマインならば、どう思う。」


無理やりカーマインに水を向けてみる。

少なくとも、やましいことがあるならば、こんな風に話題に引き込むことはないはずと思わせる布石でもある。


婚約の申し出を撤回した話はしてある。

ライバルがお子ちゃまだったってこともな。


カイバル卿という新たな登場人物の紹介に対して、「私はショタ属性、あんまりないんだけどなー、トレスティンだけでいいかなー。」とか心の声が聞こえていた。

女子どもにモブの婚約者候補まで攻略対象となりうるとは、繊月の王国とやら、恐ろしい世界観だ。


「今回は成り行きで王家がキルリア領に助力したわけだけど、もともとはミーリアはカイバル卿とのつながりを考えていたのよね?」


お。

カーマインが、凛々しい口調で語り始めた。

これは、イベを進めるモードに入ったんじゃないか。



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