5:主戦力
評価、ブクマいただき、ありがとうございます。
ボチボチと書いていきます。
「よいか、お前の力は、いったん隠す。
お前の魔力は強すぎて、その場で敵を撃退できたとしても、要らぬ興味を惹きつけてしまう。
そこで、お前とその心臓の護り手となる精霊を、召喚する。
お前は、その精霊を剣とし、盾とするのだ。」
「これが、その戦力を召喚するための虹輝石ですか……。」
その石は透明な結晶のようでいて、中をのぞき込むと虹色の輝きがあり、その虹色の輝きもきらめきの一つ一つが別の結晶のように色とりどりにまたたいて光っています。
「お前の念に従い、高位の精霊を次元を超えて呼び出す力がある。
相当に目立つ存在だろうから、戦力とするのはもちろんだが、最悪の場合はその精霊をおとりにしてお前は脱出しろ。」
「そんな……」
「精霊の命を守るために心臓の結晶を危険にさらしては、本末転倒だろう。
精霊を大事にするのもいいが、いざという時の決断は、覚悟しておけ。」
「……はい、マスター。」
「次が本番の召喚だ。
二回の召喚で、イメージが大切だということは分かったな。
虹輝石は、魔法石をいくつも重ねて圧縮した上、召喚の術式に召喚の術式を複数に重ね構築した、神の領域の力を呼び出すしろものだ。
次元を超えて上位精霊を召喚し、お前の支配下に置くことができる。
なに、緊張することはない。
お前の力を考えれば、普通に願うだけで相当な存在が召喚されるだろう。」
「……はい。」
虹輝石を手に、召喚する相手のことを考えます。
中でまたたく無数の光。
自分の剣、そして盾となってくれる存在。
頼るべき背中。
でも、その背中を、置いていかなければならないときも来るのかもしれない。
背中……。
「え、なに?」
急に、目から涙があふれました。
浮かぶのは、誰かの背中に手を伸ばしている、記憶とも言えないぼんやりした光景。
「早く逃げろ。」
その誰かが僕に叫んでいる。
僕もその人に向かって何かを言いながら、どんどん遠ざかっていく。
思わず、その背中に向けて手を伸ばす。
自分でもなんと叫んだか分からないけれど、誰かの名前を呼んだ気がする。
その瞬間、手のひらから白い光が溢れて、部屋の中を満たしていく。
「な、なんだ!?」
マスターの声さえ、遠く聞こえるような魔力の奔流。
果てしなく重なり合う魔法陣がはるか遠くまで突き抜けていくイメージが頭に浮かぶと、光が収まった後には、部屋の中央に一人の女の精霊が伏せていた。
この精霊も、誰かを求めて叫んでいる。
その願いは、果てしなく遠く、それでも届くと信じている。
僕の中にも、その願いの強さははっきりと伝わってきたのです。
小さなかすれた声を絞り出すように、その精霊は祈りをささげていました。
「来てよ! 今度こそ、いい加減に、来なさいよ……
アルトクリフ様ぁ……来て、くださいよぉぉ!」
その手には、光る呪符のような板を大切そうに捧げ持っており、その板が光を失うにつれて、本人も力を失ったかのように床にくずおれていった。
「ば、爆死じゃねぇかよ……。」
思わずマスターの方を見てしまいます。
「この精霊は、死にかけているのですか!?」
「いや、これは……。あー、ある意味死んだのかもしれんが……」
マスター程の方でも、答えに窮しているようです。
いえ、知らないというより、口にしてよいかをためらっているのでしょうか。
はっ。
これは、僕が決断できるかを試しているのでは!?
「マスター、安心してください。
この精霊は、ちゃんと僕が面倒をみますから。」
マスターが、首をかしげているようにも見えましたが、気にしている暇はありません。
手元の魔法石を、精霊の頭上に掲げます。
「この者に癒しを!」
魔法石が閃光を放って砕け散り、こぼれだした光の粒が精霊のまわりに降り注ぎます。
「なに、この光? なんか温かい……。
そうだよね、まだイベ期間は始まったばかりだよね……。
うん、終わってない、終わってない。
むしろ始まったんだよ!
って、誰かいるの?」
ふう、と息を吐きながら、精霊が体を起こした。
「そこな精霊よ。
僕の名はバーミィ。わが名において命ずる。
その真名を我に伝えよ。」
ゆっくりとその精霊は顔を上げ、左右を見回す。
「何ここ。え、どゆこと。」