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48:クラフターズ

緑二号。


比較的初期に俺が雇っていたドワーフの一人で、契約はずいぶん前に解除している。

存在も忘れていたと言ってしまうと少々ふびんだが、思い出すこともなかったのは確かだ。

コイツとの馴れ初めを語ると、ちょいと長くなる。


このゲーム的な世界では、経済はいびつな形で動いている。


パズ&ダズはRPG的な要素もあったが、基本的にはパズルをモチーフにした戦闘が軸のゲームだった。

だが、具現化したこちらでは、クエストや移動の道中で様々な装備が必要になるうえ、それが結構な値段だった。


あっちの金銭感覚で言えば、最低難易度のクエスト報酬が、かかる時間にもよるが一万円から五万円なのに対し、例えば松明が三本一万円、最低レベルの治療薬が二万五千円、素朴な大型ナイフが五万円という売値になっている。


飯や宿代は安かったが、探索を行うわけではない普通の市民がどうやって生計を成り立たせているのか、かなり謎だ。


ゲームバランスで言うと、初期難易度のクエストでは、何度かこなさないと日常的なアイテムすらまともに揃わないし、アイテムを無駄に消耗すればすぐ赤字になる。

武器や防具を次の段階のものにするには、自分とクエストのレベルを上げつつ、数十回のクエストをこなす必要があった。


とはいえ、元のパズ&ダズでも開始直後の装備のステップアップといえばそんなものだったから、俺も特に疑問を持たなかった。


が、転機はアイテム製作を依頼したドワーフと世間話をした時に訪れた。

彼らにはゲーム的な認識はないのだが、話を聞く限り、俺の製作依頼はクエストとして受理されているようだった。


それまで、俺は店で買えない希少品だけをドワーフに製作してもらっていた。

当然、そんな機会はたまにしかない。

クエストとして達成したら相手に何が起こっているかなんて、考えたこともなかった。


この時は、ちょうど手元の光コケ玉が足りないのを思い出して、ふと頼んでみたのだ。


光コケ玉は、持ったり置いたり投げて壁や天井にくっつけたりできる明かりで、店で買うと一個二万円ほどの値が付いている。

材料は、低難度のクエストの道中で拾うだけで集まるのだが、俺には生産系のスキルがなく、見様見真似で試してもやはりダメだった。


光コケ玉は、ゲームで言えば、ストーリーで最初のドワーフを仲間にすれば直後から作れるようになる。

このドワーフにも作れるんじゃないかと思いついたのだ。


彼らからすれば、それは低難易度のクエストの扱いだった。

時間もかからず、危険もない。材料は、俺が提供した。

クエスト報酬は、つまり俺が支払う依頼料だった。


買えば二万円に相当する光コケ玉が、一万円の報酬だけで十個完成した。

黙ったまま、俺は百個分の材料と十万円相当の銀貨を、そのドワーフの目の前に積み上げてみせた。

俺たちは、どちらからともなく、固い握手をかわした。


説明するまでも無いが、俺は同レベル帯の冒険者とは比較にならないペースで素材を収集できるし、製作レシピも網羅している。

あっという間に、小金持ちになった。


さらに、手を組んだドワーフも、俺の依頼をこなすうち、自分が通常では考えられないほどのペースで腕を上げていることに気づいた。


自分のために生産活動をしていてもスキルのレベルがわずかに上がるだけだが、俺の依頼をこなせば、本人のレベルが上がる。


レベルが上がればステータスが上がり、同じスキルレベルでも加工できる素材の強度や作業の効率が大きく伸びる。


単位時間あたりにこなす作業が質、量ともに伸びれば、スキルレベルの成長も加速される。


後に俺がフル活用することになる育成法は、この発見を原点としているわけだが、当然、ドワーフたちの間で噂が拡がっていく。


俺の元には、生産職として食いっぱぐれている大勢のドワーフが集まってきた。

食いはぐれるだけの理由を持った連中が。


「何かよく分かんねぇけど、あいつのいうとおりに簡単な仕事をこなすだけで、楽して儲かる上にあっという間にイイ感じに物が作れるようになるらしい」ってな頭で近寄ってくるのだ。


生産職を極めるのに必要な根性とか慎重さ、繊細さ、理論なんかを詰めようという奴はさっぱりだった。


すでに小銭稼ぎが必要な段階は過ぎている。

普通のスキルのドワーフにはもう使い道がなかったし、結局のところ本命はストーリー上で仲間になる七人だと理解していた。


ただ、あの七人は本命だけに、俺専用の闇属性できっちり育て上げることになる。

他の属性にリソースを振る余裕はないから、サブで何人かを育てる意味はある。


こっちでは相手のステータスなどは見れないから、ゲームに出てこなかったNPCたちのレアリティや将来性を知る方法なんてない。


ゲーム感覚が抜けていなかった俺は、とりあえず数を育ててみれば、たまにはモノになる奴もいるだろうと、愚かにも目の前のドワーフたちを促成栽培しまくったのだった。




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