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89︰剣劇

くそっ、熱っつ、熱っつ!

グレンガの野郎!

っつーか、このザコ悪魔がうぜぇ!


俺をどつき回している炎の悪魔は、アスモデウス。

原典っていうか伝承上は凄い悪魔なんかな?

ゲーム的には古い精霊で、ちゃんと育成すればそれなりの性能だが、コイツは未進化で大して強化されていない個体だ。

おそらく、カブりでグレンガがボックスに放置していた中から引っ張り出したんだろう。


精霊としての性能でいえば、聖鎧アルトの敵ではない。

実際、何発殴られようが、炎ブレスに包まれようが、擦りむいて痛い程度の打撃でしかない。


ま、擦り傷といっても、俺にとっては十分痛い。

生身を捨てる覚悟を決めるほどに、俺は痛いのとかツライのが嫌なんだよ…… 悪いか?


にしても、アルトクリフ、飛び道具、すくなっ……!

アルトクリフの攻撃方法は、見た目のとおり騎士っぽい剣術系のもの。

俺にとっては、はっきり言ってこれまで無縁のタイプのスキルばかりだ。


絶剣技っつう、魔力の刃を飛ばす技がないではないんだが……

発動のタイミングとかエイムとか、シビアすぎんだろこれ!

格ゲーの入力で飛び回るFPSの標的追うってレベルだぞ、おいぃ……


防御面もツラい。

魔術師的立ち回りを中心とする俺の戦術でも、何かの仕掛けで敵に接近されることもある。

当然、回避のムーブはひと通り習得してあった。

だが、この身体の持っている回避スキルとではモーションが違いすぎて、イメージと噛み合わないんだよぉ……。


しかも、アルトクリフは光と聖の属性持ち。

俺が契約している闇属性の尖った精霊たちでは、デバフ効果や条件的に、デッキに組み込むのはもちろん、憑依効果による耐久力の上昇にさえ使えない……。


長々と言い訳を重ねてみたが、要するに、俺は高レアキャラを使いこなせず格下の敵に手こずっているという、ダサすぎる状況なワケだ。


「ほれほれ、もうちょっとマトモに立ち回らねえと、英雄王子の名が泣くぜぇ?」


ちょいちょいとグレンガが手を出しつつ煽ってくる。

威力は無いが、ていねいにさばかないとこちらの姿勢が崩され、すっころぶような攻撃。


そうなのだ。

これは、戦闘訓練というより演技指導なのだ。


アルトクリフは、その地位だけでなく剣の腕においても名を知られていた。

このあとのイベント進行では、戦闘シーンも避けられない。

戦力的には問題ないだろうが、アルトクリフの立ち回りがみっともないのは都合が悪いというのが、カーマインとグレンガから出た指摘だった。


そりゃま、憑依の後遺症で記憶を失ったとはいえ、身体は剣を覚えている……って話の方が、それらしく聞こえるわな。


簡単なフェイントにつられかけたところを、グレンガがすかさず足払いで攻め立ててくる。


くそ、無様に地面に叩きつけられた姿を、カーマインにも見られている……

弱音は吐けんが……


だが、カーマインの視線はせわしなく俺とグレンガを行き来しつつ、その口元はニヤニヤしている。


なんだ……?

俺がいたぶられてるのが嬉しいのか……?

最初の頃のパワーレベリングの、意趣返しってことか……?

一人で馬車と一緒に走らせたりしたこと、意外と根に持っていたのか……?


「ああっ、アルトクリフ様のお顔が泥にまみれて…… さすが鬼教官、しびれるぅ……!」


何か言っているから、声援かと思ったら。

しかも、なんで楽しそうなんだよ。


さらにテンションが下がってきたところに、バーミィがやってきた。


「大丈夫ですよ、マスター。

久しぶりの肉体ですからね、すぐに慣れますニャ。」


慰めてくれるのはいいが、いきなりこの身体に送り込んだのもお前だぞ。

恨みがましく文句を垂れてみると、ふわふわと漂いながら独り言をつぶやいていた。


僕なんて、身体なくしちゃってますからね。

元に戻ったら、きっとしばらくは大変ですね。


「で、トレスティンはどうした?」


「キルリア家の方々の歓待を受けていますニャ。

というか、目の色を変えたご令嬢たちが簡単には逃がさないって感じで囲んでましたニャ。」


「お前だけ、抜け出してきたってわけか。」


「歓迎の支度が整ったらお迎えが来るとのことでしたので、先ぶれに参りましたニャ。」


「そんなもん、念話で済むだろうが。」


バーミィは、ふふふーん、と鼻歌のような音を立てながら蝶を追ってごまかしている。

こいつめ。


ま、頃合いか。


「オラァっ!!」


かろうじて絶剣技を悪魔にぶつけることに成功した俺は、どさりと音を立てて草原に横になった。


「おお、やっと当たったか。」


グレンガに向かって、ひらひらと手を振って返す。


「じきに迎えがくるそうだ。

歓迎の宴を開いてもらえるみたいだぞ。

訓練は一区切りでいいだろ。」


「まずはこんなもんか。

明日からは、もう少し厳しく行くからな。」


「へいへい。」


グレンガが精霊を送還し、腕を組んで近くに立っている。


空が青い。

ああ、日差しの感じ方も、アンデッドの頃とはずいぶん違うな。

汗まみれの肌を、風がなでていく。

ひんやりとした感触。

生身の体、か。



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