62:ダークグリーン
覚醒ができたとしても、複属性の運用は別だ。
複属性のレベリングは膨大な経験値を必要とする。
こいつは、闇属性までレベルを上げている。
「どうやって、そんなレベルに到達する経験値を稼いだ。」
覚醒をしたとしても、ドワーフの戦闘力はたかがしれている。
デッキに入るようなポジションではないのだ、ソロでこなせるクエストなど限られる。
俺のゴーレムやアンデッドを使えば、ある程度のダンジョンまではこなせないこともない。
単純な指示しかできないが、人間種の冒険者に比べれば圧倒的に強いし維持も管理も簡単だ。
だが、そんな姿を見られたら、やはり普通の街では受け容れられんだろう。
「依頼を、こなしたんですよぉ。」
依頼とは、どういう……。
製作といっても、緑二号のところに高位の素材は預けていない。
中位以下の素材では、毎日製作をし続けたところで、複属性の育成などとてもおぼつかない。
言いかけて、気付いた。
「お前……、まさか」
「ふふ。あの街の、大勢の市民が、わしを頼ってくれたんですわ。」
こいつは、自分自身のためにではなく、他人のために市長をやっていた。
つまり、無数の人間の依頼を、毎日毎日こなし続けたことになっていたのだ。
どれほど軽いクエストであっても、万単位の人の願いをかなえ、数百の昼と夜を重ねれば。
お、俺には決してたどり着けない領域のレベリングを、こいつは実現してみせた……
あたかも大勢の信仰を集めた神かのように……!
「なぜ、そこまでの努力ができた。」
「いいえ、忙しくしていたら貯まっていただけですよぉ。」
「なぜ、それを闇系統に振ろうと考えた。」
「あいつらですよぉ。」
緑二号は、下を指さしてみせる。
「俺の……?」
ゴーレムたちのことか。
「あいつらみたいなのを、作りたくなったんで。
へへ、連れてきちまいましたよぉ。」
そうだった、こいつは。
金を稼いだから、製作ができるって奴だった。
経験値をしこたま稼いで、今度は新しい系統の、いや、誰にもまねできん製作ができるってこった。
いいじゃねぇか。
強さを求めない。
ひたすら歩いていった先に、強さがついてくるんだ。
相変わらず、最高かよ。
「もう、お前みたいな奴は他にいない。
お前、緑二号じゃなくなっちまったな。
名前、なんて呼んだらいい。」
「へへ、そのままで、いいんですよぉ。」
くっそ、この野郎。
俺のネーミングセンス、疑われるじゃねーかよぉ。
「なぜにこの街に?」
「あっちの拠点は診療所から始まっていたでしょう。
闇の術式のための工房を地下に作っていたんですがね、色々とおかしな噂が出ちまいまして。」
だから!
闇系統は、いずれ人間種の町には住めなくなるっつーの。
「それもあって、闇の系統には覚醒させなかったんだがな……。」
「へへ、面目ない……。」
ま、こんな姿を見せられちまったら、認めないわけないけどな。
「とすると、街の向こう側にあったエステサロン、お前のものか。」
「おや、さっそくお気づきになられたので。
あれは、表の商売ですねぇ。
といっても、魔道具を収めているだけですよぉ。」
「では、他にも様々な商売にからんでるってことだな。」
「そりゃ、まぁ。」
ぐふふ、と悪い顔で頭をかいてみせる。
おごりも飾りもない。
「それじゃ、お前に一つ頼みがある。
依頼主は外にいる。
出られるか?」
「あい。
ダンナのためなら、いつでもどこへなりとも。」
よし。
俺は緑二号の肩を突いてふざけあいながら、表の広場に出て行った。
馬車に近づいていくと、おもてで警戒していたマッチョが「ひぃ!」と声を上げた。
「ギ、ギル殿か。び、びっくりさせんでくれ……」
おっと。
二人とも夜目が利くからな。
また暗闇から現れた感じになってしまったか。
「驚かせてすまんな。
よし。早速だが例の店で会合にしよう。」
「へ、そちらが……?」
なんだ、重装マッチョよ。
驚いたような顔をして。
「そうだ、俺の切り札、我らの救世主だよ。」
ちっとばかり、闇色に染まってるけどな。
「し、しかし、そちらのお方を連れて、クラシケへ行かれるので?」
術師まで、戸惑いを隠さない。
「おお、そうだったな。衣装を整えないとな。
緑二号よ、クラシケの料理店へ行くのだが、着る物を整えねばならんらしい。
当てはあるか。」
「お召し物ですな。
そちらの方々も、となれば、貴族風のものですか。」
緑二号は、俺の魔道馬車をしげしげと眺めながら、こちらを向きもせずに答える。
「特別な材料を使わず、目立たぬなかにあっても、技というのは現れるものですな。」
呟いたのち、「手元にあるものでよろしいでしょう」と言って例のカマクラに案内していく。
ミーリアも、不安げな面持ちながら、馬車を降りてきた。
「まあ、心配せずともよい。」
カマクラの中には、空間操作の術で作られた倉庫があった。
このあたりの魔道具の術式も、前よりもずいぶん洗練されている。
「腕を上げているな。」
無駄にレベルだけ高い輩とはわけが違う。
「それはどうも。
どうぞ、このあたりは先週あたりから街の表通りの準一級貴族向けの店に卸している外出着。
クラシケあたりなら、目立ち過ぎず、応対もそれなりになるでしょう。」
ふーん、レアリティで言えば星四あたり、アイテムとしての希少性はないが、こいつが扱っているからにはメインストリームとなっているのだろう。
素人目にも、上品で丁寧な造りと仕上げだ。
「さっさと選んで、店に行くぞ。」
ミーリアたちは、ずらりと並べられたきらびやかなワードローブを前に、固まっているのだった。