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51:緑二号

「お前には、いくつか作ってほしいものがある。」

俺は、改めて緑二号に持ち掛けた。


木属性の覚醒と強化は、手持ちの素材で足りた。

近場のダンジョンをハシゴして、一通りレベルアップの成果の確認を済ませてから、街に戻って酒場でまったりしている。


冒険者たち? 何のことだ。


「何を作りやしょう。」


「お前には、診療所と中立地帯を作ってもらう。」


「はぁ……。」


怪訝な顔をしている。


「診療所というのはだな、人々の病気やけがを治すところだ。」


「そら分かりますよぉ。

しかし、わしはただの職人ですぜ。」


「この街は、領主にも見捨てられている。

教会のやっていた治療院も閉鎖されてしまったから、この紛争で怪我人が困っているらしい。」


治療院での回復は、レベル依存の料金設定だったから、冒険者としてのレベルが低い一般市民は、わずかな額で治療を受けられたのだろう。

それに比べると、ポーションや薬は高いうえに、今のこの街の状況では怪我をする頻度も高そうだ。


本音を言えば、困っている奴がいようと俺は気にならんのだが、いろいろ経緯があってな。


教会は闇属性を忌み嫌っていて、存在が粘着アンチみたいなもんだ。

どうしようもない。


死んだらどうせ自然に還るんだ。

また土から植物になって獣に食われてそれを人がおいしくいただく。

自然の摂理だ。


ショートカットして早めに再利用したってよかろうが!

リサイクルよりリユースの方が、圧倒的にエネルギー消費効率が良いに決まってんだろ!

エントロピーとかなんとか言うだろぉ!

ふん。


王家や貴族クラスタも、教会とつるんでる関係で、一緒になって闇属性を叩いてくる。

糞の匂いにたかる蠅みたいなもんだ。

蠅なのに叩いてくるとはこれいかに。

やれやれだ。


この街の中でも、奴らのネガキャンのせいで、紛争が俺のせい、治療院がなくなったのも俺のせいで、つまり俺は災厄そのものみたいに扱われている。


百歩譲ってそれを認めたとして、前に街中で、聞き捨てならんことを耳にしたのだ。


俺のことを、死の商人とか呼んでる奴らがいた。

各陣営に手下のドワーフを送り込んで安価に魔道具をばらまいて対立と紛争をあおっておき、今度は高価な魔道具を売りさばいて大金を稼いだとかいう噂だ。


俺が! 

金のために! 

わざわざそんなことをするかよ!


というわけで、屈辱的な風評被害を一掃すべく、治療院代わりの診療所を自前で建ててやることにしたのだ。

なんぴとたりとも、俺が金で動くなどとは言わせん。

金の亡者?

確かに、後にアンデッドになったけどな。


資金はどうとでもなるが、診療所のそばまで紛争を持ち込まれたのでは、訳が分からんことになる。

エリアを区切って中立地帯、非戦闘地域を作った方がいいだろう。


問題は運営だ。

俺が面倒をみるひまはないし、治療を得意とする木属性や水属性の術師たちは、どっぷり紛争の当事者になっている。

政治的な対立と離れ、純粋に治療を提供するような立ち位置で、そういう運営ができる奴を、と思っていたところにやって来たのがお前というわけだ。


「はぁ……。」


ここまで説明しても、緑二号はさっぱりハラに落ちていない様子だった。


「術師にも治癒の術があるし、薬師にもポーションがある。

お前さんがやるのは、主に回復支援アイテ厶の作製だな。

骨折の治りが早まる添え木や、化膿した傷を消毒できる布なんかだ。

効果を具体的に絞るほど、魔道具の効率が上がる。」


「ああ。まあ、アイテムを作るってんなら、なんとか……。」


「次に、診療所だな。建物自体にも、治療の機能を持たせる。

入るだけで病状の悪化が止まる部屋、寝るだけで治癒が早まるベッド、とかな。」


「ううん、まあ、アイテムと言えばアイテムかのぅ……。」


「それで、中立エリアの境界を区分する結界の装置も要るな。

こいつはそこそこボリュームのある作業になるだろうから、俺も手伝おう。」


「後の作業は、わし一人でやるんですかい?」


「金で雇える助手は、自由に使っていいぞ。

ただ、俺が言うのもなんだが、お前さんはあまり人使いに向いているようには思えんな。」


「ははぁ。

まあ、財布を預かれるんでしたら、なんとか人を見つくろいますよぉ。」


とまあ、そんなこんなで緑二号は街の辺縁部に診療所を開設し、ごくごく安い対価で治療を提供するようになった。

スポンサーは俺ってことは、もちろんちゃんと示しておいたさ。


最初は難民キャンプに医療部隊を送り込んだような感じで始まったのだが、雇われたり手伝ったりする市民も集まり、飯屋やら洗濯屋なんかも作られて行って、機能的でにぎやかな街になっていった。


気がついたら、中立エリアに立派な家が建っている。


「なんだ、あれ。」


「炎術師の頭領でしたかな。本部も兼ねてるみたいで。」


「なんでそんな奴らが、建物をここに建てる。」


「そりゃ、安全だからでしょう。」


「ふざけんなよ。反則だろう。」


「このエリア内では、戦闘はありませんぜ。」


「自分だけ安全地帯からぬくぬくって、権力者はコレだから!」


「ま、彼らから集めた金で、この街も開発が進んでるわけでして。」


「そうなのか?」


「金取らないよりは、良いでしょう。」


「そりゃそうだが……」


「皆さん紛争にはうんざりしてらっしゃるようで、中立地帯も広がる一方で。」


「ま、そりゃそうだろう。」


「おかげで、新都の一等地はわしらが独り占めですな。」


壮大な地上げ屋みたいになってんじゃねーか!



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