61:つて
待てよ。
次のシナリオが、魔獣退治だろ。
キルリア家の連中はまだ救援を要請していないし、カーマインは王都軍のことなど特に言っていなかったから、主人公たちが受ける依頼は、同じ魔獣駆除と言っても別の場所なのだろう。
俺がカーマインと同行しようと思ったら、キルリア家の方は俺以外の戦力で対応せにゃならんということだ。
転移やなんかをバンバン使えば同時進行も不可能ではないかもしれんが、そんなドタバタコメディみたいな展開、俺にこなせるのか……?
やはり、王都軍を動かしてミーリアたちにつけ、足りない戦力を陰からサポートする方が現実的だろう。
日は傾きつつあったが、夕食の前に支援の段取りをしておくことにした。
「これから、俺のつてを頼ろうと思う。一緒に来るか。」
ミーリアたちは、あっさりとした感じにうなずく。
なんだ……?
そこは信用されてるのか……?
俺なら信用せんのだがな。
魔道馬車を、緑二号のもとへ走らせる。
緑二号は使役している精霊ではないが、かつて共に仕事をした仲だ。
ゲームで言えばフレンド登録だな。
同じエリアにいれば、俺は大まかな位置を知ることができる。
そういえば、俺はバーミィやカーマインの位置を知ることができん。
バーミィとは、フレンドになっていない。
俺の居場所が知られてしまうからな。
いや、どちらにしろ奴は他の方法で俺を探し出すんだが。
カーマインとは、シナリオの進捗は共有されているのだから、マルチクエみたいな状況か。
確かに、フレンド登録なしでも、野良パーティなら勝利条件や報酬は共有できたな。
ここまでは一緒に行動していたしバーミィとは連絡が取れるから気にしていなかったが、今度相談しておくとしよう。
さて。
緑二号が俺のゴーレムやアンデッドを引き続き手元に置いているのを見れば、敵対の意思がないのは明らかだ。
俺の命令一つで、緑二号にだって攻撃を開始するのだからな。
そんなわけで、俺は安心していた。
いや、油断していたというべきか。
王都のことなど、俺は詳しくない。
カーマインから聞いていたのは、繊月の王国でエピソードの舞台となっていたいくつかのエリアだけだ。
だが、そんな俺にも一目でわかるランドマーク的な建物が窓から見えた。
「お、あれが王城か。」
俺のつぶやきに、ミーリアが胡乱な目を向けてきた。
なんだ。
異国からのおのぼりさんだぞ、おかしくあるまい。
だが、馬車は王城を横目に、さらに進んでいく。
「ギル殿、いったいどちらへ……?」
重装マッチョが、不思議そうに口を開いた。
ま、俺が聞きたいところだけどな。
辺りはすっかり下町から貧民街に入り込み、日も暮れて街灯もない路地を、魔道馬車の明かりだけが照らしている。
俺は見えるんだがな、人間の振りには気を遣ってるんだ。
「もうじきだ……」
俺が口にした時には、ちょっとした広場のような空間が目に入ってきていた。
円形に広場が作られているのかと思いきや、ちょっと違う。
中央に、ちょっとした要塞じみたカマクラみたいな建物がある。
そこからは、隠そうとしながらもあふれ出す闇の魔力の気配。
スラムの住民たちでさえ、その建物から一定の距離を置いて暮らしているのだ。
おいおい、緑二号さんよ、どういうことだ。
「なんだ、あれは……」
「ミーリア様、こちらを……」
重装マッチョが呟いて武器を手元に寄せ、術師は守りの加護をミーリアに掛けている。
「俺のつて……のはずなんだが……」
しかたない。
ちょっと様子を見に行って来るか。
三人を馬車の中に残し、黒いカマクラに向かう。
広間のような空間に入る境界では、軽い結界を感じた。
侵入者を防ぐというよりは、内部の瘴気が漏れ出さないようにするためのものだな。
カマクラに近づいても、探知されている気配こそあれ、攻撃や防衛の動きは見えない。
これだけ要塞めいた造りをしているのだから、仕掛けが無いわけがないのだが。
俺のゴーレムたちは、この地下にいるようだ。
特に動き回っている気配はなく、待機中だ。
ふうむ、と首をかしげながら扉らしき構造の前に立つと、ふわりと魔力が吹き付けられた。
誰か、と問われているような気配だな。
「緑二号に会いに来た。」
手をかざして口にすると、門が開く。
すぐそこに、緑二号がにこやかな表情を浮かべて立っていた。
「お久しぶりでございますよぉ、ダンナ。」
緑二号は、緑二号ではなくなってしまっていた。
闇属性に、覚醒してやがる……
「なぜ闇の覚醒をしている。誰の仕業だ。」
「ふふ、お忘れですか。
私の目の前で何人ものドワーフを、闇の系統へ導いていったことを。」
確かに、当時あの都市は俺にとって工房兼素材庫だった。
メインストーリーで仲間にしたドワーフたちを覚醒させるのに必要な素材を取りにあの都市に立ち寄っていたが、そのときの拠点は緑二号のところだった。
「覚醒の素材は、確かに揃っていた。
余った分は好きに使っていいとも言った。
お前、自力で覚醒したのか。」
緑二号は、頷いた。