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67:王子たち

大量の報酬、魔力が心臓の結晶に流れ込む。


あふれ出した周囲の闇の魔力も合わせて回収しているが、出てくる前に用意していた隠蔽封印の術式が、もう容量いっぱいになりそうだ。


倒れているバーミィの手から、いったん心臓の結晶を回収する。

周囲の目があるからな。

こいつが魔獣を呼び寄せていた仕組みってことになっちまったか……。


「魔獣を呼び寄せていた原因は、私が封じる。

この者には、近づかないよう周りに伝えてくれ。」


近場にいた衛兵の小隊長っぽい男に、声を掛けておく。

えらく感激した目つきで、最敬礼してくる。


今までの経験上、俺がみんなのために奔走しても、こんなにふつうに感謝してもらえたこと、あまり記憶にないんだがな。

魅了がこいつらにもいい影響を与えているのか?

闇の魔力が溢れたことで、術の気配が消せているのは助かるな……。


微妙な顔をして固まっている魔法使いをスルーし、動けなくなっているカーマインのもとへ歩み寄る。


「大丈夫か。」


ただの魔力切れだ、すぐ治る。


そう思って軽く声をかけたのだが、カーマインの目からは、ポロポロと涙がしたたり落ちていた。


えっ、なに?

ルビームーンを見殺しにしたの、いかんかったか……?


「き、来てくれた……」


いや、そんなに歓迎されると、照れるを通り越して戸惑うしかないが。

確かに、ボコボコにされたのはこっち来てから初めてだったかもしれんが、そんなに怖かったのか……!?


「やっと、来てくれた……」


俺を、待っていたっていうのか……?

え、安堵とか、うれし涙的な奴か、それ。


マジかよ。

そこまで言われれば、ビビリの俺でも素直に積極的になれる。


ピンチを救ったヒーローだろ、ならこんな感じか?

カーマインの前にひざまづき、手を伸ばして軽く抱き寄せようとした。


「む、無理無理無理っ!」


尻餅をついたまま、後ずさるカーマイン。

全力で逃げられた。


なんでや!

俺、そんなにキモイか……?


一応、人間の姿で来たし、ニオイとかも消してあるんだがな……

格好も、ドレッシーな奴はさすがに動きにくかったので平服に変えているが、貴族も着ることがあるという例の高級アウトドア的なこじゃれた奴で、店でもいい感じの反応だったのに。


元を知っていると、そりゃ、魅了も効きにくいわな……。


どんよりと沈みこんでいると、心臓の結晶が暗いピンク色になっているのが目に入る。

ああ、こんな風に俺の一喜一憂が丸見えだったのかよ……


くっ。

カーマインやバーミィからしたら、ペットの気持ちが分かるアイテムみたいなもんか?

これを眺めて面白がっていたのか……。


「マスター、マスター……?」


と、倒れたバーミィの周りを、騎士や衛兵が取り囲んでいるのが目に入る。

いかんいかん、忘れていた。


「待て、私が対応する。」


声を掛けると、包囲の一部がさっと道を開けた。

えらく聞き分けがいいな……。


俺は、包囲の中に入り、バーミィの脇にしゃがむと、それらしい身振りと共に呼びかける。


「トレスティン、聞こえるか。」


パキン、と何か霊的な結束が断ち切られる感触があった。

なんだ? 

バーミィの小細工による演出にしちゃ、気が利いているが……。


「う、ううぅん。」


少年が、半身を起こす。

憑き物が取れたような、スッキリした表情。


おいおい、いきなり迫真の演技だな。

しかも、打ち合わせ無しからのフリープレイかよ。


いいだろう。

俺のアドリブ力のなさを、思い知るがいい!


「トレスティン、ようやく目が覚めたようだな。」


「兄さん……。」


え、待てよ。

トレスティンの兄さんを、俺がやるの?


周囲から、喝さいとどよめきが広がっていく。

ちょ、これ乗っかっていい奴なのか……?


いろいろな声が交錯するなか、聞き取れた叫びがあった。


「ア、アルトクリフ様が帰還された!」

「トレスティン様が、正気を取り戻されたぞ!」

「アルトクリフ様が、トレスティン様をお救いになったのだ!!」


なに? 

俺が、アルトクリフ様なん……? 

どゆこと……?


救いを求めてキョロキョロすると、カーマインが、神を目にした狂信者みたいになってこっちを見ている。

なんでお前まで包囲の輪に一緒に入ってるんだよ。

え、いや、ナニコレ……?


「兄さんが、僕を助けてくれたんですね……」


と、とりあえず、目の前のトレスティンを何とかしようか。

手を貸すと、第三王子たる少年は立ち上がることができた。


改めて見ると、美しく可愛らしい少年だ。

俺に対する最大限の尊敬と愛情を感じて気恥ずかしい。

笑顔がまぶしすぎるぜ。


で、それはいいんだが、その脚元に、精霊がドロップしている。


「マスター、僕の身体がなくなっちゃったにゃぁ。」


なに、この子猫獣人みたいな精霊……。

バーミィ、なんだよな?


「そ、そやつが今回の元凶なのですか!?」


周囲の連中が、距離を置いてざわめく。

まあ、そういうことになるんだろうな。


「大丈夫だ。今はもう、危険はない。

それより、お前達は、あたりの市民の安全を確認してくれ。」


適当なことを言って追い払う。

訳のわからん事態だが、片付けておかねばならんことがもう一つ。


ルビームーンが倒した魔獣やら霊たちやら、そっちも大量に精霊をドロップしているのだ。


だから!

殺すなって言ってたんだよ!




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