22:好感度
高感度メーター?
繊月の王国の……?
は? 何を言っているんだ?
「バーミィ、ちょっと見せてよ。
それは、イベントの攻略に、とっても役に立つ品物なのよ。」
「い、いけません。
これは、秘密の、僕が守らねばならない、大事なものなのです!」
バーミィよ、そんなに大事なものをなぜ出しているのか。
「そんなに凄いものなら、見てみたいなー。
えー、なんかとってもキレイな宝石みたいだし。
大丈夫、大丈夫、ちょっと見るだけだから。
ほんとほんと、何にもしないからさ、ね、ね?」
「……見るだけ、ですよ。」
バーミィが見せた心臓の結晶は、ちょっとドキドキ震えながら、その片隅が少しだけピンクに光っていた。
「あー、まだまだ序盤も序盤だね。五パーセントくらいかな?
でも、まだなんのイベントもこなしてないのに好感度が増え始めるなんて、バーミィったら、ツンツンしてる割には案外チョロいんだね!」
「え、何を言っているのです?」
「ふふ、なんでもないのよ、バーミィったら。
年上のお姉さんも、いいものよ。」
「なんですか。気持ち悪いこと、言わないでください。」
「はーい。」
こうかんど…… 好感度、か!
どういうことだよ……
「どうしたの、ギル。」
「……いや、その結晶がピンクに光るのを初めて見て驚いただけだ。」
「あれね、ホントの名前はクリスタルハートって言って、シナリオクリア後に使えるようになる好感度メーターなの。
シナリオを周回するときに、好感度が分かるから分岐の見当がつけやすくなるのよね。」
知らんぞ、そんな話。
カーマインが、急に近寄ってくる。
そして耳元で、ささやく。
「あれを見てれば、わたしがどれくらいバーミィに好かれてるかが分かっちゃうってワケ。
バーミィには、ナイショだよっ!」
「ほ、ほう。」
「あれぇ、また少しピンクになってる……」
バーミィのつぶやきが聞こえてくる。
「ちなみに、全部ピンクになると、どうなるんだ。」
「えー! 百パーピンクまで目指しちゃう?
キャラによるけど、そりゃもう濃い展開だよ。
普通は、八十パーセントもあれば十分ハッピーエンドなんだから。」
「た、例えばの話だが、バーミィだったら……?」
「トレスティンルートは、二作目に短いシナリオがちょっとあっただけだからなー。
わたしもだいぶ忘れちゃったけど、確か九十パーくらいから後はもう、ヤンデレショタみたいな終わりだったかな。
あー、百パ―だと別のエンディングってのもあるかもしれないけど、そこまで究めてないから。そうそう、誰がターゲットでも、百パーってメチャ大変なの。」
「ははは、ヤンデレか……、バーミィが、恋に落ちたらそんなこともあるかもな。」
乾いた軽い笑いを演じながら、俺は必死だった。
ちょっと待てよ!
なんだよ、好感度メーターって。
バーミィが持ってるけど、それ俺のだよ。
しかも、好感度、簡単に上がりすぎだろ……
「バーミィも、この格好が気に入ってくれたってことかな。
そうだ、鏡、鏡はない?」
「あ、ああ。鏡か。姿が映ればいいのだな。」
インベントリから適当に選んだ転移の鏡を取り出して設置する。
「触れると跳ぶから、見るだけだぞ。」
「跳ぶって何よ。」
少し笑いながら、カーマインが鏡の前に立つ。
「え、ウソ。
ちょっとこれ、なんていうの、自分なんだけど、美化っていうか、キャラになるってこういうこと!?
いや、確かにモブっぽいっちゃモブっぽいけど、だとしても美形ぞろいのドラマの中の友人ポジくらいの美女力あるよね!?」
いや、俺に同意を求められても困るが。
「……だからさっき言ったろう、俺はきれいだと思うぞ、と。」
低く小さい声だったからか、返事はなかった。
カーマインは、次々とポーズや表情を変えながら、興奮している。
「くー、なんていうか、厚化粧かアバターみたいなもんだとしても、こんなんだったら人生変わるっしょ。
え、そしたらさ、ギルもこっちに来た時、イケメンになったってこと?」
「うーむ。自分の姿にあまり興味が無かったこともあるが、こちらの世界で自分が関わるような人物は、大体なにがしかキャラが立っていたからな。
メインストーリーでも美形キャラなどゴロゴロしていたし、別に自分が美男子として特別扱いされた感覚はないな。」
「むー、そっかー。こっちじゃ、これでも大したことないってかー。
くっそー。」
「ま、まあ良いではないか。少なくとも俺は、美人だと評価しているぞ。
なんなら、バーミィもな。」
「ん、そうね! ふふ、この世界のこと、ちょっと見えてきたわね。
つまり、バーミィも、攻略対象ってことでしょ……!」
おい!
バ、バーミィに、手を出すつもりか。
「もちろんメインはアルトクリフ様だけど、旅の楽しみも増えるってもんね。
バーミィには、ちょくちょく結晶を見せてもらわなくっちゃ。」
いや、俺の攻略進行度、ちょくちょく見せられても困るって!