11:僕の名はバーミィ
唐突なネタバレに反応できずにいた俺に対し、先に動いたのはバーミィだった。
「ひれ伏せ、無礼者!」
バーミイの怒りの波動に引き寄せられて、邪霊がポツポツと姿を見せている。
「僕の名はバーミィ。第三王子だかなんだか知らないが、僕はトレスティンなどではない!」
いや、さっきの俺も見てたし……。
それに、危ないからその物騒な霊たちを遠ざけなさい……
「そもそも、僕の身体はギルケヴォール様によって生み出された人工生命体。人間ではない。
この身体も、心も、ギルケヴォール様の所有物なのだ!」
バーミィが拳を握って熱く語るほどに、女が、コチラを睨んでくる。
大変に冷たい視線を感じる。
俺は、バーミィの後ろでフルフルと首を横に振る。
俺は何もしていない。
女は、じっと眺めてくるのをやめない。
数秒のにらみ合いの後、俺が目をそらす。
仕方ないな。
「バーミィ、これまでお前に話していなかったことがある。」
「えっ?」
凄い勢いでバーミィが振り返ってきた。
おっと、目付きもヤバい。
うかつな事は言えんぞ。
「実はお前のその身体は、とある人間の肉体を素材としている。
魔力の豊富な身体でな。死して土に還るのがもったいなかったから、器として再利用したわけだ。
その身体が何者だったか、私も忘れておったが、そういえばどこぞの王子だったかもしれんな。」
拾って助けたというホントのことは言えなかった。
「なるほど、死霊術と闇魔術の融合ですね! さすがマスター。
死してなお、この者を支配し続けるとは、恐ろしい……
それに、僕の疑問もいくつか解けました。」
ほう。
「なんの疑問だ?」
「いえ、たわいもないことです。
夢のような、あいまいな記憶のようなものが時おり頭に浮かんでいたのです。
この肉体に、もとの魂のなごりがあったということですね。」
……それは普通に記憶が戻りつつあったんじゃないかな。
「ちなみにどんな記憶だったのだ?」
「死者とはいえ、他人の記憶をのぞき見るのは良い趣味ではありませんので、忘れることにしています。」
まじめか。
もっと自分を大切にするんだぞ。
「ちょっと、あんたトレスティンに何をしたの?」
眉間にシワを寄せて女が問い詰めてくる。
ええい、やっとバーミィが落ち着きそうなところを。
この子が機嫌を損ねると、周辺に被害が及ぶんだぞ。
「今は、その問いはやめておけ。
このバーミィは、子供に見えるかもしれんがその力は魔獣など相手にならぬ。
普通の人間ではないのだ。」
「そりゃそうでしょ、トレスティン……、ええと、バーミィ? その子が弱いわけないじゃない。」
「バーミィの何かを知っているのか。」
「どこまでって、向こうじゃその子を倒せなくて四苦八苦してたわよ。」
「……は?」
こいつ!? 聖女どころか勇者の類か!
「その子、ステージボスだったんだから。」
ん? ゲームでの話か?
「すると……貴様の狙いはバーミィの命なのか?」
「どっちかっていったら、味方なんじゃないかな。
わたし、アルトクリフ様に託されたのよ。」
「……アルトクリフ? さっき叫んでいた名前か。神かなにかか?」
「まあそんなところね。トレスティンのお兄さんだけど。」
「兄? その者に、バーミィのことを頼まれたということか。
捜して、連れて帰れとでも?」
「どうかなー。直接連れて行っちゃうと、ろくなことにならない気もするしなー。」
どういうんだ、この女は。
話が見えんな。
ええい、このままでは、らちが明かんか。
「……パズダズという言葉を知っているか。」
「ん? 知ってるよ。ここは、そのコラボイベントの世界なんでしょう。」
「コラボ……?」
「知らないの? 繊月の王国コラボ。だって、バーミィの着てるその衣装、コラボのと同じだけど、原作では見たことないし。」
「イベの舞台が、この世界だというのか……」
「そういうことじゃないの? わたしはトレスティン倒せなかったから、その後の展開は知らないけど。」
「お前は、こういうのに慣れてるのか?」
「こういうの?」
「転移というか…… ゲームの世界に入り込む的な……」
「初めてだよ、こんなの。」
「お前は我々に召喚されてきた…… だが、それだけではないということか?」
「そう。わたしは、アルトクリフ様によって、この世界に送り込まれたの。
弟を救ってくれってことね、きっと。
おかげで、とんでもない数の魔法石を砕く羽目になったわ。」
「ほう……?」
「うん。爆死だけど、爆死じゃなかった。
この世界でイベをクリアして、ちゃんと会いに来いって、そういうメッセージだってこと。
わたしには分かったんだ。
ただトレスティンを倒すってことじゃなくて、こんな風に出会いからやり直すって、そういうことでしょう?
本当のイベは、ここからだ!って」