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26︰進捗

「今は、イベのストーリーに集中すればいい。

私はドワーフたちの作業を見てくるから、カーマインとバーミィで明日の段取りをもう少し詰めておいてくれ。」


「え、嫌です。僕もマスターと一緒に行きます。」


「バーミィ、今回の旅では、お前には第三王子を演じるという重要な役目がある。

第三王子がどのような人物で、どのように物語にかかわっていくのか、その知識なしには、旅の行方は見定められぬのだ。」


カーマインは、黙って様子を見ている。

バーミィは唇を尖らせて不満げではあったが、ついに折れた。


「分かりました。第三王子の人物と使命とを理解すればよいと。

それを知るのが、カーマインなのですね。

では、それまで、よろしくお願いします。」


「こちらこそ、よろしく。

じゃあ、もう夜も更けてきたんだから、あとは部屋の中で打ち合わせをしましょうか。

ふふふ、繊月の王国について、一から教えてあげる。

まさか、トレスティンにアルトクリフ様の素晴らしさを説く日が来るなんてね……。」


「ますたー……?」


とまどいを隠さないバーミィの声。

俺は、聞こえないふりをして暗闇の中に消えていくのだった。

まあ、俺は先月の王国とやら、全く知らんのだけどな。


さて、プロジェクトの進捗は、と。


セブンブラックドワーブズは、ドワーフのチームだ。

ゲームでは仲間になるドワーフが全部で七人いて、ストーリー上で順番に報酬として配布されていた。

戦闘力はほとんどなく、無課金プレイヤーであってもデッキに入れるような精霊ではない。

それぞれが特殊なスキルを持っていて、NPCに近い役割だった。


例えば、一人目が「旅の道具」の作成、二人目が装備の「修理」、三人目が矢などの射程武器の「矢玉」の作成、といった具合でクラフト系のスキルを担当していて、仲間にすることで地図や特殊な矢の作成など、新たなコマンドが実行可能になっていく。


メンバーを集めてからさらに暗黒系の進化と覚醒を重ねていくと、最終的にはこのセブンブラックドワーブズとなって、闇属性や死属性の高位の魔道具の合成や改造が可能になるというわけだ。


もっとも、こっちの世界では、ドワーフは珍しかったもののそれなりの人数がいて、鍛冶屋や細工師の雇われ仕事をしている連中も普通にいたんだ。

適当に町で募集したら、安い報酬でも結構手を挙げてくる奴がいて、最初の頃はそいつらを十人ほど雇って、アイテムの生産で小銭を稼いでいたな。


命がけの探索に数回行かないと雑貨も買えない、逆に言えばちょっとしたアイテムつくるだけでクエスト数回分っていう、現実離れした価格設定がなせる一種の裏技だな。


そうそう、あとでストーリーのエピソードに従って仲間になるドワーフもいたから、セブンといいつつ実際には二十人ぐらいドワーフを育てたことになる。

七人いればひととおりの作業をカバーできるから、今は重点的に強化したスタメンだけを連れて歩いて、それ以外の連中は他の拠点や人間種の町で研究や作業をさせてる。


暗黒系の強化ばかり行うと、どうしても見た目も言動もブラックな感じになっちゃうんだよな。

実際、扱ってる術や素材もヤバいものになるんだが。

バレると迫害されたり処刑されたりするから、ほどほどで強化を止めておかないと、人間種の町では暮らせないっていう……。


ま、セブンブラックドワーブズに属しているようなメンバーは、人間種の世界に帰ることなんて期待も希望もするはずがないけどな。


「進捗はどうだ。」


七番を背負うマネージャー役のドワーフが、ぎょろりとした目をこちらに向ける。

溜息のような呼吸をしているが、特段疲れたわけではない。癖なだけだ。


「実施設計は完了し、素材の加工を進めておる。」


視線を追うと、二人が大まかに切り出した木材の乾燥を行い、もう二人が斧で部品を削り出していた。


太い丸太が、見る見るうちに皮をしなびさせ、カラカラになっていく。

死霊術の応用だな。


「あと二十秒ほど弱めに絞り続けろ……。一度に生気を抜きすぎると、かえって脆くなるぞ……」

「分かっている……。表面にだけ、少し生気を戻すぞ……。

ご注文は……、人間種の、貴族風、だ……。奴らにゃ、ヒビワレやザラツキの仕上げの美学は分からん……」


相変わらず、陰気な連中だよ。

だが、それがいい。


辺りを見回すと、俺達がのんびり食事をしていた二時間ほどで、既に多くの部品が加工済みのようだ。


「あとどれくらいだ?」


「一時間もあれば、馬車の形になる……。」


「そうか、順調だな。

それが終わったら、小道具を作ってもらうからな。」


「……何を、いくつだ。」


「そいつは、指揮官殿に聞いてもらうことになるだろうな。」


はぁぁ……、と息が聞こえる。

その癖、やめた方がいいぞ。

まるで溜息みたいだ。



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