表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/119

117:荒野

「いいえ」、一択でしょ。


バカバカしい。

あんなバトルジャンキーたちに、つき合ってられない。


グレンガの、偉そうな態度を思い出すっての。


「お前は、装備の割には対人戦慣れしてないからな。

火力やスピードさえあればスキルで一方的にボコれる魔獣どもと違って、マッチングバトルじゃプレイングスキルがモノを言う。

装備や覚醒だけ先に進めちまってるからな。

似たようなランクの奴とじゃ、多分勝負になんねえよ。」


何よ、偉そうに。

ギルよりも幼い口調だけど、なんだか上から目線で一方的に語ってくる。


「つっても、ランキングマッチには一勝もできなくても参加賞があるから。

一回くらい負け確でも参戦しておくといいぜ。」


参加賞ね。

確かに、ソシャゲの新規接待配布は定番よね。

考えとくわ。


「ありがと。」


にっこり笑顔で応えてみせる。


「お、おう。」


とたんに神妙な顔になるグレンガ。

ふん、小僧め。


「あたしだって、たまには感謝くらいするっての。」


そか。

小さな声で言ってから、グレンガは出発していったんだった。

まったく、アオハルかって。




マッチングのメッセージウィンドウが消えたあと、改めて周りを観察する。

焼け焦げた大地っていっても、山火事みたいなのとは違う。

高熱と衝撃波の形跡……?


濃淡というか、ところどころに砂が融けてガラスみたいになってるとこがあって、それを中心に、爆風が拡がったって感じかな。


こんな敵がいない場所まで無差別攻撃するようなスキル、パズ&ダズだとどんな効果で表現されるんだろ。

あんまりピンとこないなあ。


私の大切なカラミーテの王土を汚すとは、不届き千万なプレイヤーめ。

地面を眺めてゆっくりと歩き回りながら、イメージを具体化してみる。


バン、ここに高エネルギーが叩きつけられる、直撃したところは岩まで溶けて弾け飛ぶ。

ただし一つ一つは小さく凝縮されたようなエネルギー……、そう、火球というより落雷みたいな……。


それがドンドンと繰り返されて……。

頭に、降り注ぐ無数の稲妻が浮かぶ。

あれ、どこかで見たような。


激しい白光の明滅、天上から響いてくる轟音。

見上げた目線の先に浮かんでいたのは、空の城。


「まさか、クルスのあの召喚スキル、なの……?」


もう一度夜空を眺めれば、そこにあるのは赤い月とわずかな雲。

天空の城はおろか、雷雲の気配もどこにもない。

幻視か、フラッシュバックか。


あれは、確かに異物。

いくつもの次元と境界の狭間を渡る存在。

パズ&ダズの世界にとっても、繊月の王国にとっても。

それを産み出したのは、ほかならぬ私のこの手……。


「クルス……?」


念話で呼びかけてみるけれど、応答はない。

そうよね、念話なんてすぐ近くでしか働かないし。


暗がりの荒野を吹き抜ける風の音だけが、耳に入ってくる。

急にうすら寒さを感じて、自分の体を抱えてしまう。


そうだ。

マッチングは断ったものの、マッチングバトルじゃなくたって他のプレイヤーやキャラとのからみはありうるんだった。


あわてて、精霊術を行使する。

向こうでは魔力を補充できなかったから、いきなりたくさんの精霊を呼ぶことはできない。


アカツキ、来て。


とにかく、誰かとしゃべりながら過ごしたかった。


赤味を帯びた線で魔法陣が展開されると、精霊門の中から小柄な影が滑り出てきた。


「お帰りが遅うございます!」


「あは、ごめん、ごめん。」


黒いマントが月明りさえもかき消すような、洋風でありながら忍びの気配の闇騎兵。


「ただいま。」


「……もう、戻られないのではないかと、思ってしまいました。」


それは、私の中にもあった声。


「ふふ、まだ私には、こっちでやらなきゃならないことが、あるのよ。

この世界も、守らなきゃ。」


「はい……。」


「それに、アカツキ。

向こうでだって、召喚できるのよ。」


「え?」


「簡単には魔力が補充できないからね。

大きな力を使うことは、できないけど。」


「そう、か。

主が向こうへ渡っても、契約は続いている、のですね。」


「だから、こっちでの戦いが終わったら、アカツキに向こうの世界を見せてあげてもいいかもね。

おとなしく、いい子にできる?」


「はい……、はい……!」


「よし。

それじゃ、まずは王都に向かうわ。

周辺の地形を調べて、現在地を割り出してくれる?」


返答も聞こえないうちに、アカツキは姿を消して走り去っちゃった。

騎兵っていうか、猟犬だぁ。


たった一日見なかっただけで、ずいぶん久しぶりみたいに。

うるうるした瞳が、庇護欲かき立てるし。

くう。


アカツキみたいな合法洋ロリ、向こうでだったらどんな格好させてみようか。


クルスのことを都合よく頭から追い出して、私はまた新たな道を踏み外しつつあったのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ