13:出立
とにかく、三人でイベントのストーリーを攻略することにした俺達は、さっそく屋敷を出て王都に向かっている。
「あんな汚くて臭い廃墟、一晩だって無理!」
確かに、屋敷とは名ばかりの適当な拠点だよ!
アイテムが整理できればそれでいいんだよ!
だいたい、俺はアンデッドなんだよ!
汚いも臭いもないっつーの!
言いたいことはいくつもある。
だが面と向かって反論する気力は無い。
何倍かになって返ってきそうだからな。
「この森は…… そもそも生者の住まうべき場所ではないからな……」
つぶやいていると、バーミィの声がかぶさってくる。
「そうだ! この常闇の森では、生者こそ迷い込んだ子羊なのだとわきまえろ!」
やめろ。
俺に向かうカーマインの目つきがまた冷たさを増していくじゃねーか。
「ねえ、どうなのよ、常闇の森の主としてはさ。」
「何がだ。」
「この洗脳っていうか、教育っていうか、一種の児童虐待じゃないの? ねえ。」
「契約だとか術式だとか、何か縛り付けているわけではない。」
「そうは言っても、こんなところに住まわせて働かせてるんでしょ。」
「俺はアンデッドだ。衣食住のどれも必要ない。
だから、俺に貢ぐために働いているわけではない。
奴が勝手に押し掛け弟子みたいなことをしているだけだ。」
「そお? なんかバーミィはあんたのために生きてますみたいになってんじゃん。」
「バーミィは狩りも採集も、そこらの猟師では相手にならぬ技術を持っている。
なんなら、ちょっとした工事も細工もできる。
どこででも、自給自足で暮らしていけるだろう。
別に俺がいなくなっても問題は無い。」
「大人なら、それでもいいんだろうけどさー。」
「この世界の成人は早い。
なんだ、その、ファンタジーの中の西洋みたいなものだからな。
十四、五にもなれば十分働き手で、もう少し経てば所帯を持つ人間だっている。
カーマイン、お前くらいの年になれば、この世界じゃとっくに結婚してるんじゃないか。」
「わたしの話はどうでもいいよ……」
「なんだ、急に勢いがなくなったな。
人のことをオタク呼ばわりしておいて、お前もリア充ってわけじゃなさそうだな。」
まあ、なんだ。
ふつうくらいには可愛い娘だと認めはするがな。
「ストップ。これ以上その話をするなら貴様をコロす!」
おっと、コイツがどんな力を持っているのか、まだ分からんのだったな。
両手を挙げて降参の仕草を示す。
「余計なことを言った。
しかし、イベをこなしていくにしても、この世界を旅していくのなら、魔獣だの盗賊だの、戦闘は避けられん。
お前には、どんな能力があるんだ。」
「さあ。しっこく殿には、わたしのステータスとか見えたりしないの?」
「……ギルと呼んでくれないか。」
「じゃあ、お前って呼ばないでよ。」
「了解した。名前を呼ぶ必要があるときは、カーマインと呼ぼう。」
カーマインか。
自動車爆弾……? いや、なんだっけな、色の名前か。
紅…朱…もう少し紫がかった赤だったか……?
しっこくで漆黒からの赤紫か。
ようやくノリが分かってきたようじゃないか。
「オッケイ、ギルギル。」
「……ここは魔法もあれば精霊もいる世界だが、ステータスとかそういうものがはっきり分かるような便利なシステムはない。
よくよく気を付けることだ。
例えばだな、今、魔法石を持っているか?」
「……爆死直後だったけど、手元には半端だった二個があるわね。」
「見せてみろ。」
「あ、ここにある。」
「魔法石を、どこから取り出した?」
「え? 二個あることを知ってたから、なんていうか、普通に手のひらに出したんだけど……」
「そうだ。この世界では、何かを念じてちょっとした動作をすると、この世界のルールで実現可能とされていることは実現する。」
「はぁ。」
「精霊の召喚もそうだ。精霊の次元との扉は、魔法石の力で開くことができる。来いと念じて魔法石の力を解放すれば、それが実現する。
魔法石には、生物や精霊を癒す力もある。癒せと念じれば、実現するんだ。」
「どういう理屈なの?」
「魔法だよ。ファンタジーだよ。理屈が必要か?」
「まあ、野暮なことは言わないけどさ。」
「条件を満たした状態で、念じれば色々なことが起こる。
起こった後のイメージがなくても、だ。
何かを願う時は、慎重に何が起こるか後の影響も考えてからにしろ。
魔法石や、何か大きな魔力源の近くにいるときは、特にな。
つい願ってしまえば、暴発しかねない。」