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72:目覚め

俺は、バーミィの耳の後ろをカリカリしながら、その進化の元の姿について考えていた。

バーミィは、気持ちよさそうにゴロゴロしている。


すると、座ったまま眠っていたカーマインが音もなく目を開き、すぅっと背筋を伸ばして姿勢を正した。


目を開くときはふつう音がしないかもしれないが、そんな風に思うくらい静かで、ちょっと不気味だったってことだ。

ほら、ミーリアはちょっとビクっとしたぞ。


「おお、目覚めたか、カーマイン。もう身体は大丈夫か。」


よっしゃ、ありがてぇ。

そう思って微笑みかけてみたのだが、焦点の合わない目で何か言いたげな表情をしている。

俺……? それともミーリアを見ている……?


眠っている間にも、顔が火照ったかと思えば眉間にシワを寄せていたり、不安定な様子だった。

今も目つきが険しいが、寝起きが悪いだけなのかもしれん。


「まだ魔力はわずかしか回復していませんが…… 介抱していただいたのですね。

ありがとうございます。」


貴族めいた感謝の礼を取っている。

つまり、アルトクリフとして扱うということか。

俺は、鷹揚に答えた。


「うむ。魔獣を撃退してくれていたようだな。協力に感謝する。」


やり取りを聞いていたミーリアが、キラリと目を光らせた。


「カーマイン殿は、アルトクリフ様を以前からご存知だったので?」


そうか。

ミーリアから見れば、カーマインはアルトクリフとギルが同一人物だと知らない可能性もあるわけか。

カーマインは、どう出る……?


「アルトクリフ様、ね。

問いに問いを返すのは失礼にあたるかもしれないけれど、ミーリア殿、あなたはアルトクリフ様の何を存じ上げているのかしら。」


んん……? カーマイン、何を狙っている……?

普段は知的で落ち着いたミーリアだが、アルトクリフが絡んだ時のカーマインには圧があるからな。

質問の意図もよくわからんし、戸惑いを隠せないようだ。


「えっ?

アルトクリフ様の何を、ですか……?

えっと、パーティーの席でお見かけしたり、祝典の儀でご挨拶のお声を頂戴したくらいですが……」


ああ、ミーリアは貴族としては傍流、それも継承権など縁のない娘だったな。

継承権上位の王族など、その姿を見る機会だけでも貴重というところか。


「ああ、そういうことね。」


なんだ? カーマインのやつ、マウントを取りに行っているのか?


「私は、アルトクリフ様のことを、よーく存じ上げておりますよ。」


ほほう。


「このアルトクリフが、まだまだ未熟だということも含めましてね。」


は?

何を言い出す?


「見た目には、よくできた影武者でしょう?」


「か、影武者……!?」


驚くミーリア。


「えっ、どういうことです!?

兄さん、何か言ってやってくださいよ。」


トレスティンも、動揺している。

俺もだ。


確かに、関係者に接触すれば遠からずボロは出ると思っていたが、先ほどの話からすれば、少なくともミーリアはごまかせただろう。

トレスティンも、騙されやすそうなキャラっぽい。

少しぐらいの違和感があっても、なんとでも言い逃れできそうなものだが。


「俺が本物でないと、いつ気づいた。」


まあ良かろう。

カーマイン、お前の脚本に、乗ってみせようじゃないか。

導いてくれ、お前の望むゴールへと……!


「口調も仕草も雰囲気も、まるで駄目ね。なってない。」


全否定かよ。


「な、なってない……って?」


トレスティンの方が俺より困惑してるぞ。


「今のあなたは、アルトクリフ様の見た目をまねただけ。

正直言って、クルスの方が本来のアルトクリフ様に近いくらいよ。」


「クルスだと? なんであの野郎が出てくるんだ。」


俺は、思わず汚い言葉で口走ってしまった。

カーマインは、窓の外、魔道馬車の後方を追走している魔法使いの馬車に目をやる。


「そうね、クルスは、アルトクリフ様の転生弟分といっても過言ではない存在なのよ。

この場合、演技力の幅のなさを嘆くべきかもしれないけれど。」


何を言っているんだ、こいつは……。

くそっ、このモードに入ったカーマインは、軽々と次元を超越してくるからな……。

ロールプレイを忘れるなと言いたいのはこっちだよ……。


「どういうことだ。広場で見せたチートな召喚といい、あの魔法使い野郎、いったい何者なんだ。

カーマイン、お前は正体を知っているのか。」


「召喚術や衣装を見て分からなかったの? あれは、「クルスインしゅぷり」よ。」


いや、それ、メタな話だろうが!


「待てよ。

あのしゅぷりが、パズ&ダズみたいな重課金ソシャゲとコラボとかするわけねーだろ……。

だいたい、野郎が使った召喚術、どう見てもバランス崩壊しそうな規模だったじゃねぇか。」


「あんまり野郎とか言わないでよね。魔法少女を何だと思ってるのよ。」


「え……? あいつ、女なの……?」


「そーよ、イケメンに見えるかもしれないけれど、十七歳の女の子よ。

百七十二センチ四十八キロ、その胸は平らであった。」


だから、しゅぷりはそんなネタやらねーって言ってるだろ!


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