30:道中
「赤い髪の子……。ルビームーン……だっけ?
あの子は、どういう精霊なの。」
「ルビー装備は火属性の近中距離単体攻撃、ムーンは『かばう』属性持ちで壁役タイプだな。
あ、ちなみにバルキリーには色違いバリエーションが大勢いるが、どれも攻略に使えるガチャ限だ。」
「ふーん……。」
パズ&ダズの攻略的にいうと、な。
そして、あっちでのキャラがこっちでもそのままかというと、そんなことは俺には分からん。
キャラ付けはともかく、ゲーム的には使い勝手の良い精霊だった。
無属性で弱点のない高防御に、そこそこの火力。
未知のイベントにとりあえず連れていくなら、十分選択肢に入るだろう。
「要望通り、ご令嬢の盾じゃないか。
人型なのも、目立たなくていい。」
「そっか、いい精霊なんだね。
ところでさ、ルビームーン、って呼ぶんじゃ、ちょっとさみしくない?」
「……あまり一体一体の精霊に思い入れしない方がいいんだろうが……ま、人それぞれか。
ルビーは装備の名だから、どちらかといえば、ムーンの方が本体だな……。」
ルビーアームド・タイプムーン・バルキリーファイター、が正式名称になるのか。
ムーンも、個体名では、ないんだよな。
「ムーンかぁ…… ちょっと呼びにくいかなぁ……。呼び名、考えてあげたいな。」
「好きにしろ。」
「でも、どうしよう。
ムーンは当分呼び出せないってことだと、私、戦う方法がないんだけど。」
「当分かかるなどと、誰が言った。
道中でレベリングすれば、問題なかろう。」
「道中? 道中って……?」
「それも、道中で説明するさ。」
セブンブラックドワーブズに見送られて、俺たちは馬車とともに出発した。
見送られて、というか、最後まで運用方法を細かく説明しようとする連中を置き去りにして、という方が正確かもしれないが。
「ねえ。」
少し息を弾ませながら、カーマインが俺をにらんでいる。
「なんだ?」
窓を挟んで、向かい合う。
俺は馬車の中から見下ろして、カーマインは外から見上げて。
「どうして私だけ馬車に乗せてもらえないの。」
「レベリングのためさ。」
「馬車に乗らないと、どうしてレベリングになるの。
歩くだけでいいってこと?」
「ま、ゲームで言うとチートめいているから、こっちでは秘密にしておいて欲しいことなんだが。」
「うん。」
「あのゲームでは、ストーリー以外のミニクエストでも達成すると多少の経験値がもらえたろう。」
カーマインがうなずく。
「ミニクエストでは、依頼を出している人物についても、特に説明はなかったな。」
「うん。」
「つまり、誰でも依頼者になれる。
俺は今、カーマインにこの馬車の護衛の依頼を出しているのだ。」
「んー……?」
「クエストの達成は、条件さえ満たせば、先に依頼を受けている必要はなかったろう?」
「そうね。素材採集とか、魔物の討伐とか。
依頼票を見た瞬間に、報酬受取りのボタンが表示されてた。」
「そういうことだ。」
「……はあ?」
「そこの小川のそばに、橋があるだろう。そこで休憩だ。
行けば分かる。」
「はあ。」
午前の日差しのなか、青空に草原の緑が輝き、せせらぎの流れる音が平和そのものといった空気をかもし出している。
「んっ、えっ!?」
カーマインが驚いた様子で自分の身体を見回している。
俺は、芝居じみた拍手をしてみせる。
骨だから、コツコツしか言わないけどな。
「コングラッチュレーションズ、初クエスト達成だ。橋までの馬車の護衛、ご苦労だった。
レベル、上がったろ?」
「体が軽いし、なんだかいろんな力を周りから感じる……。」
「それが精霊術師の力だ。
ま、人間は初期ステータスがとにかく低いから、レベル上げただけで成長してる気分になるが、相当レベルを上げたとしても魔獣やなんかと殴り合うことはできん。
勘違いするなよ。」
「わ、わかってるって。今度はちゃんとアドバイス、聞くってば。」
「では、レベリングの続きと行こう。」
「りょーかい。体も軽くなったし、ペース上げられるよ。」
「うむ。では、次のレッスンだ。ルビームーンも、連れて移動するだけならばできるはず。
召喚してみろ。」
カーマインが、俺の目の前で召喚の門を開く。
門をするりと抜け出した銀色の影から、光が走る。
ん? と疑問符が浮かぶ俺の前に、バーミィの後ろ姿。
俺の胸元に向かって突き出された紅玉の槍を、バーミィが素手でつかんで止めている。
「死霊ごときが、我が主の前に並んで立つな。」
「しつけの悪い精霊ですね。飼い主の品性まで、疑われますよ。」
にらみ合う二人。
……バーミィ、お前って……人間じゃないの?