27︰生産者
愚痴を言ったり嘆いたりすることはあっても、こいつらは基本的に仕事熱心だ。
いや、クラフトをするためにこの世界に生み出されたのだからな、その存在からしてクラフトマン、作業の精霊と言ってもいいだろう。
クラフトせよ、クラフトせよ、さらにクラフトせよ。
さすれば、新たなクラフトが可能になる……
かつて「仕事の報酬は仕事」などという言葉があってだな。
ああ、もう、思い出すだけでゲロ吐きそう。
こいつらは半精霊だから、飯も食うし眠りもすると思うのだが、召喚されないときにどうしているのかは、聞いても答えない。
俺も、オフのことまで上司に詮索されたくないタイプだけどな。
ドワーフ達を見ているうちに昔を思い出してきたので、少しだけ宙に浮いて作業風景を眺める。
地面から離れると、こっちの世界にいることを、実感できるんだ……
パーツができあがってからは、組み上がるのはあっという間だった。
うむうむ、なかなかいい感じの魔道馬車なんじゃないか。
艷やかな仕上げのボンネットから滑らかに立ち上がるキャビン。
黒を基調にしつつ、クロームの差し色が、アクセントになっている……。
向こうの世界でいうVIPカーみたいな印象だが……
貴族だろ? 人を従えて生きていこうという人種なら、このくらいの迫力は欲しいところだよな。
アンデッドになってからは荷物もほとんど必要なくなったし、飛行の術も転移の道具もあったから、俺は馬車なんて所有したことがないけどな。
乗合馬車の思い出ならあるな。
まだ生身の身体で、冒険者の真似事をしていた頃だ。
パーティーに参加していた。
このゲームでは、プレイヤーはじめ人間種による直接攻撃なんてほとんど伸びしろがない。
底辺の精霊でもいいからソイツを育てて使え。
そう提案し続けた俺は、毎回パーティーを追放されていた。
クソがっ!
しょうがねぇだろ、そういうゲームなんだから!
ま、精霊を召喚して使役するのは、禁忌とされてたんだが。
ふぅ。
細かい調整は見ていてもあまり変化がないので、小屋の方へ戻ることにする。
カーマインに、小道具のことも聞かなきゃならん。
小屋に近づいたところで、妙な気配を感じた。
「うっ…、うぅっ……。」
「ふ……。」
中から、嗚咽のような妙な声が聞こえる。
んー?
これは、中に入っても良いやつなのか……?
「バ、バーミィ……?」
「は……はぃ……。」
「どうか、したのか?」
「い、いえ、大丈夫です。ぐすっ。」
いや、大丈夫じゃなさそうだろ。
「おい、入るぞ。」
戸を開けて目に飛び込んできたのは、一緒に床に座り込んで目を赤くしている二人だった。
「どうした、何があった……」
二人の他に魔力や生命の気配はなく、静かなものだ。
特に怪我をしているような様子もない。
カーマインが、グスグスと鼻をこすりながら、口を開く。
「あー、恥ずかしい、見ないでよ。」
「なんだ、大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。ちょっと、もらい泣きしただけ……。」
「もらい泣き……? カーマインが、バーミィから、ということか?」
カーマインがコクコクとうなずくと、バーミィは顔を赤くしてその袖をつかむ。
「や、やめてください、カーマインさん……。
僕、泣いてなんか、いませんよ。
この身体が、勝手に目から水分を出し始めたんです……」
「いったい……。」
戸惑う俺に、カーマインが説明してくれた。
「繊月の王国の、物語を聞かせていたのよ。
アルトクリフ様のくだりが始まったら、この子がね……」
「これは、僕のじゃない。
魂の、記憶のせいなんです……」
「魂を失っても、その身体が兄のことを覚えてるんだとしたら、どんだけ兄、神なのよってことでしょう……
同じ信仰を持つものとしてはさ、共感が共振して止まらなくなるっていうか……」
狂信のまちがいじゃねえかな、それ。
二人の話は要領を得なかったが、つまるところアルトクリフ様スゲーって話をしてたらなぜだかバーミィも泣き出して、これは奇跡なんだとかなんとか。
第三王子、トレスティンだったか。
バーミィの人生を、返してやる日が近いのかもしれん。
ちょっと切ないが、そんな気持ちが湧いてくる。
「マスター……、ごめんなさい……」
まだ涙を浮かべたバーミィが、うなだれている。
「なんだ。」
「人間種の魂を、馬鹿にしていました。
こんなにも、深く強い気持ちを持っていたなんて……」
「そうか、思い出したのか……」
なんてこった、このイベがバーミィとの別れだってのか……?
「つまり、ギルケヴォールさまが、僕のアルトクリフなのですね……!」
「ん?」