25:変身
「え、そういうこともできるの?」
「言ったろう、魔法もあるのだと。」
バーミィも俺のとなりにストンと座り、ぱくぱくと肉を頬張り始める。
うむうむ、よい食べっぷりだ。
「よしよしバーミィ、たくさん食べるのだぞ。」
口を一杯にしたまま、ふんふんと肯くバーミィ。
「カーマイン、魔法石を手にしたときのことを、覚えているか。」
「ん。いつの間にか、現われてた……。」
「魔法石も召喚術も扱えるということは、チュートリアルは終わった状態だろうから、インベントリの力も使えるはずだ。
着ているものを収納して、身に着けたい装備品を、自分の体にピッタリと呼び出すイメージだな。」
ふむふむ、とカーマイン。
「慣れれば、一瞬だ。
服を入れかえる方法、そこは何か考えろ。」
こんなふうになっ!
パチンと指を鳴らして、大ぶりのマントをばさり、とひるがえす。
そのいち呼吸で、俺はまがまがしい彫刻のようなローブをまとってみせた。
骨の手首にも指にも、いくつもの魔道具を重ね着けている。
何もしていなくとも、冷気を周囲に広げるほどの圧がある。
心まで凍てつくがよい、魔王の如きこの立ち姿を目にして……。
「おー、魔法っぽくなってきたわね。つまり、変身ね。
あたし魔法少女ってわけだ。」
おかしいな、中々のガチ装備なのだが、なんのインパクトも与えていないぞ。
「……ま、装備変更は慣れが必要だから、後で部屋の中で練習……」
俺が続けて注意を呼びかけている最中に、パチンと音がした。
「え?」
ぱさりという音に下を見ると、カーマインの足元に散らばる女物の衣服。
見覚えがある。
召喚されたときに着ていた部屋着か。
先程まで着ていたドレスは魔力を帯びていたが、それを感じない。
収納はうまく行ったようだな。
「うぎゃあ!」
カーマインの声が上がるが、上を向いても姿は見えない。
いつの間にかバーミィが立ち上がって、後ろから俺の両目をふさいでいた。
「見てはなりません、お目が汚れます。」
お前は良いのか、バーミィー!
「このように、念じれば術や奇跡が発動するからといって、必ずしも望んだ結果になるとは限らんということだ。
心しておけ。」
「お約束すぎるでしょう!」
「ま、貴族令嬢らしい格好のままで戦闘をこなすのはなかなか難しかろう。カーマインは覚えて損はないはずだ。」
「うーん。
確かに、ドレスや髪や化粧をちゃんと貴族風に仕上げようと思ったら、一人じゃ無理だもんね。
魔法でメイクまで変身できたら、なんか違う世界の扉が開けそうな気がする……。
バーミィ、あとで教えてちょうだいね。」
部屋着を着終えたカーマインが、ウインクしている。
また何かしょうもないことを考えているな。
「そういえば、ペコとスイミンは、とっても便利よね。
バーミィも、呼んだばかりだって聞いてたけど、十分使いこなせてるじゃない。」
「それはどうも。」
バーミィの受け答えは、元々のつっけんどんな感じに戻っている。
「で、戦闘用にはどんな精霊を持ってるの?」
「戦闘用……とは。」
「スイミンもペコも、召使い精霊とかマスコットみたいなものじゃないの?」
「……マスコット。」
「マスコットって、つまり、案内や支援をしてくれたりとか、ストーリーのにぎわしのためのお友達っていうか……」
「僕たちが、戦えないとでも……?」
「あー、待つんだ、バーミィ。ストップだ、ステイ!
カーマイン、さっきも言っただろ。」
「え? あ、はい。」
「見ろ。もう臨戦態勢になってしまった。」
バーミィははっきりした命令をしていないのに、ペコの周りには灼熱の刃が浮かび、スイミンのそばには何やら奇妙な匂いのする煙が漂っている。
そこには、明らかに普通の人間など瞬殺しそうな力がみなぎっていた。
「え、ノーマルガチャでも、戦闘に使っていけるの……?」
確かにな。
パズ&ダズの現行環境では、無課金でも頻繁に引けるノーマルガチャは、ほとんど占いか当たらない宝くじ程度の意味しかなくなっていた。
ごくごくまれに、上の中くらいのガチャ限に相当する精霊も、いないわけではない。
が、それ以外の精霊は、ガチャ限精霊の強化や進化の素材にするか、数十体をまとめて一括解放してほんの少しのアイテムを代わりに得るか、くらいにしか使い途がない。
バーミィが連れているスライムやゲッコーの色違いシリーズなどは、ゲーム配信初期から実装されていた精霊で、何度か強化されているものの、最新のコラボガチャ精霊とは、比べるまでも無い。
だが。
「バーミィが使えば、十分戦力になる。この子はとにかく、いろいろ規格外なんでな。
この精霊たちも、まだ進化を残している。」
「え、でも、じゃあ、バーミィが強めのキャラとか引いちゃったら……?」
「最新のコラボガチャ限で固めても勝てなかったと言ったのは、カーマインだろうが。」
「おう。
いや、待ってよ。やっぱり、わたしがバーミィを守る場面無くない?」
「ま、そもそも私もまだ旅に出ていないわけだしな。
今は結晶のことは忘れて、イベのストーリーに集中すればいい。」
そう、結晶眺めてる場合じゃないのだ。