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39:川島麻衣

ね、アカツキ、私、ちゃんと微笑んでる……?

隣に座るアカツキに、訊ねたいくらいだった。


「主人公」があらわれて、いよいよ私の出番。

ホントに想定どおりに展開できるのか、自信なんてあるわけないじゃない。


でも、このゲームみたいな世界で、イベントのストーリーを乗っ取ろうっていうのよ……

こんなところでビビってるわけには、いかないじゃない。


この世界に私を送り込んだアルトクリフ様の想い。

それを、もう一度頭に浮かべる。

あなたの弟は私にまかせて、アルトクリフ様……。


バーミィの顔を見つめると、ふいっと顔をそらされた。

照れなくてもいいのに。

そのほっぺたをプニプニしてやろうかと手を伸ばしかけたら、早く行けとバーミィに扉を示されちゃったし。


ま、行きますか。


「大丈夫、あるじは美しい。あるじは可憐だ。」

アカツキも拳を握って応援してくれる。


この子も、最初は「ワタシは戦場しか知らぬ」とか言ってたけど、しばらく話してみたら、なんか普通に乙女なんだよね……?


「おけ! アカツキ、行ってくるよ。見ててね。」


今まで私が読み込んできた無数の漫画、繰り返し視聴したアニメ。

幾多の世界の姫君を眺めてきた私は、言わば時空を超えた観察者。

川島麻衣よ。

これまで積み重ねてきたその見聞を、今ここで披露せずにどうするのか。


おまけに、今の私はカーマイン。

二次元キャラ並みの容姿もそなえた、いわば究極のコスプレイヤー。

本物以上にホンモノらしさを、出せるはず。


よし、行ける。

なんか自信が出てきた。


馬車を降りるつま先の動き。

扉に添える手の柔らかなライン。

髪の流れ方から、腰を落としての一礼まで、完ぺきにエレガンス妄想を具現化してみせたはず。

目を伏しがちに、微笑みを浮かべて、「主人公」にご挨拶。

そして、謝辞を述べる。


どうよ!

視界の端では、ギルがなんかボーッと立ってるのが見える。

相変わらず緊張感の無い。

その姿にちょっと私も気持ちが緩む。


リラックスした気分で改めて「主人公」に向かい合ったとき、初めて相手の顔と姿をはっきりと認識した。

群青色の瞳、銀の髪、中性的な顔立ち。


そして私の心臓が、ドクンと脈打つ。

なぜ、コイツがここに……!?


その顔を、知っている。

ベーリンガー帝国のローゼンドラグーン隊隊長、クルスファイト=アルカード。


クルスが何者かって?


……今回のコラボイベがやってくるまで、繊月の王国は、公式からの供給が長いこと途絶えてたし。

二次界隈でも、ボソボソと呟く古参がいる程度。


だから!

仕方ないじゃない……。

同じキャラデザイナーと声優によって生み出された、転生弟分のクルスくんを愛でていたって……。


でも、その出で立ちにも、見覚えがある。

青い衣、神鳥の杖。

全くの別作品のモチーフ。


それは、たわいもない落書きのお題。

コス着せて、お題は「風立つ谷のハウリング魔女」。


しょうがないでしょ!?

イラスト投稿サイトで、スタジオしゅぷりネタで大喜利やってたんだから……


「魔女っつってんのにクルスぶっこんできたwww お前のクルス、仕事選べしwww」

「飛竜に乗って空飛んでるとか、魔女じゃねぇし」

「女体化してもイケメンという男前ポジ」

って、それなりにウケたんだよ……?


軽い女体化とか、魔法使いコスくらい、いたずら心っていうか、誰にも迷惑かけてないじゃない……


手のひらには冷たい汗。

きつく指を合わせていないと、カタカタと震えているのがばれちゃいそう。


「僕は、名乗るほどの者では……。」


クルスの声が、頭に響く。

女体化設定のせいか、原作より少し高いトーン。

こんな展開でなければ、一言も漏らすまいって集中したい希少シチュボイスなのに。

やばい、まともに顔が見れない。


おまけに、投稿したあと、いつもの口の悪い仲間がさらにどんなコメントしてたか思い出されてきて。

し、下ネタばかりじゃねーか……


呼吸は乱れるし、顔が赤くなってくる。

無理、ふつうに会話するだけでも無理なのに、貴族令嬢のふりなんてぜったい無理。


ギルが、馬車の点検をしているのが目に入ったから、そっちに逃げちゃう。

脇に立って、ギルの背中を見ながら声をかけてると、やっと少し落ち着いてきた。


「部品を用意するのには、しばらくお時間をいただかねば……」


ギルの言葉に、ストーリーに戻ってきた感触がある。


「それは困りましたね……。」


イベントのストーリーでは、モブ令嬢のセリフはかんたんなものだった。

いちおう、もう少しリアリティのある長台詞も考えていたんだけど、正直クルスが登場してきたショックで頭から飛んじゃってる。

流れで行き当たりばったりに行くしかない。

そう覚悟を決めていたんだけれど。


「お急ぎなのですか。」


その返事には、覚えがある。

そのまんまやんけ。

「実は、今日のうちに王都へ向かわなければならないのですが……。」


あとは、大雑把にシナリオをなぞっていっただけで、それでも無事に馬車に乗せてもらう流れになった。


意識の八割がたはクルスのことに奪われていたけれど、予定通りギルは後から追いかけてくる段取りにして、私たちはクルスの馬車に乗り込んだ。

まずは最初のエピソードをクリアってことよね!


の割には、ギルの反応はいまいち鈍くて、うーん、なんでだろ?



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