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69:転戦

さっさと逃げ出したいのだが、皆の視線が、俺に集まっている。

どうしたらいいんだ、これ。


頼りのカーマインは、馬車の中で眠っている。

腕の中のバーミィも眠っているが、起きていてもこの手の状況には猫の手ほども役に立つまい。


「人間種なんて、素材を集めるための家畜みたいなものでしょう? 闇魔術で全員従えてしまえばいいじゃないですかぁ」とかそんなことを言うのがおちだ。


なにか、なにかないか……?

追い詰められた俺の視界に入ったのは、ミーリアのしょぼくれた顔だった。


周りの連中は祭りのように喝さいを叫び、無事を祝っているのに、三人はうかない顔をしている。


「どうした?」


ミーリアに声を掛ける。


「はい、機会を与えていただきながら、我々は何のお役にも立てず……」


あ、そういうことか。

魔獣呼び込みの犯人捜しに協力したことをもって、領地への王都軍の派遣につなげる算段だった。


俺たちがいきなりトレスティンを倒して解決してしまったせいで、完全に出遅れてしまったのだ。


だが、俺がアルトクリフであるなら、違う手も取れる。


「なに、気にするな。事情は変わった。

ミーリア嬢、そなたたちの領地へは、俺が行こう。」


「え……?」


「言ったろう? キルリアには、俺がつくと。」


領主が外国貴族の力を借りるのは、政治的に問題になるんじゃないかと心配していたのだ。

王家の一員が国内の貴族に力を貸す分には、問題なかろう。


「しかし、魔獣の襲撃は領地の広い範囲に及んでおります。

ギル殿がいくらお強いといえ、駆け回れる地域は限られるのでは……」


「おいおい、いくらなんでも俺一人で戦うとは言っていない。

戦力は、あるんだろ。そいつを、もっと活用してやればいい。」


俺の身振りにタイミングを合わせたかのように現れた緑二号は、魔道兵器を満載した荷車を何両も連れていた。

はっはー。


「おやまあ、魔獣掃討のために資材を提供しようと思いましたのに、まさかもう終わってしまっていたとは。」


緑二号は、ニヤリと笑う。

くく、こんな物騒な積み荷、「よほどの緊急事態」でもなければ、勝手に街中には持ち出せまい。


「いいや、ドンピシャのタイミングだよ。このままキルリア領まで行けるか?」


「もちろんでございます。」


長距離稼働が可能な荷車に、補給用の魔結晶も準備済みときた。


「おいおい、いつからこんな準備をしていた?」


「ダンナが、王都軍なんてのろまな連中を待つほど辛抱強いとは知りませんでしたよぉ。」


はは、言われてみれば、派遣まで半月だのって話を聞いた時点で、半分選択肢は決まってたかもな。

兵団長に後の始末をまかせる口実もできたってわけだ。


「これより、キルリア領へ急ぎ魔獣討伐に出るゆえ、あとはよろしく頼むぞ。」


「えっ、今からですか……?」


口を開きかけた術師に、かぶせるように畳みかける。


「ここに、すでにキルリア領へ届ける魔道兵器が揃えられている。

領地では、家族や同胞が昼夜魔獣と戦っているのではないのか。

そなたには、のんびりしている暇があるのか?

ならば我らだけでも先行するが。」


「ついさっきまで、王都を観光するとかいう話じゃなかったか……?」


重装マッチョが余計なことをブツブツ言っているが無視だ、無視。

俺は広場の連中に聞こえるような大声をあげながら、魔道馬車に向かう。


「義を見てせざるは勇無きなり。

憑りつかれていたとはいえ、我が弟が招きし事態の可能性もある。

我らは直ちに出立する。

そなたたちは朝を待って後を追うがよかろう。」


魔素が散っているから、もう長居はヤバいんだよ……!

俺が魔道馬車に乗り込もうとすると、ミーリアが馬車の扉に手を掛けてきた。


「お、お待ちください。

せめて道中の案内、私が務めましょう。」


「よし、乗れ。」


「ぼ、僕も連れて行ってください!

僕が招いた事態だというのに、知らんふりなどできません!」


さらに駆け寄ってきたのは、トレスティンか。

こいつの振る舞いは未知数だが、どうなんだ、連れて行くのが吉と出るか、凶と出るか……


「私も一緒に行こう。」


今度は魔法使いが歩いてきた。

その姿を見て、俺の決心は固まった。

トレスティンの華奢な腕をつかんで魔道馬車に引き込むと、魔法使いには一瞥をくれて扉を閉める。


「すまんな、この馬車は四人乗りなのだ。」


くっくっく、この前の、お返しだ!




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