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76:マッチ

「エントリー」の仕方は、さまざまだ。

元のゲームではアイコンをタッチして選んでいくだけだったが、この具現化した世界では当然異なる。


これまでに経験したイベントでは、何らかの招待状が届くなり、ギルドや広場で告知がなされるなり、突如魔法の門が現れるなり、つまり次元を渡るにあたって踏み出すべき一歩があった。

だが、今回は、それは唐突に訪れた。


この世界が舞台だからか。

特段の感慨があるわけではない。

参戦すること自体は、とうに心に決めていた。

ただ、思っていたよりも突然のことだった、それだけだ。


「敵が、来る。」


「え?」

「何?」


きょろきょろと辺りをうかがうミーリア、腰を浮かせて身構えるカーマイン。


「カーマイン、ミーリア。

そちらは、このまま馬車を進め、魔獣の討伐を進めてくれ。

バーミィ、トレスティンを頼むぞ。」


バーミィはとぼけた顔で首を少し傾けただけだったが、俺の膝から降りたところをみれば了解したのだろう。

ミーリアの方は、緊張した顔つきで身を乗り出す。


「ギル殿は、ここで敵を引き受けるというのですか!?」


「ちょっと違うな。

これは俺の戦いで、敵の狙いは俺だ。」


俺は走る魔道馬車の扉を開け、フワリと荒れ野の街道に降り立つ。

街道の先の上空に、蜃気楼のような空間のひずみが生じている。


カーマインは、なんとなく察しつつも、これから起こる戦いがどういうものかは分かっていないようだ。


「じゃ、じゃあ、クルスを連れて行ったら。戦力になるでしょう?」


「ふ、あいつこそ、もっともこの戦いに似つかわしくない存在だよ。

すまんが、おしゃべりをしている時間は無いようだ。」


魔力感知には、巨大で濃密な魔力の渦として飽和するほどの反応がある。

なるほど、訪問を受ける側からすればこんな光景となるのか。


王都までに見てきた人間種の力から比べれば、恐るべき規模の魔道ゲートだ。

こりゃ、次元を渡った先でろくでもない待遇を受けるわけだ。


ゲートから、ずるりと抜け出してきたのはビロードのような緋色の妖獣。

そのエイのような平坦な巨躯は、皮膜をゆらめかせてゆったりと滑空している。


ほーう、スカーレットスカイクロウラーか。

あれを足代わりに使えるレベルか。

よかろう、適正なマッチングと言えるだろう。


そして、乗っているのはいかにもな火属性で固めた槍装備の人影に、数体の精霊。

魔力の揺らぎで細かい部分までは確認できないが、人型の精霊を中心に、もっと小さなものもいそうだ。


そして、こちらの存在にも気づいている。

マッチングの成立により、目には見えないが魔力のつながりが生じている。

お互いを拘束するとともに、自らに対する誓約でもある。


PVP、プレイヤー同士の対戦。

戦いに関われる精霊は一デッキのみ。

勝負は……


「あ、やべ。」


俺が思わず声をあげた胸元に、赤い閃光が着弾した。

槍というには細く長すぎるその武器は、ゲイボルグ・コア。

ただでさえ強力なゲイボルグを貫通特化にチューンした兵装で、槍本体から、その芯核が超音速で打ち出される。


無論、高位のアストラルボディにも届く程度の霊性を備えている。

プレイヤーからの通称は「杭打機パイルバンカー」。

つまり、始祖級ヴァンパイアでも即死させるレベルの、殺意満々の対闇リーサルウェポンって奴だ。


俺は枯れ枝に残された百舌鳥の早贄のごとくに、その赤い針に貫かれ、地上に縫い付けられているってわけだ。


閉じかけた馬車の扉の中に、カーマインとミーリアが口を開けて固まっているのが見えた。

馬車は、俺の最後の指示通り、勢いを殺すことも無く遠ざかっていく。


二人に向けて声を張り上げる。

だが、その振動が音になる前に、爆炎で焼き尽くされ、俺は光の粒子へと還元していった。


あとに響いたのは、つまらなさそうな声だった。


「なんだそりゃ。」


呟いたのは、槍の持ち主。

濃い赤の髪の、目つきの悪い男だ。


「どーなってんだ? あんなのとも、マッチングが成立しちまうのか?」


隣に立つ、きらびやかな白銀の甲冑をまとった端正な顔の男が張り付いたような微笑みのまま応える。


「さて、な。

プレイヤーというのなら、あの魔道馬車にももう一人、いるようだが。」


「ふーん。

それじゃ、ちょいとお顔を拝見と行くか。」


音もなく、スカーレットスカイクロウラ―は地上へと降下していく。

その速さは、街道を走る魔道馬車の比ではなかった。




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