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41:追走

気持ちよく馬車を走らせている。

馬車と言っても魔道馬車、動力部は車体の下に収めているから、要するに自動車だ。


黒革の全身スーツを着て黒塗りの車両に収まっていると、アメコミの蝙蝠男にでもなったような気分になる。

マッチョには程遠い、スキニー通り越してスケルトンなボディだがな!


それはともかく、馬車の修理か。

想定外のミッションではある。


ちなみに、俺は王国の許可を得ていないから、貴族のような体制側の人間の前で堂々と精霊を使うことはできない。

一応、カーマインの警護兼御者ということになっているから、今後にも影響が出てしまうだろう。

ことに、セブンブラックドワーブズは、まともな暮らしの人間種には見えんし。

あ、ひょっとすると俺もか……?


一番簡単な対応は、「無理」と伝えることだ。

街に着いたら業者をこちらに向かわせる、と約束したっていい。

そもそも修理に応じる義理もメリットもないし、俺には修理はできないのだから、嘘でもない。


王都までは、それほど離れていない。

修理の代わりに別の馬車を手配したとしても、貴族たちは夜までには王都に着けるだろう。


だが、ざっと半日の間、例のご令嬢を原野の馬車の中で待たせることを従者どもが良しとするか。

そして、俺の魔道馬車は四人乗れる。

となると、ご令嬢と従者を街まで乗せていってくれ、という依頼があるかもしれん。


ふうむ。

前のやり取りで、俺のミッションはご令嬢たちを無事に行かせることだと話している。

あの重装マッチョは借りを作るのを嫌がっていたが、ご令嬢を不快と危険にさらすよりはと、俺に頼ることもあるだろう。


こちらとしては、カーマイン達が先に行った時点でもう用は済んでいる。

敵対するつもりは特にないが、あのご令嬢と一緒するのは少々ハードルを感じる。

事前に会話のシミュレーションをしておく必要があるか……?


直接顔は見ていないが、口調を思い出す。


『……我らを、いかがするおつもりか。』

あんな状況だったのに、それほど動揺は感じなかった。

あの口調だと、狙われ慣れてるってことか。


『敵の敵は、というところかや。』

冷静かつ剛胆に、政略とかもこなしちゃうタイプか。


イメージが拡がっていく。

バリキャリ……いや、ファンタジーっぽいパターンとしては、あれだな。

将軍の娘とか宰相の姪っ子的なポジション。

すると、ラノベのお約束的には、体は子どもっぽくても頭は、みたいな頭脳派も有りか。


いかん、妄想の域に入ってきたか?

冷静になれ。


カーマインも、モブながらストーリーの中心に登場し続けるって言っていたから、王国側チームの作戦会議のメンバーってことだ。

となると、なんでモブなんだって気もしてくる。


そういや、元が乙女ゲーだったな。

攻略対象のライバルでも仲間でもない女キャラなんて、名前も付かないかもしれん。

つまり、色恋沙汰にならんようなキャラということだ。


うん、それならそれでいい。

変に女だと思うからハードルを感じるだけで、ビジネスライクに話が進むなら気楽なもんだ。

単なるNPCの護衛移送任務に過ぎん。


よし、口数最小限のハードボイルドキャラで行くとしよう。

俺の後ろに立つんじゃねえ、ってな。


と、そこにバーミィから念話が入る。


「マスター。どうやら、貴族の馬車が魔獣に襲われているようです。」


おお? 護衛に加えて救出任務か?

よかろう、ビザールニンジャ参上ってなもんだ。


「了解した。ランデブーポイントまで、あとわずかだ。」


「なんです? ランデブー?」


「気にするな。」


念話を断ち切り、魔道馬車の前方を探ると、鳥にしちゃ大きな影が叫び声を上げながら何羽か飛び回っている。

スネアハーピィだな。


スネア、つまり罠とか誘惑って形容詞がつくくらい、そっち系の精神攻撃を持つ、半鳥半人の魔獣。

糸鋸とガラスをこすり合わせたような耳障りな金切り声。

が、不快なだけで俺にはなんの効果もない。


こんな声で我を失っちまうんだから、生身の人間種はヤワすぎる。

例の重装マッチョは地面にぶっ倒れているし、もう一人の男もふらつきながら防戦一方だ。


やれやれ、馬車の修理におうかがいしたんですがねぇ。

お客さん、こいつは別料金いただかねぇと。


短弓を手に、馬車から降り立つ。

おっと、ハードボイルドを忘れてた。



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