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82:拘束具

黒い巨大な霊力の翼を広げたまま、俺は腕組みをして地上の様子を眺めていた。


いっぺん死んだから人化も解けているが、そのままだ。

あの姿では、目立つ術も使えんからな。


それにしても、失敗だった。

バーミィから心臓の結晶を回収してたのをすっかり忘れてしまっていた。

おかげで常闇の森の拠点でリスポーンしたというわけだ。


そんなに遠くなかったからマッチングが継続されたものの、もう少し距離があったら、危うく完全な無駄死で終わるところだった……。

あぶねえ。


カーマインたちの位置は分からんうえに、王都からの道のりもよく覚えていなかったから、緑二号のところから逆にたどって探す羽目になったし。


バーミィが気を利かせて公開念話してくれてなかったら、もっと時間がかかるところだったぜ。


グレンガを見つけると、ちょうど向こうも上空に飛来した怪しい影を見つけたところらしい。


「ああん?

骸魔皇スケリタルウィズロードか? こっちじゃ見たことねえな。

いや、マッチングが再開中…… さっきのプレイヤーか。

カスアルトのアバターはやめたのか。

ま、被ってるうえに低レアじゃあな。」


呟きが聞こえる。

アバターじゃねえし。


「で? まともな勝負になるような準備、してきたんだろうな!」


魔力を乗せた大声は、空まで届いてくる。


今回は舌戦から開始か。

ふふ、煽りよるわ。


「くく、そう急かすな。

ガッつくのはみっともないぞ……。」


ちょっと勿体つけた感じでグレンガの方へ降りていく。


「マスター、見せてやってくださいニャ!」


バーミィの応援も聞こえている。

ん?

またトレスティンに取り付いてんのか?

まあ、その方がトレスティンもステータス上がって安全だろうが、よく説得できたな……?


少し距離をおいて、グレンガと対峙する。

ジャリ、と俺のローブの中で小さな金属音が鳴る。


俺の骨の四肢には、錆びた枷と鎖が付けられている。

この「桎梏」は、こちらで俺が作らせたオリジナルの魔道具だ。


レベルを隠すのと日常生活のための力加減を兼ねた装備で、発動中は全ての戦闘ステータスが六百六十六分の一になる。

力を縛っている、は文字通りの意味なのだ。


「ふ、これを外すと、大体面倒を招くんだがな。

この辺りなら、人も精霊も棲んでいないだろう。」


素のステータスで行動していると、うっかり肘をぶつけるだけで石壁さえ破壊してしまう。

この拘束具を作った過去の俺、偉い。


俺が鍵言を詠唱するに従い、暗く光が灯り、そして光が消えるとともに、四肢の枷が音を立てて外れる。

隠蔽を重ねていてもなお吹き荒れる魔力の気配に、グレンガの口調が低く変わる。


「ほう、第二形態ゴッコとは気が利いてるじゃねえか。

いいぜ、来いよ中ボス野郎。

ドロップが何か、見てやるよ!」


「待たせたな。

それでは、二本目と行こうじゃないか。」


さて。

今回設定していたマッチングバトルは三本勝負。


一本目はわざと受けて相手の火力を読んだってわけだ。

さすがに、一撃で落とされるとは想定外だったけどな。


だが、ガチ構成ならかえって読める。

悪いが俺の勝ちは動かんよ、と。


パイルバンカー組むほどの貫通特化火属性、つまり単体火力特攻構成が相手ならば。


最強の矛と最硬の盾で勝負してもいいんだが、ま、俺の性格からするとコッチだね。


右手の辺りからはブーンという無数の羽音が、左手の辺りからは黒っぽい煙のようなものが湧き上がる。


冥蜂ハデュサルビー無名闇ネイムレス

ともに群体タイプの闇精霊。

貫通クリティカル無効に、単体ダメージを最小化する属性持ちだ。


柔良く剛を制すってな、昔の人も言ったもんだ。

コイツラは、どれだけ貫かれようが穿たれようがカユイだけだぜ。


そして、俺自身は、分体。

五つの黒炎の塊に姿を変える。

ダミーではなく、どれも本体。

力を分ける術だ。


さて、始めようか。

はは、普通の人間種の魂の持ち主にとっては、ちっとばかり、長い戦いになるかもしれんがな!


「テメエ!

そんだけ魔力あるクセに、セコい精霊に術ばっか、使ってんじゃねえよ!」


冥蜂と無名闇の大群に追われながら、飛び回って爆裂系の術を放つグレンガ。

ふはは、どちらの精霊も、召喚して一定時間は自動的に補充されるからな。

どれほど火力があろうと、簡単には撃退できん。


もちろん、グレンガほどの前衛キャラに効果的な打撃は期待できないが、毒針や呪怨はチマチマと継続的ダメージを与えるからな。

結構痛いし、すげぇ不快なんだよ、生身にとってこの手の攻撃は……


俺みたいに肉を捨てれば、ほぼ無痛化できる。

だが、グレンガみたいなバトルジャンキーは、痛みを無くすなんてつまんねーとかいうに決まってる。


時間稼ぎに走っているのは他にも理由がある。

視界の端でやりあっている魔力の動きが、ちょっと気になったのだ。


カーマインが、また倒れている。

少ないながら魔力は巡っているから、命に別状はないだろう。


それでもって、クルスがピンチか。

アカツキがやられたときにはカーマイン、結構ショック受けてたしな。

一応助けておくか。


相手は白銀の騎士っぽい精霊。

弱くはないが、あえてグレンガがデッキに入れる程でもないように思える。


マインドブラストの一撃で、サクッと魂を刈り取る。

力を失った体が、クルスの上にドサリと覆いかぶさる。

あ、嫌がらせとかイタズラじゃないんだぞ、たまたま姿勢がだな。


ってあれ?

光の粒子にならない……?

あ、コイツ、NPCか。





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