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112:一時帰休

こっちの世界にいったん戻ってくる。

そのきっかけは、グレンガの話だった。


アイツは、具現化世界に行ったきりになっていた俺と違って、こっちの世界で暮らしながら、ときおり開催される「異世界バトル」に呼ばれて参戦していたんだという。


それまではパズ&ダズも触ったことさえなかったらしいが、あるとき自分が参戦している世界のスキルやら精霊やらが、ウェブで見かけたとあるソシャゲの世界にそっくりだと気づいたってわけだ。


「はーん。気づいてからは、攻略知識系のチートってことか。」


「いやいや、最初はめちゃキツかったっつーの。

意味わからん世界にいきなり飛ばされて、さあ戦えって。

俺、この手のゲームも、そんなやったことなかったし。」


むしろ、ゲームやってない人間も参戦してると知ったのは驚きだった。

ランクが上がっちまえば低ランクのプレイヤーとマッチングされないからな。

最底辺でどんな連中が戦っているかなんて、俺は知りようがなかったか。


「それで、アプリの方はどんな具合なんだ?」


グレンガはクエストを要領よくこなしている雰囲気だったから、ゲームとしてはどこまでやりこんでるのか、俺は軽い気持ちで聞いてみた。


「え?

インストールもしてねえよ?」


「なんでだよ!」


「いや、情報はウェブだけ見てれば十分でしょ。

ゲームやったら自分が強くなるってわけじゃなさそうだし。」


「だけど……!?」


「考えてみ。

急に野球やるからって言われて、野球のアプリ入れようとか思う?

別に死ぬわけじゃなし、最低限の知識だけあったら、ふつうにリアルに練習するでしょ。」


え、いや、そんな。

俺はパズ&ダズを遊びでやってんじゃないんだよ……?

んん……?

スマホいじるより身体動かすイメージの方が、そりゃ実戦的なのか……?


相当年下と思われるグレンガに対してろくに反論も浮かばず、俺は黙り込んだのだった。

くそ、学生がビビるような額の課金をしていたことを口にできなかったのは、俺の負けなのか……?


ま、そんなやり取りはともかく。


それまで、俺はこっちに帰れるとも思っていなかったが、帰りたいという気持も強くなかった。


部屋で、一人ゴロゴロしながらスマホをイジって貯金切れタイムアップを待つ生活だ。

具現化世界もそこまでイージーモードでもなかったが、自分の知識や発想を目いっぱい活かして戦うってことじゃ、夢のようなゲーム界転生だったわけで。


だが、そのゲームのバトルに関わることとなったら、ちょっと引けねえ。

つーか、グレンガがこっちのネットで最新コラボやイベントの情報を得ていたと聞けば、スルーするわけにもいかなかった。


マッチングバトルは情報戦だ。

じゃんけん並みに相性や組み立てがものを言う。

だからこそ、さっきの獣人も、「未知」の要素にあれほど執着したのだ。


繊月の王国のコラボだって、俺が転移した後に告知されたってことだからな。

最近のイベも、俺はまともにこなせていなかったわけだから、どんな精霊やアイテムが出ていたのか、俺は乗り遅れている。

今後の新実装やコラボイベだって、すでにネタが上がってる可能性もある。

強敵がしのぎを削っている上位層で、最新の情報をさらえるってのは俺にとって、重要な挽回のチャンスなんだよ。


ってわけで、単純にこっちに帰りたがっていたカーマインというか川島麻衣と一緒に、ゲートを使って戻ってきていた。


だから、俺の前提はバトルを続けていくってことだし、それには当然向こうに戻らなければならないと思っていた。

だが。


「そうか。

こっちにいても、こうしてランキングマッチには参戦できるのか。」


「戦うことをお勧めはしませんが、やろうと思えばデキますニャ。

それに、マスター。

向こうに戻らなければならない理由など、あまりないのですニャ。」


ふうむ。

アンデッドの身体の内はあまり気にしていなかったが、生身であることを想うと、正直こっちの世界の方が快適に暮らせるだろう。


思案顔の俺を見て、川島がとまどった声を上げる。


「ええー。

待ってよ、ギル、向こうに帰らないってこと?

カラミーテ王国の騒ぎは、どうするのよ。」


「カーマインは戻ったらいい。

グレンガとクルスと一緒にトレスティンを手伝ってやれば、たいていのことはゴリ押しできるだろ。

んで、イベント期間中は繊月の世界を楽しんで、また次のタイミングで戻ってきたらそれでいいんじゃないか?」


「ええー?

やめてよ、アルトクリフ様の姿で王国のこと、どうでもいいみたいに言わないでよ。」


「姿はそうかもしれんけど、俺はアルト様じゃないしなあ。」


「身体はそうじゃん。

なによ、身体だけの関係で、心は関係ないっていうの?」


興奮した川島が、声を荒げていく。


「ちょっと待てよ。

ここは往来だぞ。

人聞きの悪い言い方、するなよな……。」


口にしてから、俺も思わず顔を赤くする。


「な、何言ってんのよ……」


二人してうなだれて向かい合っていると、バトルの第三ラウンドが始まったようだった。



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