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74︰カーマインの嘆き

「それにしても、まさかあんな風にトレスティン戦が終わるなんてねー。」


「ふ。

たまには俺も役に立てたか。

ちなみに、カーマインはどうやってバーミィを攻略するつもりだったのだ。」


「え? そりゃもう、王城でアルトクリフ様の助けを求めるって展開よ。

異国から来た神託の巫女が、王子の力をお借りしたいって。」


俺の顔を眺めながらニヤニヤと語るのはやめろ。

ふつうに引くから。


「アルトクリフ殿下なら、土下座して靴舐めるのだって躊躇ないし……。」


なるほど、カーマインが目論んでいたのは、魔獣討伐の功績で王城に呼ばれ、中枢に近づくという展開だ。

もともとのイベのストーリーも、そんな流れだったらしい。


「そのとき、バーミィはどうなってるんだ?」


「それはまあ、ちゃっと打ち合わせして、適当に暴れてもらって……。」


「俺のアイデアと大差ないな……」


ま、イベの敵と最初から一緒にいる時点でなにかがおかしいわけだしな。


「だって、バーミィが本気になったら、クルスだってヤバイんでしょう?」


「クルスか……あいつが本気を出したら、危機に瀕するのはむしろ繊月の世界観だろうよ。」


反省してるし、とひとりごちるカーマイン。


「なんでお前が反省するんだ。」


「ははっ!」


なんだその空疎な笑い。


「ま、クルスの話は置いとくとしてさ。

アルトクリフ様のふりができるなら、いきなり王城に突撃って展開もありなわけじゃない?」


「だから、前にも言っているだろう。

俺の人化の術や演技は、警戒している相手には通用せんと。

王城ともなれば、警備の術式もあちこちに配置されているはずだ。」


「でもでも、本物のアルトクリフ様が不在だっていうなら、それもチャンスな気がするのよねー。」


「そうか? 逆に、恩賞をもらう流れでまともに王城に入れば、アルトクリフとだって堂々と面会できるんじゃないか。」


「いや、なんていうの、アルトクリフ様の私室に入ってみたりとかさ。

さすがに本人以外は無理そうじゃない?

大丈夫、城のつくりとか扉の開け方はちゃんと分かってるから。」


「どう大丈夫なんだよ……」


王城の王子の私室に潜入って、それも、繊月の王国のエピソードにあるってことか……


「それ、退路も……」


「抑えてあるわよ、当然。」


どんな間男だよって。

女だけど……


「ていうかさ、このミーリアってモブ令嬢を連れて歩いてるのはどういうことなの。

そんでもって、なんか、美しすぎるモブなんだけどさ、前からこんなだっけ?」


「ああ、魅了のバフ受けてるからな。」


「魅了……? なんで?」


話すと長いな。


「あー、あれだ。

俺の仲間のドワーフの、魔道具の力を見せてもらったんだよ。

ファンタジー世界版のエステみたいなもんだ。」


「へー、そんなのあるんだ? いいじゃない。

ギル、お金持ちなんでしょ? 王都に戻ったら、私も試させてよ。」


「い、いや、それはちょっと……」


「なんでよ。その子も、自分からそういう店に行く雰囲気じゃなかったじゃん。」


「それはだな、イベントに出てくる高級レストランの下見に行こうとしてたんだよ。

それらしく見た目を整えるのに、使っただけで。」


「へぇ……、高級レストランだってさー。

そんなお店、行ってたんだー。

それって、私たちが魔獣退治してた時ってことかしらねー。」


「ち、違うと思うぞ。

そう、カーマインはクルスと買い物行ってる時だよ。

王城の近くなら、いろんなものが売ってたんじゃないか?」


「そうねー。

なんせ、私は身一つでこっち来ちゃったからねー。

大人の女を手ぶらで寝室の外に放り出す罪の重さを、ちゃんと感じて欲しいものね……、現代人の魂が残っているなら、さ。」


「わ、分かった。飯ぐらい、いくらでもおごってやるさ。

緑二号の紹介なら、VIP待遇だ、安心しろ。」


「ご飯だけじゃなくて、そのまえの身づくろいも必要ね。」


「うっ。」


「なに。」


「このあたりの慣習ではな、そういう高級エステのような店に男が女を連れて行くというのは、重要な日であることを意味するらしいぞ。」


「ちょっと待ってよ。

そこのミーリアを、連れて行ったって言わなかった?」


「ああ、まあな。

安心しろ。誤解はすでに解いてある。」


「誤解、されたんかい……」


「行きがかり上、仕方なかったんだよ。」


「行きがかりってどんなよ。」


笑いかけていたカーマインの顔が固まったのは、俺のしゃべる順番が悪かったからか。


「ああ、俺がミーリアに婚約を申し入れたりしたからな。」


「え、待って。ちょっと待って。」


「そこは、誤解だったって、ちゃんと説明して分かってもらったからな。」


「その顔で、プロポーズしたというの?」


カーマインの目が、凍てつくような冷たさと煉獄の炎を同時に宿しているように感じるのは、俺の気のせいか?


「い、いや。プロポーズしたときは、例の黒革装束だった。

……撤回したときは、この顔だったが。」


両手で顔を覆って、カーマインがうなだれた。


「なんで……、なんで私以外と婚約破棄イベント……」


イベントじゃなかったし!





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