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114:再転移

「で、バトルは終わったわけだけど。」


川島が言う。


「ああ、意外と早かったな。それで。」


何の気なしに髪をかき上げる俺の仕草に、川島がふう、と桃色の溜息をつく。

いちいち反応されると、こっちも困るんだけどな。


「あっちの世界に戻らないって、本気なのか確かめたいってこと。」


「んー、そうだなー。

確かに、例のイベの攻略に力を貸すって約束、したんだよな。」


川島の目が、少し丸くなる。


「あ、覚えててくれたんだ。」


「そりゃまーな。」


つっても、今のお前さんが見てるのは、俺……ギルっていうより「アルトクリフ様」なんだろうが。


ああ、でも、俺の身体は、向こうの骨の身体もこっちの人間のも、もうなくなってる。

ってことは、この世から「有川悠人」って呼ばれてた存在は、きれいさっぱり消えちまったんだよな。

桎梏の闇魔導士ゲルケヴォール様だって、どうなんだ。

こんな光属性の超絶イケメンになっちまってさ。


「アルトクリフに転生したって、マスターはマスターですニャ。」


ミヤキチが、ブツブツと呟いている。

お前は、俺の考えてることなんざお見通しか。

ミヤキチの頭を少し撫でる。

にやあ、と小さくミヤキチが鳴いた。


川島に向き合いなおして、結論を伝えることにする。


「ただ、たった一人で転移してきたあの時とは、カーマインももう違うよな。

仲間も増えて、強くなった。

俺がいなくたって、イベの攻略はできるだろ。」


グレンガとクルスという圧倒的戦力に、トレスティンやキルリア領の現地勢力。

緑二号にも、協力を言い含めてある。


だいたい、攻略サイトだって見られるようになった現状、半端に時代遅れの俺のゲーム知識だって、大した役には立たんだろ。


「それに、俺は今、こっちで指名クエスト、受けちまってるんでな。」


同じ話を繰り返していたって仕方がない。

俺は、コンビニに向かうことにする。


カーマインは、口を閉ざしたままうなずいて、少し迷ってから、また口を開いた。


「また、会える?」


「別にお別れを告げるつもりはないさ。

俺がこっちで拠点を再構築してる間に、カーマインはあっちで自分のアルトクリフを見つけて来いよ。」


「そうだね。

イベで私のアルトクリフをゲットしようっていうんだから、ギルを連れてくわけにはいかないもんね。」


少し寂しそうに、だが微笑んで、川島は転送の魔法陣を展開していく。


「イベの成功を祈ってるぜ。

つか、攻略サイト見たんなら余裕だろ?」


「ふふ、せっかくのコラボイベだよ?

幻のシナリオだよ?

ネタバレ、見るわけないじゃない。」


あり得なーい、そんなことをつぶやきながら、川島は光の粒子の門へと入っていった。


……は?

攻略サイト、見てねーのかよ!


思わず罵り声を上げそうになった俺の前には、すでに魔法陣の痕跡さえ残っていなかった。


ペコとスイミンに小さな姿に戻ってもらったりしていると、尻ポケットでスマホが振動する。

取り出して見ると、また着信だ。


ああ、はい、すみません。

ちょっとシャワーとか、スマホ見てなくて。

いまから向かいますんで。

あ、はい、大丈夫ですよ。

ちゃんと店長代理のところ、戻りますよ。

じゃあ、十分もあれば着きますので。


そう、俺のニューゲームは、このクエストから始まるんだよ。

俺は、路上を軽く走り出した。


はは、ちょうどいまが日曜の朝(ニチアサ)か。

魔法少女チックな主人公は、俺かあいつか、さもなきゃ……


くだらないことを考えていたら、あっという間にコンビニに到着する。

いやマジでこの身体、軽く走るだけでも速いわ。


警察や消防の車両はいなくなっていたものの、多少近所の人間が店の周りをうろついている。

目立ちにくいように隠蔽効果のあるアクセサリを装備しといてよかった。


裏口から入っていくと、目を赤くした店長代理が電話を握りしめて椅子に座り込んでいた。


「どうしたんですか、店長代理。」


「ああ、有川さん……本当に、戻ってきてくれたんだね……」


「いや、さっきまで仕事してたじゃないですか。

試用期間扱いだけど給料出すって、言いましたよね!?」


「あはは、採用当日しか顔見せずに音信不通になっちゃう子も、結構いるんだよ……」


「それより、大丈夫です?

何かあったんですか。」


「うん、事故のこと、親に報告しようとしたんだけど、入院してるお父さんの具合が悪くて、病院で緊急手術の準備してるって。」


マジか。


「じゃ、じゃあ、もう今日は店閉めて、病院行った方がいいですよ。」


「そう、だね。

有川さん、一緒に来てもらって、いい……?」


立ち上がるのにさえ、助けがいるほどだ。


「分かりました。

あ、きょーこさん、そういうわけで、ちょっと店長代理と病院行ってきますね。」


「そうよ、くるちゃん、お店やってる場合じゃないでしょ。

片付けと戸締りは、しておくからさ。」


パートの恭子さんへの挨拶もそこそこに、店長代理の小さなフランス車に乗り込むと、俺たちは病院に向かった。

いや、街中で運転するなんて、久しぶりでハラハラするんだが……





ちょっと間が空いてしまいました。

年度末近づいた仕事とか、パト2とかエヴァとか、おじさんにはミッションの多いこのごろだったので……

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