46:撃退
街道をたどり、ついに王都を囲む石壁が視界に入ってきた。
途中、他の馬車と何両もすれ違ったのだが、どの旅人も「魔獣の襲来だ!」「王都の門は閉ざされているぞ」「とりあえずここから逃げろ!」と呼び掛けてきた。
親切なこった。
カーマインいわく、この魔獣襲来エピソードは攻略サイトでも説明はほぼなかったようだ。
パズ&ダズ的には、イベの序盤なんて雑魚敵を蹴散らすだけだからな。
一応、後ろの馬車の様子をうかがうと、すでに御者台でマッチョと術師が戦闘の準備をしている。
「ここは、俺たちに任せてもらおうか。」
重装マッチョの言葉に、馬車をそのまま進ませる。
今のところ周辺に大きな力は感じないので、特に問題あるまい。
傍流とはいえ、貴族のご令嬢がたった二人しか連れずに王都を目指すからには、何か重要な使命を持っているんだろうしな。
さて。
カーマインから聞いていたイベの光景とバーミィからの連絡内容を合わせて考えると、一群の魔獣がピンポイントで王都に侵入していることになる。
魔獣は食物の代わりに魔力を食う。
普通の人間種は大した魔力を持っていないから、魔素の薄い土地を越えてまで王都を襲撃するなんて、魔獣の本能で取るような行動じゃない。
つまり、魔獣たちを王都へ導いた何者かがいたってことだ。
周辺にも雑多な魔獣がうろついているところを見ると、きっちりと統制の取れた支配というわけではなさそうだ。
餌のようなものでも使って仕掛けたのか。
バーミィからは、断続的に報告がある。
「主人公が何体か仕留めたところで、魔獣が逃げ出しました。
カーマインは、これでミッションクリアと言っています。
主人公も、追いかけないようです。」
「了解した。王都に入ったらまた連絡する。」
なるほど、また心臓の結晶に魔力が溜まっていく。
最初のエピソードではわずかだったが、今回のものは俺から見ても意味のあるほどだ。
驚いた。
イベのストーリーをちゃんと進められれば、これほどのポイントを稼げるものなのか。
しかし。
振り返っても、俺一人で今回のこの展開を再現できたかというと不可能だ。
何の前振りもなかったのだ。
気配を察してあの街道に居合わせて、タイミングを見計らって盗賊に襲われ、そこにちょうど通りかかった主人公に助けられる?
……いや、どう考えても無理ゲーだろ、糞だろ!?
まあ待て。
クリアのフラグを立てるのにすべてを再現する必要はない。
実際、俺たちが介入して面子が代わっても問題なかったんだ。
あの魔法使いが主人公だとすると、奴に接触して同行者になりさえすればいいのだろう。
やっぱ糞だな。
あんないけ好かない主人公ムーブで、なんか良い匂いしそうで、美形というか可愛くて、オトコにもオンナにも受けそうな……
仲良くなれるわけがないだろう。
いや、どっちかって言うと、カーマインと仲良くしないでほしいというか……
その人は、俺を導いてくれる人なんだぞ……
はたと、思い至る。
このまま行ったら、カーマインと主人公だけでもイベを進められるんじゃないか?
これだけ魔力が溜まるからには、おそらく経験値も相当な量がバラまかれている。
コラボイベは接待だから、新規プレイヤーがある程度の難易度のイベントまで進められるよう、強化素材がハイペースで配布され、かなりのドーピングが施されるのが常だ。
つまり、こっちでいう中級冒険者くらいの身体強度と魔力をカーマインが得ていてもおかしくない。
コスト上限が上がれば、ルビームーンの強化も進められるだろうし、雑魚を相手に自分の身を守るには十分だ。
精霊の召喚や育成についても、ボチボチ俺から伝授してやろうと思っていた。
が、あの魔法使いは、バルキリーをまずまずの所まで育てている。
あいつが情報を出し惜しみするかは分からんが、俺が知識を独占している立場でなくなったのは間違いない。
あるいは、ゲームのようにストーリーが進むとしたら、主人公が普通に戦って敵を倒せばいい。
サターンの専用兵装を手に入れているなら、よくあるコラボイベントならば、初見で特段の対策をしていなくてもゴリ押せるレベルの火力がある。
パズ&ダズで新規プレイヤーだったカーマインとは、条件が違うのだ。
まして、そこにカーマインの攻略知識があれば。
主人公に寄り添って攻略のヒントを出したり支援したりするって、ふつうにヒロインポジじゃねえか!?
……俺の出番、ないじゃん。