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109:第二R

俺は一般人として社会復帰したいだけなんであって、まだ遅くはないだろ。


「いやいや、世の中にはコンビニでバイトしてるイケメンなんぞいくらでもいるだろが。

何がアルトクリフ様の降臨だよ。」


「そう……ね。

アルトクリフ様の降臨と称するにも、もう遅いのかもしれない。」


深刻そうな顔でスマホをフリックしまくる川島。

さらに遅いのかよ。


「今度は何だ。」


「ほかのジャンルの人間達にも、目を付けられたみたい。」


「ジャンル……?」


川島が示してきた画面には、「アルトやれるならクインスもいけるやろ」「霞、着せたいわコレ」「一人三役でロー☆プリOP再現待ったなし」などと外部の人間にはイメージすらできないコメントスレッドが乱立していた。


「どういうことだ……」


「人気のキャラクリエイターだったら、ラノベにゲームにアニメに、どんだけキャラ生み出してきてるかっていう、ね。

まして繊月の王国なんて昔のコンテンツ、祖先みたいなものよ。

立ち位置とか系統似てれば、面影も似てくるじゃん……」


「いや、何言ってるかよく分からんが。」


「このままいけば、いずれあの店には素材狩りの連中が殺到するはずよ。」


「営業妨害ですよ、おまわりさーん。」


「あ、そのへんはマナーしっかりしてるから。

大丈夫、ちゃんとノータッチよ。

勤務中の店員に声を掛けるのは御法度でしょうし、隠し撮りも許されない。

それに、お店にお金も落とすはず。

ただ、妄想を重ねた視線で常時舐め回されるのは不可避でしょうね。」


「なにが大丈夫だって?」


「それより、敵が接近してきてるんじゃなかったの。」


「ああ。

もういいや、そっちは降参してさっさと終わらせてくる。」


微妙な顔をしたままの川島を置いて、薄着のまま玄関を出る。

あの狼男、部屋の中に隠れてたんじゃ、建物ごと破壊しかねないってことだろ。

三匹の子豚みたく、家が吹き飛ばされるのを待ってるわけにはいかねえ。


マンションの内廊下を抜けて非常階段に出る。

数段抜かして駆け上がり、最上部の柵の隙間から外側に身体を出す。


ふっ。

呼吸と共に力を入れると、簡単に三メートルを跳んで屋上のへりに手が届いた。

そこから、片手でひょいと身体を引き上げる。

これで弱体化してるってか。


屋上に上がり、近づきつつある魔力の塊に目を凝らす。


「来たか。」


目印代わりに、閃光弾を打ち上げる。

フラッシュというスキルらしい。

目くらましに使うものっぽいが、遠くからでもよく目立つだろ。


さっそく、絨毯に乗ったケモナーが飛んでくる。

武装もしていない俺の姿を見て、腕を組んで首をひねっている。


「さっさと第二ラウンドと行きたいけどな、てめぇ!

そんな装備で大丈夫かってやつだろぉ。」


降り立った金狼人が、腰に手を当ててガンを飛ばしてくる。

俺は、もろ手を挙げて降参の意を示す。


「あー、戦わなきゃダメか?

俺の負けでいいんだが。」


「……何がしてぇんだ?」


「いや、間違ってバトルの申し込みしちまったんだ。

面倒かけて悪いな。」


「間違って、だとぉ?」


狼面が、フンフンと音を立てて鼻息が荒い。


「なんだよ、あんた、バトルフリーク系か?

本気でヤラなきゃ許せねぇみたいな……」


「いーや、勝ちは勝ちだからもらっとくけどよ。」


狼の目が、ジロジロと俺の様子をうかがっている。

もう至近距離だ。

奴が片手の爪を軽く振るだけで、俺のハラワタは四散するだろう。


「腹に落ちねぇ、ってこと、あるだろ。

マッチの申込みにだって、結構な魔力が要る。

そいつを無駄にして平然としていられるってこた、よっぽど魔力を貯め込んでんのか。」


「あー、魔力ね。」


戦いを設定するのにも魔力が要るのか。

知らんがな。


「俺はもう、魔力とか要らねえんだ。

そう、平和に生きるんだ。

戦いはもう望んでない。」


「引退ってか……!?

なおさら納得いかねーな。」


狼の貌が、でかい歯をむき出しにしている。


「装備も精霊もなしに俺とマッチされるんだ。

その仕掛けがなんなのか、教えてもらわねえとな。」


嫌ならカラダに聞くしかねえなぁ。

殺しやしねえよ。

ただ、痛めつけるだけだ。


そんなセリフが似合いそうな目つきをしたかと思うと、俺の頭を鈎爪付きの手でがっしりとつかみやがった。


幾筋かの髪の房が切り落とされて舞っていくのが見える。

メキメキ、と頭の中で音が聞こえた気がする。

幻聴だったかもしれないが。


俺は、戦う気はなくとも痛いのは嫌なんだよ。

慌ててスキルを発動させる。


「でぃ、ディフェンシブ!」


さらに力を込めたかに見えた金狼の掌が、勢いよく弾かれた。


「ほう。

俺の攻撃を弾く程度のスキルか。

なかなかいいもの持ってるな。

だが、そういうのはとっておきにしとくもんだぞ?」


再び、奴の腕がこちらに延ばされる。


「今度は、片腕くらいもらっとくか。」


奴から見てそこそこ強力なスキルのようだが、通常攻撃を毎回さばけるほどクーリングタイムは短くない。


この際さっさと死んでおくか。

俺は、その爪をあえて首筋に突き立てさせたのだった。





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