2:少年バーミィ
初日なので2投稿目です。
このくらいの文量で行こうと思ってます。
僕は、恐るべき不老不死の闇魔道士、ギルケヴォールさまに隷属する魔道生命体。
もったいなくも、バーミィという名前を授かっている。
そして、いつの日かこの魂を美味しく召し上がっていただくために、日々がんばって魔力を高めているのだ。
そのギルケヴォールさま、つまり僕のマスターは、より高位の肉体を求め、何度目かの奈落への旅を行うことになっている。
マスターの旅立ちまで、あと三日。
今日は、拠点で旅立ちの準備を行っている。
準備といっても、マスターは鞄の一つも持って行くわけではなく、魔導書を眺めていたり、旅路のための術式を調整していたりするだけ。
準備らしい準備というと、むしろ必要なのは僕の方なのだ。
「奈落の中の深淵、上位不死者の魔力をもってしても困難を極めるであろう挑戦だ。無事に目的を達成できるかは、私にも分からぬ。」
ギルケヴォール様は、落ち着いた口調でおっしゃっていた。
ドクロには表情はないかもしれないけれど、僕にはその眼窩の奥の光や陰を感じることができる。
そこにあったのは、旅路の前のいつもの緊張と、高らかな戦意、そして決意の光。
「マスターと並ぶ強さの者など、すでにどこにも居りません。何故、そこまでして奈落への旅を繰り返されるのですか。」
「自惚れることなど、とてもできぬのだ、バーミィ。
私もニンゲンの暮らしを捨てた一人だが、敵もまた、やはりニンゲンの世界には生きられぬ者たちなのだからな……。」
「ああ、マスター。そうまでして一体、奈落には何が待っているというのですか。」
「強さを求めているわけではない。強さなど、旅路を繰り返せばあとから付いてくるものだ。
それに、強さは常に移ろいゆくもの。昨日までの最強が、次に月がめぐる頃には十の指にも数えられぬことなどいくらでもあるのだからな。
肝心なのは、強いことではなく、旅を続ける、戦い続ける折れない心なのだ……。」
マスター……。
相変わらず、僕ごときには、おっしゃっていることが分かりません。
敵は、自分自身ということでしょうか。
しばらく遠い目で独り言をつぶやいていらしたマスターが、ようやくこちらを向いてくれました。
「詳しいことは、お前には言えぬ。
しかし安心しろ、私は帰ってくる。
その心臓の結晶が道標となる。どうあってもそれを守り抜け。」
そう。僕のすべきことは、なによりも、この「心臓たる脈打つ結晶」を……。
そっと結晶をさすっていると、またマスターが肩を震わせて指差してきました。
「だから、用もないのに取り出すなと言っておろう。
だいたい、私がかけた封印をどうやってお前はかんたんに解いているのだ。」
「マスター、僕は二十四時間三百六十五日、あなたのもとであなたのことを考えて過ごしているのです。
あなたの思索の跡を丹念にたどれば、霊号鍵を見つけ出すことなど造作もないことにございます。」
「私の思索をたどるな! お前のような未熟者が覗き込むと、や、闇に飲まれても知らぬぞ!!」
ああ、マスターの心臓の結晶がドキドキと脈打っている……。
いけない。長いこと結晶を愛ですぎると、この体の魂の力が失われてしまう。
ちょっとため息をついて、僕はおとなしく結晶を胸の中にしまい込んだ。
「封印は、解いてしまったのではないか?」
「ほら、ちゃんと元通りに魔法の縛鎖を施してありますよ。」
「い、今の一瞬でか……。また一段と腕を上げているな。もはや、無詠唱どころではないな。どういう発動方法なんだ、一体……?。」
マスターが、何かブツブツとつぶやいています。
本当はちゃんと真似をしたいのに、正しい術式を教えてくださらないマスターがいけないのですよ。
マスターの目が、こちらに向かいます。
「バーミィよ、試しに今の本気の魔力を見せてみよ。」
きちんと心臓の番ができるか、僕の力を見せてみろということでしょうか。
「わかりました。僕も日々、魂の力を高めるために努力をしてきたつもりです。
その成果を、どうぞ見てください。」
軽く息を吐いたら、近くにいる精霊たちを呼び寄せます。
精霊たちは、その属性に応じて様々な光や陰を帯びている。
みんな、僕に力を貸して……
ちゃんと留守番ができることを、マスターに示したいんだ……!
五…十…二十……まだまだ……集まった霊たちが、紋様を形作って並んでいきます……!