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80:契約

白銀の光と雷鳴のような轟音が重なりあって降り注ぎ、それはあたかも天の怒りのようで……


私の目には、その閃光と爆風の合間を縫って飛び込んでいくクルスと竜が、天使と悪魔の対決を描いた西洋画の一シーンにさえ見えていた。


クルス、美しいよ、クルス……。


再びの轟音と、まき散らされる魔力。


「やりましたか!?」


ミーリアが叫ぶ。

おっと、これは。


爆炎と煙の中から、平然と宙を泳いでいく赤い巨影。

大声の独り言は、地上から聞こえてきた。


「どうなってんだよ。

え? 初心者かと思ったらフェイント?

なんでこんなチートみたいなスキル持った精霊持ってんの?

いや、NPCか?

いやもう、ちょっと事情聴取だよ、こんなん。」


グレンガの足元には、クルスが横たわっている。

杖は踏みつけられ、赤い植物のような精霊が巻き付いて、その身体を束縛している。


「す、すまない、カーマイン……」


クルスは、私の方を見つめていた。


「あんなんまともに食らったら、俺はともかく精霊みんなふきとんじまうっつーの。

って、あれ…… お前、もしかして女なのか……?」


「くっ!」


それは…… それは駄目な奴だ!


バーミィを両脇で抱えて、正面から見つめる。


「バ、バーミィ、バーミィ!

私の魂をくれてあげる!

お願い、クルスを、助けて!」


これは、私の罪だ。

あがなうのは、私しかいない。


「え? カーマインのは、要らないニャ。」


な、何を……!?


「じゃ、じゃあ僕が、君と契約するよ!」


「はいニャ、うけたまわりー。」


ピョンとバーミィがトレスティンに跳びかかったかと思うと、バーミィの姿はポン、と消えて見えなくなった。


「あ……」


私が呆然とする中、トレスティンはすっくと立ちあがった。


「すごい、すごい魔力ですよ、カーマインさん!」


自分の身体を見下ろして、トレスティンが興奮に打ち震えている。


「トレスティン……? 

本当に、大丈夫なの……?」


「猫の精霊…… バーミィが、力を貸してくれているんです!

待っててください、クルスさんは、僕が助けます!」


キッという表現がぴったりな鋭い目つきで後ろをにらんだかと思うと、扉を開け放つ。


「バーミィは…… どっちかっていうと…… 悪魔だと思うよ……?」


私のつぶやきが聞こえたのか否か、トレスティンは魔道馬車からものすごい勢いで飛び出していった。


「待てーっ!

その人を、放せっ!!」


宙を飛ぶように地上を駆けていく。

その背には風精の翼、その足元には土精の弾性。

精霊が何体も、トレスティンに力を貸しているのだ。


トレスティンが腕を振るうと、ドーン、と音を立てて衝撃波が放たれる。

グレンガが、身構えるのが小さく見え、そして土ぼこりが舞い上がった。


「トレスティンがやったの……?」


良く見えないけど、あたりの魔力が急激にうねりと流れを引き起こしている。

あの男とトレスティンのいる場所を中心に、凄まじい勢いで魔素が消費されているのだ。


「おいおい、なんだそりゃ……!?」


「その人を放せって、言ってる!」


何?

離れているのに、グレンガとトレスティンの声が聞こえる?


「さ、精霊を呼び集めるニャ!

もっともっと、いろんな力を出せるニャ!」


「う、うん!

はぁぁぁぁ……!!」


バーミィが、魔力で声を中継してくれている?

のはいいけど、トレスティンがバトル漫画の主人公みたいになってる……。


「そうニャ! 

たくさんの精霊を呼べば、それだけ力になってくれる仲間が増えるニャ!」


って、なに? いま召喚してるの……?

っていうか、なんかありがちなソシャゲのチュートリアルみたいな……?

無数のゲートが、開いていく……


私も知っている。

確かに、それは精霊使いの力の現れ。


「魂を縛っているヒモを緩める感覚ニャ!

未来のジブンから、力を貸してもらえるニャ!」


「来い! 来い!

僕に力を、貸しておくれ……!」


トレスティーン!


ダメだよ……!

未来の自分を頼るって、それは自分の未来を切り売りしているんだよ!!


クルスを助けようとして、トレスティンを別な危機にさらしてしまうことになるなんて……


グレンガの怒声が響いてくる。


「なんなんだよ、その攻撃。

どんだけ精霊積んでんだよ!!

チートかよ!!」


でも、今は、どんな手を使ってでも、アイツを、止めなきゃ。

ごめんね、トレスティン。

そうよ、あなたの犠牲は、無駄じゃない。

クルスを、助けて。


「って、ああ? こいつ、あれか。

繊国せんごくコラボイベの、あの中ボスか!

マジかよ、あれドロップすんのかよ……

おいおい、超激レアチャンス、来てんじゃねえのコレ……!」


ええ、なんか、グレンガのテンションが上げ気味になってるし……。


「クルスさん、今のうちに!」


ああ、よかった……

クルスは、脱出できたみたい。


「コイツがドロップするとなりゃ、アイツも使い道があったってことじゃねえか!」


え、なに?


「はっはー、今使わねえで、いつお前を使うって言うんだよ!

来い!」


赤い魔獣の方角から、強い魔力が飛んでくる。

え、待って、あれは。

あの方は。





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