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44:情報源

思わず笑ってしまったことで、俺は我に返った。

この世界の俺が、戻ってくる。


笑ったことに、気付かれたか?

口元に手を当てるが、今は、顔も黒革の防具で覆われている。

そもそも骸骨だからな、表情などないんだが。

バーミィもカーマインも、何故だか俺の感情を見抜いてくるんだ、これが。


ご令嬢は、静かにたたずんだままだ。

さっき聞こえた名は……ミーリアだったか?


主に外を眺め、時おり車内の内装に目をやったりしているだけで、特に物申す気配もない。

何か聞こえたとしても簡単には反応しないってのも、たしなみのひとつなのかもしれん。


さて、名乗りすらさえぎったのだから、黙っていろと命じたに等しい。

だが、勝手なことを言わせてもらえば、こんな沈黙は息苦しく、腹が落ち着かない。

この身体には酸欠も胃痛も無いのだが、これも幻痛というんだろうか……。


「名乗る必要はないと言ったが、休憩なり食事なり、何か必要なことがあれば言うといい。

このペースだ。王都まで、まだ二時間はかかる。」


いたたまれなくなり、俺の方から口にする。


「ご配慮、ありがとうございます。それでは、お願いしたい儀が一つ。

ギル殿、とお呼びしてよろしいでしょうか?」


俺は事情を知らんことになっているのだったな。


「……なぜ、俺の名を。」


「実は、わたくしどもが立ち往生しているところに、カーマイン様たちが、馬車で通りかかったのでございます。

カーマイン様から、ギル殿が後から来ることをお聞きしておりました。」


「そうか。それで、カーマインは、なんと?」


「ギル殿は、……その、不愛想だが根は親切なので、頼めばなんとかしてくれるであろうと。」


親切ってなんだ、おい。

それに、俺の評価を聞きたいわけじゃねえ。

もうちょっと、俺の動きのヒントになるような情報、仕込んでおけよ……!


「それじゃあ、コイツは貸しだと思っておいてもらおう。

あんたのところの護衛には、気に入らんかもしれんが。」


「キルリアの名に懸けて、このご恩は忘れませぬ。」


キルリア家。あのマッチョもこだわってたな。

なんかもう、イベのストーリーと違うところに巻き込まれているんじゃないか、俺……?


しかしまあ、結果的にはこのミーリアというご令嬢は、情報源として実に有用だった。

遠方からこの国を訪れたという俺に、カラミーテ王国、つまり今回のイベの舞台設定のあれこれを手際よく語ってくれた。


カーマインからも、イベのストーリー展開と合わせて、簡単に原作の説明を受けてはいる。

繊月の王国は乙女ゲーであって、一般的なRPGともカードバトル系ソシャゲとも違う。


ファンタジー世界で戦争や動乱を背景にしてはいるが、戦闘やそのための育成は複雑なものではなく、集めるべきアイテムや仲間を揃え、イベントをこなしてスキルなどを習得していれば負けないということだった。


つまり、戦闘に関して言えば、見た目にはレトロRPG風のステータスや装備があるものの、実際にはストーリーの分岐でフラグを立てて回るゲームに過ぎない。

実際、バグを利用して序盤で強力な武器を手に入れても、なぜか勝てない敵などもいたらしい。


そもそも「攻略」の意味からして違うからな。

パズ&ダズみたいに、戦闘そのものがテーマで、とにかく勝てば進んでいくゲームと同じなわけがない。


カーマインと打ち合わせていた中で、目下の問題は、ゲームとこの世界のギャップだった。


繊月の王国では、主にキャラとのやり取りでゲームが進んでいく。

攻略対象がいる王都や騎士団の駐屯地はマップがあったが、その中でもキャラが出没しない場所には、行くこともできなかったようだ。


これから向かう王都にしても、キャラとやり取りがあった王城や学院、エピソードやミニイベントの舞台となった店やデート先くらいしか、カーマインも知らないという。


あっちでの噂によれば、そもそも今回のパズ&ダズのコラボイベは、原作ゲームの一つに追加コンテンツとして用意されていたシナリオを転用して開催されたという。


その原作はバグだらけなのを放置されたゲームで、追加コンテンツでさらに新しいエリアを設定するとは考えにくい。

よって、イベのストーリーは既存のエリア内だけで完結するはずというのがカーマインの見立てだ。


となると、残りのエリアは、イベ的には空白で情報が全くない。

今までこの世界で暮らしてきた俺の経験からすれば、それは未知のダンジョンに等しい。


つまり、イベのストーリーは、未知のダンジョンが無数に広がる中に、細くうねりながら延びている橋の上の道のようなもの。

王城と言えども、一歩ストーリーを外れたら、そこからは何が起こるか分からん。

クエスト中と違って、人が一人死ぬだけで大騒ぎになるのだからな。


その空白を少しでも埋められるミーリアの話は、非常に重要な情報と言えた。

それだけに、ミーリアの話を聞くにつれ、イベのストーリーについても実際の現場を下見しておきたいという気持ちが湧いてきた。


セキュリティ面でハードルの高い王城や学院はカーマインに任せるとして、街中ならば俺でもある程度は移動できる。


街の様子の説明が一区切りついたところで、俺は切り出した。


「早速だが、貸しを返してもらう提案がある。何か所か、案内してもらいたい場所がある。

それで、貸しはチャラにしよう。」


だが、ミーリアに行きたい場所を説明した後に、ちょっと思った。


最近流行っているスイーツの店、貴族のパーティー会場になるようなレストラン、夜景の綺麗な公園。

既存エリアの大半は、デートスポットって奴じゃないのか……?


ミーリアは、ちょっと頬を染めながら、言った。


「お受けいたします。」




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