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75︰回戦

俺とカーマインが長いことやり合っているうち、疲れもあったのかトレスティンは眠ってしまい、ミーリアが膝枕でその頭をそっと支えていた。


別にうらやましくはない。

骨の体になってから、肉の柔らかさなど感じなくなってしまったからな。

うらやましく感じるとしたら、それは気持ちの問題だろう。

……ありがたいことに、まだ俺は人としての気持ちを保っているようだ。


カーマインがたずねてくる。


「そういえば、なぜトレスティン様がこちらへ?」


ああ、カーマインは倒れていたんだったか。


なんでだっけな。

……ああ、自分がまいた種だから、というやつだ。


「トレスティンはトレスティンなりに、大勢の民に迷惑をかけた責任を感じている。

魔獣討伐に従事させてひと汗かけば、少しは気も晴れるだろうと思ってな。」


どっちかっていうと、うかつに心臓の結晶を取り出していたバーミィが原因というべきか、いやそうなると保護者の俺の責任か……?


カーマインが、キリッとした顔で俺に訴えてくる。


「操られて魔獣を呼び寄せたに過ぎず、トレスティン様に罪はありません。

そのように仕組んだ黒幕こそ、断罪すべきでしょう。」


ミーリアの手前、イキって見せているのだろうが……、元凶は俺ってことか……?

いや、バーミィは言っていたぞ。

カーマインが見せろってしつこいから心臓の結晶を取り出したのだと……。

お前だって元凶って可能性もあるんじゃないか……?


だが、この辺りの事情は暴露できん。

墓場まで持って行くというやつだ。

ふ。

墓場など、俺はとうの昔に通り過ぎたがな!


さて、どうしたものか。

カーマインの目論見も今一つ見えんし、俺もさして明確な計画を持っているわけではない。

思案していると、ミーリアが声を発した。


「トレスティン様は、すっかり眠ってしまわれたようです。」


ふむ。

それは見れば分かる。

目線で続きをうながすと、ミーリアは声を潜めて問いかけてきた。


「アルトクリフ様は健在なれど、いまだ敵は脅威、うかつには動けぬということなのでしょうか。」


そういや、ミーリアも軍略が得意そうだったな。


「そんなところだ。

ミーリア嬢からは、今回の騒動、どのように見えているのだ?」


「一見すれば、アルトクリフ様を狙う勢力が、トレスティン様をさらって利用しようとしたという構図に見えます。」


「ふむふむ。」


「王権の権威の失墜、血を分けた弟の危機であり不始末とあれば、見捨てることもできませぬでしょう。

囮、釣り出しの餌としては大変に有効です。

現に、こうしてギル様を救出に派遣していらっしゃる。

しかし。」


しかし……?


「単にトレスティン様をお救いし、事件を解決するだけであれば、あえてアルトクリフ様の格好をして私のようなものと行動を共にし、街中をうろつく必要などありません。

王都軍や騎士団の手勢を使えばよいこと。」


「なるほど。」


「それはつまり、アルトクリフ様自身のご無事を見せつける必要があったということ。」


「ほう……?」


「二つの可能性、あるいは両方の目的ということがあり得ます。」


え、そうなのか……!?


「一つは、アルトクリフ様の、ひいては王家の無事を示して混乱は収拾に向かっていることを示すという目的。

もう一つは、救出に現れたアルトクリフ様自身を釣り餌とし、罠にかかったと見せて相手の動きを引き出そうという目的です。」


カーマインの方に目をやると、難しそうな顔をしてミーリアに問いかけた。


「魔獣の襲撃を含め、王国の混乱はひどいのですか。」


「はい。広範囲における地脈からの魔素の放出と魔獣の襲来、王都での後継を巡る派閥争い、消息を絶ったトレスティン様とアルトクリフ様。

キルリア領の本家でも状況をつかめておらず、他家と連携することもままならず……」


ミーリアによるレクチャーが進められていたが、俺は上の空で別なことを考えていた。

魔獣討伐自体は、緑二号の手配した魔道兵器でおそらく一気に攻勢に出られるようになる。

その後の展開も、カーマインに任せる。

こっちは忙しくなる。


ランキングマッチのエントリーが、始まったのだ。






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