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110:契約

ぞぶり、という柔らかな物質が刃物を飲み込むような感触が伝わってくる。


お?

さっきは意識する間もなくブツ切りされてなかったか?

痛いのは勘弁なんだが。


そのまま、柔らかいものでぼよんと弾き飛ばされる。

身体が浮き上がり、墜落しながら隣のマンションに向かって吹っ飛んでいく。

受け身を、と思いきや、そこでもぶよんと包み込まれるような体感。


おいおい、なんのウォーターアトラクション。

生身の人間なら肉袋がスプラッシュしてバウンドしてスプラッタになってるところなんだが。

死んでねー、どころか、大したダメージすらないな。


砂煙をよけながら立ち上がると、俺の身体よりも大きな半透明の水玉というか粘液の塊が、壁との間に広がってクッションになっていた。

いつの間にか、その水玉……粘液は、意思を持つかのようにフルフルと形を変えて、小さく縮みながら俺の身体に沿ってボディスーツかプロテクターかと言うべき形にまとまっていく。


何だこりゃ。

不気味ではあるが、この匂いは記憶にある。

名前も、どこで嗅いだ匂いかも忘れてしまったが、身近にあった匂い。

ハーブのような、そして、少しアブない気配の有る。


「俺を護ったのか?」


「きゅぴぃ」


独り言に、返事があった。


胸元の水玉の中に、ファンシーなキャラのような顔が浮かんでいる。

スライム的なキャラの。

つまり、そういう力の一つなのか。


「気持ちはありがてえけど、ちょいと周りにはメイワクかけちまうかもな……」


マンションの上空で、魔力が高まっているのを感じる。

そして狼獣人の声。


「はっはー。

精霊でもない、装備でもない。

スキルでも、ステータス上昇でもないってか。

なんだぁ、そいつ!

まさかの新要素かぁ?」


「やっぱりな……。

こりゃ、簡単には終わらせてもらえんぞ……」


「きゅぴ!?」


「簡単になんて、終わらせませんとも、ですニャ。」


例の猫が、路地からこっちに出てきた。


「お前さんの指し金かい……。

しっかし、街中でドンパチやらかして、後始末、つけられるのかよ。」


「マスターを、簡単にあのような者に負けさせるわけにはいきませんとも。」


「いや、俺は勝っても負けてもどっちでもいいんだがな。

周りの被害がな、気になってんだが。」


「何をおっしゃるのですか。

マスターの栄誉のためです。

多少のコラテラルダメージなど、人民には受忍義務がありますニャ。」


なにその危険思想……


「いや、俺はただ平和に暮らしていきたいだけなんだよ……」


猫が、ハッとした表情でこちらを見てくる。


「そ、それはそうでしたニャ……」


「てか、戦えって言うなら、なんだっけ、封印みたいな? そいつを解いてくれた方がいいんじゃねえの?」


猫は、黙って首をかしげている。


「桎梏の解放ニャ……

マスターは、大丈夫なのですかニャ……?」


「え、なんかマズい?」


「そのお力は六百六十六倍となりますが、モノを壊さないよう扱うのが大変面倒と聞いておりましたニャ……」


「却下だな。」


「分かりましたニャ。

周囲への被害が気になるのでしたら、僕が対応するのですニャ。」


「お、なんだ、できるのか。」


「ハイにゃ。

闇魔術で、目撃者の記憶の操作が可能ですニャ。

被害はすべて相手が一人で暴れたせいだと書き換えておきますニャ。」


「き、記憶の書換え……?

それはそれで被害なんじゃねえか?」


「分かりましたニャ。

確かに、記憶の操作は不安定な要素が色々ありますニャ。

あまり件数が多いと映像記録等に介入するのも難しいので、煙幕や光学迷彩も合わせて展開しておきますニャ。」


「え、少ない件数だったら介入できるの……?

っていうか、お前、なんつうか、現代日本の技術にも精通してるんか?」


「ああっ、大変。

敵が来ますニャ!!」


おいおい、あからさまに話ずらそうとしてないか……?


「いや、だから俺は、とりあえずやられちまっていいから、このバトルを終わらせたいんだけどな。

あいつ、俺のこといろいろ調べようとしてて厄介だし。」


「そのスライムの精霊スイミンと、こっちのヤモリの精霊ペコがお力になりますニャ。

二体がいれば、あいつに後れを取ることはありませんニャ。」


「うーん。

なんだ、そういうのも含めて契約ってことかよ……

んで。

お前さん、名前はなんてんだ。」


「僕の……僕の名前は……

言えませんニャ。」


「名前も分からない相手と、契約できるかよ。

んじゃ、お前をミヤキチと呼ぶぞ。」


パカンと音がした、気がした。


「なんで……!?

なんで、僕の名前を!

記憶を封じているはずなのに!?」


俺は、記憶を取り戻す。


「んあ…… あー、そういうことか。

お前の名前を、思い出したわけじゃねえよ。

もう一度、同じ名前を付けただけだ。

は、それでも真名を呼んだことにはなるんだな。」


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