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56:恋敵

カイバル卿とやら、馬車は良い仕立てだが、戦闘用の機能を備えているわけではなさそうだ。

装甲もなく、術に対しての抵抗力もない。

そもそも、装備もレベルも、まったく大したものではない。

拍子抜けだな。


俺にとっては虫けら同然の存在だ。

プチっとつまんで殺すこともたやすい。

ふん、カラミーテとやら、ひょっとしてものすごく平和なのか? ボケてんのか?


しかし、国が平和なのは結構なことだ。

カーマインも、王国のことは大切だと言っていたからな。

俺とても、むやみに治安を乱したりはしない。


中年メガネは、見た感じアラフォーってとこか。

いい歳したおっさんが、今さら十代のご令嬢にプロポーズってな、どういう風の吹き回しだよ。


歳の差は、少女漫画じゃ一定の需要のある話かもしれんが、ただしイケオジに限るとかそういうことだろ?

丸顔に銀縁眼鏡は、そんなポジションには見えねーぜ。


術師が頭を下げながら何か貴族めいてもったいぶった挨拶をしているが、そんなしちめんどうな段取りに付き合う気はない。


いずれにしろ俺たちは衝突する定め。

哀しいかな、カイバル、お前には消えてもらうしかないのだ。

というわけで、さっさと話を進めさせてもらおう。


「おや、キルリア家の従者たちじゃないか。」


会話をぶった切って、声を掛ける。

探知や抵抗の気配はないから、魅了は発動させたままだ。

同性から見ても、今はさわやかイケメンムーブで押せるはず。


振り返ったマッチョが、急に姿勢を正している。

術師と中年メガネも、沈黙の中でこちらに注目している。


「おっと、直接顔を合わせるのはこれが初めてだったな。

私はギルだよ。

ミーリア嬢のお迎えにあがったところだ。」


三人が揃って戸惑いの表情をあらわにしている。


覆面を外して魅了を掛けているだけだ。

驚くにはあたらんよ。


「え、いや……」

「ギル……殿……?」

「これは、これは……」


おいおい、微妙なリアクションだな。

今までのイメージと違っていたから二人が戸惑うのは分かるが、中年メガネ、ここはお前が傲岸不遜な態度でヘイトを稼ぐ場面だろう。


それどころか、下手に出ているような口調で問いかけてくる。


「ギル殿……、とおっしゃったか……?

失礼ながら、貴方は、ミーリア嬢とどのような……?」


「うん。実は、ミーリア嬢には婚約の申し込みをしようと考えていてね。」


「こ、婚約? ミーリア嬢と!?」


何故だか、慌てふためいたように術師たちの方に目をやっている。

術師たちも、なにやら口を開けたまま首を振っている。


「い、いえ、我々も、こんなお話とは……。」


おいおい、なんだよ。

ついさっき、お前らも俺の話をしてたじゃないかよ。


まあいい。

とりあえず、アピールをしていかないと始まらん。


「ミーリア嬢とは、このあと、王都を一緒に回る予定でね。

こちらの店で身支度をしてもらっている。」


中年メガネはパクパクと口を開けたり閉じたりしていたかと思うと、術師に小さな声で早口に問いかけた。


「ミーリア嬢は、すでに了承したということか。」


おいおい、えらく慌てているが、まだ牽制のジャブをくり出しただけだぜ。


「いえ、一緒に王都を回られるお約束なのは確かですが、婚約の件は、この後にお話をされることになっています。」


「キルリア家では、このことをすでに……?」


「まったく。」


「王家の方では、この動きを掴んでいるのか。」


「何もかも、つい先ほどからの話でして。」


会話は俺にも聞こえているのだが、今一つ状況は理解しがたい。


キルリア家は、カイバル卿には借りを作りたくなかったんだろう?

だからって、必ずしも敵視するような関係というわけでもなかったということか。


「それで、そちらの御仁はどなたでしょう?」


俺が問いかけると、中年メガネは、居住まいを正しながらも、どう振舞ってよいか迷いを見せている。


「私は、カイバル卿の補佐役の一人、モリーニョと申します。」


本人じゃないのかよ……。

いや、確かに本人にしちゃ、連れている従者が少なすぎるとは思ったけどな。

ゲームでは、取り巻きNPCなんてリアルに再現してたらキャラ多すぎて進行に支障をきたすからな。


ま、本人じゃなくとも、伝われば問題ない。


「カイバル卿……。ひょっとして、ミーリア嬢に婚約の申し込みをされている御仁か。」


中年メガネが、どっと汗をかき始めた。

ハンカチをせわしなく額に当てている。


「え、ええ、確かに。

カイバル卿は、ミーリア嬢に婚約の申し込みをされております……。」


「すると、私とカイバル卿とは、恋敵というわけか。」


はっはっは、と余裕を感じさせる笑いをあげてみせる。


「い、いえ、恋敵などと、そんな……。

ただ、私の一存で確かなことを申し上げることはできませんので、今は、なにとぞ……」


何ならすぐにでも、この場から逃げ出してしまいそうな気配だ。

どうしたどうした。

開戦前から補佐役が腰が引けているぞ。


「待たれよ、モリーニョ殿。」


術師が、慌てた様子で声を掛ける。


「ご支援の話は、ぜひとも続きを……。」


「いや、それも、話が変わってしまう。

済まぬが、家に戻って会議を開かねば何とも答えられぬ。」


「なんと……」


術師も重装マッチョも、顔色を悪くしている。

支援の話か。

婚約の話と引き換えだというのなら、その必要はない。


「まあ待て、キルリア家の面々よ。

支援が必要ならば、私の方でも考えがあるぞ。

それとも、私の好意は、受け取りがたいかな?」


俺は、ここぞとばかりに押すことにした。



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