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7:爆死

爆死した。


爆死した。

爆死した、爆死した、爆死した、爆死した……


遠ざかっていくアルトクリフ様の笑顔。

失われた魔法石の数を、来月のクレカ請求の金額に換算して青ざめる。

無駄に高い暗算能力がかえって恨めしい。


何桁もの数字の列がフワフワと頭の片隅を流れていき、記憶の中の通帳の残高との照合が行われて……

マイナスではないことだけを確かめたものの、いや駄目だろ、生活費どこに消えた!? と戦慄する。


実家住みの身なので、いきなりホームレスになるわけじゃないけど……

家に入れている毎月のお金を、先延ばししてもらわなきゃならない。

オタク趣味に厳しい視線の母親の目を思い出すと、ウンザリする。


普段は、こんなことにはならないようにしてる。

でも、今回は、今回だけは。




私、川島麻衣が十四歳の時にアルトクリフ様に出会ってから、数えてみればもう十三年。


登場作の乙女ゲーム「繊月の王国」は、アニメ化されたとはいえ一作目の一部のみ、続編は二作目が脚本を酷評され、三作目はバグだらけで大炎上からの放置という、今となってはシリーズとして成立してるかも微妙な作品となってしまった。


コミカライズも二作目途中までで打ち切り、その後は細々と外伝ノベライズが発行されてたけれど、謎の無名作家の起用が続いて設定も錯綜、ファンもどこまでを「公式」と認めるか宗教戦争が勃発する始末。


アニメから入った私は、一作目こそ何周も繰り返してやりこんだけれど、二作目は二、三シーンほどが記憶にあるだけ(あとは記憶から抹消した)、三作目はアルトクリフ様が登場しなくなるルートは未完のまま投げ出してしまった。


なぜって、クリア後のデータで複数のルートを進めていくとなぜかクリアしたルートのフラグが消えてしまい、全回収したはずの推しのルートのアルバムが白紙に戻っていたりするという恐ろしいバグが多発していたからなのだ。

複数攻略をものすごく困難にするこのバグは、「嫉妬(shit!)の呪い」と呼ばれていた。


二次創作界隈でも宗教戦争が尾を引き、○○はそんなこと言わない/言ってたじゃねーか/あんなのは認めない/の輪廻から誰もが逃れられないという焼け野原に。


そんなこんなで、公式からの供給が途絶えて七年になる乙女ゲーム「繊月の王国」が、突如「Puzzling&Dazzling」ってゲームアプリのコラボイベントに起用されると発表されたのが二週間前のこと。


アルトクリフ様に似たキャラを見つけてはフラフラとしていた私にとっては、雷に撃たれたようなニュースだった。


パズリング&ダズリングといえば、ソシャゲ界では老舗の一作。

どちらかと言えばコンシューマ機で過ごしてきてソシャゲには詳しくない私でも、パズ&ダズの名前は知っている。


ただ、今でもプレイし続けているメインユーザーはガチもガチばかりって噂で、気軽に新規が参戦できるような雰囲気はなかった。

それが、今年に入ってプロデューサーが代わったのか、世間の記憶も薄れたようなアニメやレトロに近いゲームとのコラボを毎月のように開催してて。


ガチ勢からは「作品がマイナー過ぎて、イベントのストーリーはスキップ不可避」「限定キャラ多すぎてガチャ引いても当たりか分からん」と批判されつつも。


弱小作品のファンからは「救世主」「神サルベージ」などと支持の声も上がり(ってネットの百科に書いてあった)、さらに一部の暴走気味のマニアがコラボ要望して電凸したり、株主となっての質問状送付を行ったり、それを受けて開発者が「絶対コラボしない」とつぶやいてプチ炎上したり、ゲーム界隈以外でもネットニュースをにぎわせてた。


それにしても、「繊月の王国」にコラボ需要あったのか!?とファンの私でものけぞるこのチョイス。

しかも、三作目でバグ改修と共に追加されるはずだった幻の「詫びルート」が、パズ&ダズのイベントストーリーとして再現されるという、ありがたいのか廃品利用なのか迷わされるリーク情報。


とにかく、私は、プチ浮気を繰り返してきたこの数年の禊の意味も含め、インストール直後にそれなりの数の魔法石をお布施として収めさせていただいたのだった。



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