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55:人化

「よかろう、カイバルは、俺がぶちのめす。」


俺の言葉に、術師の男は何やら敬意のようなまなざしを向けてきた。

よせよ、照れるぜ。


ミーリアの相手はできなくとも、金満ロリコンおっさんを土下座させるくらい、俺に任せとけって。

煽ってワンパン、イッツオーライ、だ。


さてと。

聞けば、ミーリアは一時間ほどかかるサービスを受けている。

術師は、その間に王都での滞在の段取りをしてくるという。


「お前はそのままでいいのか?」


改めて俺が問うと、術師は不思議そうな顔をする。


「そんなに臭いますか?」


自分の体を、クンクンと嗅いでいる。


「いや、そういうわけではないが。」


実は、俺はニオイがあまり分からない。


生身ではないから嗅覚がないのももちろん、人間種が臭いと感じる、毒を含む物質、例えば汚物臭や腐臭、刺激臭のする物質の多くは、アンデッドには大した危険度がないため、危機感知にも反応しない。

むしろ、日常の一部だからな!


すぐ近くに寄れば、例の魔食の応用で匂いも感じ取ることができるのだが、それには舐めるほどの距離である必要がある。

舌なんて、ないけどな……。


そうですか、と言いながらも術師は体に向けて何かの術を使った。

汚れ落としか何かか。

心なしか、衣服までキレイになった気がする。


なるほど、そういうふうに過ごしていたのか。

確かに、ミーリアも何日も着の身着のままというほど荒れた雰囲気ではなかったな。


ひょっとしたら湯浴みもそこまで必要ではなかったかもしれんが、まあいい。

ただでさえ恥の多い人生なのだ、いちいち後悔や反省をしていたら周回している時間がなくなってしまう。


俺は俺で用事を済ませよう。


まずは適当な冒険者向けの店に入る。

そこかしこに生物がいる場所では、生命探知系の術はうまく機能しない。

王都ではビザールニンジャになる必要はないのだ。


上質そうな剣士風の服を一そろい買い、試着室で着替えさせてもらう。

店員の女は、特に違和感は感じていないようで淡々と品物を紹介していた。


「動きやすくて、雨や寒さを和らげる術が施してあります。

高貴な方でも、平服に使っていることがあるのですよ。」


軽くて高機能で見栄えも良い服。

高級なアウトドアウェアみたいなもんだ。

山中で暮らすアンデッドの俺には縁のないアイテムの一つだな。


続いて、人化の術を発動させる。

俺が使った不死化の術では骨格は元のままだから、人化する顔もこちらに来た時のものにしている。

骨格と違う顔や体付きにすると、コントロールの難易度が上がる。

あっちの世界では、不気味の谷とか言われていた奴だな。


ただでさえ難しいのに久しぶりの変身だから、自然な感じで顔つきを操るのは無理だ。

さしあたり、魅了を常時発動させてごまかす。


店員の女が、試着室を出た俺の素顔を見て少し目を丸くした。

魅了がかかると、どんな不細工だろうが何の縁もなかろうが、恋をする。


強くかけすぎると印象に残りすぎるし、行動が不自然になって周囲の人間が気にする。

ごく低位の術、一般人相手には、無表情なクール系のちょっとイケメンくらいに見えているはずだ。


支払いを済ませて、店を出る。

こんな感じで、一般人から中級冒険者あたりが相手ならば、対応は難しくない。


ミーリアの連れたちも、スネアハーピィのスキルにレジストできないくらいだから、問題ないだろう。

ミーリア自身も、特別レベルが高かったりスキルがあったりというわけでもなさそうだ。


警戒が必要とすれば、カイバル卿。


金の有る貴族であれば、抵抗力を増すための魔道具を身に付けている可能性もある。

あるいは、精神系の術を感知する魔道具とかな。

ちょいと考えておく必要がある。


さっきのエステサロンの前に戻ると、道端で術師の男が重装マッチョと話し込んでいた。

合流していたのか。


近づいていくが、反応がない。

俺だと気づかないのも、無理はないが。


「あの男を、どうするのだ。

このまま、ミーリア様を連れ回すのを見ているつもりか。」

重装マッチョが術師にせまっている。


「それなのだがな。

あの方はミーリア様に婚約の申し入れを行うつもりだ。」


「なんだと!?

流れ者の傭兵がか?」


「流れ者ではあるまいよ。

少なくとも、貴族に雇われていたのだから。

それに、大金をこともなげに預けていった。」


「しかし、あの風体に、あの術だ。

凄腕の暗殺者と聞いても、俺は驚かんぞ……。」


「どういう思惑かは、私にも分からん。

ただ、ミーリア様にも考えがあるようだ。」


「カイバル卿か……」


「うむ……。」


安心しろ、ダミーだ。

当て馬だ。


二人に声を掛けようとしたところへ、通りかかる派手な馬車が一台。


「おや、そちらはキルリア家の者たちではないか。」


中から声を掛けているのは、眼鏡の中年。


「カイバル卿の……」


重装マッチョがつぶやいて、渋い顔をしながらも礼をただしている。


ははーん。

こいつがカイバル卿か。



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