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38:尋問

街道をいく魔法使いの馬車を、一人見送る。


視界から消えたところで、道の脇に転がっている盗賊たちに目をやる。

連れていくのは面倒だから、ここらに放置して街で衛兵にでも通報するつもりだ。

何かの餌にしてしまえば手っ取り早いのだが、一応、どこぞの貴族に仕えていることになっているんでな。


だが、こいつらには少々確認したいことがある。

指示を出していた役回りの男を見つくろい、治癒の術を施す。


さっきの重装マッチョにも使ったが、闇系統の精霊術にも、強化や治癒の術がないわけではない。

中には、回復役を担うことが多い水や木の系統の術と比べて強化率や回復速度の高いものだってある。

ただ、デメリットを伴う術が多かった。


あれは、どこかの森型ダンジョンで、魔獣に片足の膝から下を食いちぎられた冒険者の男に出会った時のことだ。

その冒険者たちにも回復役はいたが、失われた四肢を元に戻せるレベルではなかった。

俺は、単純な親切心でその男に闇系の中位治癒術、「デモニックヒール」を使った。


パズ&ダズ的に言うと、対象のMPを消費してHPを中回復するスキルだ。

こっちで習得した頃には、俺自身よりも使役してる精霊たちの方がずっとMPが多くなっていたから、デモニックヒールは、MPを対象にも負担してもらえる使い勝手のいい回復スキルという感覚で頻繁に使っていた。


それに、使役している闇精霊や魔獣に使っている分には、誰も文句を言わなかった。

普通の生き物に使った時に何が起こる術かなんて、考えたこともなかった。


男を木の根元に座らせ、仲間が見守る中で術を発動させた。

黒くドロッとした泥のようなものが男の傷口を覆ったかと思うと、その中から無数の肉の根が細く長くウゾウゾと延びてきた。


その男は声にならない悲鳴を上げ続け、周囲の仲間は息をのんで距離を置いていた。

俺も、黙って立ち尽くしていた。


肉の根は、地面や木の中にメキメキと侵入していき、脈打つようにそこから生命力を吸収していった。

男がもたれていた大木は数えるうちに葉を落とし始め、下草も枯れしおれ、柔らかなコケで覆われていた地表は灰色の砂に変わっていく。


「何かが、何かが流れ込んできやがるぅ……!?」

数分後、足が生え終わった時には、男の髪は二房ばかりが真っ白になっていた。


「足は、元に戻ったようだな。」

俺は、にっこり笑ってその場を離れた。

……MPって、ふつう回復するよな?


だが、次に街で見かけた時にも、その男の髪は白い房が残ったままだった。

俺は、もう人間の身体ではなかったし、話しかけなかった。

ただ、ちらっとその男たちと目が合ったような気がした。


さらにしばらくしてから、もう一度街で見かけたことがあった。

やはり白い髪の房が残っていた。

俺の隠蔽もそれなりに上手になっていたはずだが、男は、急に立ち止まるとこちらに振り返って宙を見つめていた。


男は、ずいぶんと腕を上げて実績を重ねていたようだった。

が、「あいつは闇の森で悪魔と契約したんだ」「奴の白い髪は、魂の一部を売り渡した証文らしいぜ」みたいな風聞が付いて回っていた。


結局、俺は人間種の治療の依頼は受けないことにした。


思い出話が長くなったな。

何が言いたかったかというと、この盗賊は、大人しくしゃべる状態になっているはず、ということだ。

実際には盗賊ではなく、暗殺ギルドの中堅どころであることも、あっさり口を割った。


「なぜあいつを狙った。」


「この街道を通る精霊使いを襲えと命令された。」

「詳しいことは聞かされていなかった。」

「あんな奴が相手と知っていたら、こんな面子でかなうはずがない。」

「指令は一方的に伝えられる。上をさかのぼることはできん。」


それらしい答えでもあるが、俺の知りたいことはもう少し違うところにあった。


「お前、自分が子供の頃のことを覚えているか?」


唐突にも聞こえる俺の問いに、戸惑いながらも男は答える。


「子供の頃……? 俺は、孤児だった。今の組織に拾われて、仕込まれた。」


「組織に入る前、もっと小さい頃、何と呼ばれていたか。何を食って暮らしていたか。」


詰めていくと、急にしどろもどろになっていく。


「あ、うぁ……? いや、お、覚えていないが……」


「忘れたのか? 思い出せないのか? それとも、昔の記憶自体、何もないんじゃないか……?」


その盗賊は、目を見開いたまま、俺の問いに対して「分からない」と繰り返すばかりだった。


カーマインによれば、イベのストーリーでは、盗賊の出番はもうなかったらしい。

だが、俺にはこいつがどこから来たのかが気になっていた。


今までのイベントでは、俺は「違う世界」に行っていた。

俺の時間軸とそこでの時間軸が違うことは明らかだったし、からんでくるキャラたちの過去も未来も関係がなかった。


だが、今回のイベントは、この世界が舞台だ。

このイベントは、いつから始まっているんだ。

こいつらは、イベントのために動員されたその他大勢のこの世界の住人だったのか、それとも。


俺たちがいなくなったあと、こいつらはどうなるのか。


トレスティンという第三王子がイベントのキャラだとしたら、イベントの後、バーミィは、どうなるんだよ。


誰からも答えの返らない問いだった。



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