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108:降臨

改めて、戦いのことに意識を巡らせる。

感覚的に、まだ続きがあることは分かる。


「つーか、さっきの戦い、勝負にならなかったんだけど。」


「それはそうでしょ、言ったじゃない。

ステータス、ものすごく弱体化されてるんだから。

でも、弱体化を解除しちゃったら、向こうに渡れなくなったりしないかな。」


「あと、装備とか精霊がどうとか、相手も言ってたな。」


「うーん、ギルはアルトクリフに転生したばっかりだしなー。

属性が変わっちゃって、装備もスキルも使える精霊も、みんな相性悪くなっちゃってるのよね……」


インベントリには確かにアイテムも装備品も山のように詰め込まれていたが、正直、情報が多すぎてどれをどうしたらいいか俺にもさっぱり分からん。


「で、その勝負はさ、闇格闘技みたいなもんだとするとさ、金になるの?」


「え、ランキングマッチ報酬の話……?

報酬は、魔力とか経験値とか、あとは装備品とか……

そうね、どれも次の戦いにつながるものって感じで、お金ってわけじゃないかな……」


「あんたは、こっちでどうやって暮らしてるんだ?」


「どうやってって、会社勤めだけど。」


「向こうの世界では、モンスターとか戦ってたんじゃないのか?

アイテム持ってこれるなら、こっちで大金持ちになれたりするんじゃないのか?」


現代社会にダンジョン出現!みたいなラノベ、一つのジャンルだろ。


「私の場合、こっちに帰ってきたのは今回が初めてなのよ。

ええと、ざっくり言うと向こうでの一日がこっちでの一時間なんだけど、私が向こうに行ったのが土曜の夕方で、だからまだ半日も経ってないし。

いろんな体験はしたけど、向こうで手に入れたアイテム売りさばくとかそんなのはまだまだ。」


「ふーん。

そういえば、あんたのこと、なんて呼べばいいんだ?

向こうでの名前以外に、何か教えてくれ。」


「え、じゃあ、……麻衣って呼んでみて。」


「マイ?

名前か?」


「そう……。

もう一回、いい……?」


「まい……って、名前、ふつうに日本人なんじゃねーか。

名字でいいだろ。」


「うう……

じゃあ、川島で……」


「かわしままい、か。」


「そう。

それで、カーマイン。」


意識すると、その名前に対して何かの術が発動しているのが分かる。

こいつのせいで、記憶を阻害されてんのか。


「俺は有川悠人ありかわゆうとってんだけど……もう教えてあったんだったか?」


「あは。

名字だけ聞いてたんだけどね。

ギルの真名、ゲットだぜ!」


「まな?」


「そ。

向こうじゃ、本名を知られると闇魔術なんかで魂とか精神に攻撃されやすくなるとか言って、真名は隠しておくものだったらしいんだけど。」


「真名、か。

川島は、教えてくれたじゃん?」


「アルトは闇魔術とか使えないし。」


それに、しもべだっていいのかもよ……?


妙なつぶやきが聞こえた気がしたんだが。


「お。」


俺が思わず声を上げると、川島がこちらを見てくる。


「どうしたの。」


「第二ラウンドが、始まったらしい。」


「ううーん、どうしたらいいんだろう。」


「戦って負けても、ヤバいことはないんだろう?」


「うん……。

ただ、相手がもしほかの次元から来てる人だったら、周りを巻き込んで無茶な攻撃とかしてくるかもしれないよ。」


「術とか攻撃で、建物とか街が破壊されるってことか?」


「そう。ギルも昔は、気兼ねなく破壊しまくってたみたいだったし。」


「え、戦いが終わったら、勝手に修復されるとかないの?

他の人間からは見えない裏世界で戦ってるとか、なんか特別な結界が展開されるとか、ラノベじゃお約束なんじゃ。

ランキングマッチとかいって、そんな破壊、許されるもんなの?」


「ギルはイベントとかで街とか軍とか滅ぼしすぎて、もう人間の街で暮らせなくなったみたいな話だったかな……」


「おいおい、そんなん聞いたら、街中では戦えねえだろ。

どっか、人のいない場所に移動するとか……?」


もう、離れた場所でも感じるほどの魔力の気配が、こちらに向かって飛んできている。


「そうだ、川島は、飛行とか転移、使えないのか。」


「え、私闇属性だから、その手の術は要求レベルが高くって。

ゆっくりなら飛べる精霊に運んでもらうとかできなくもないだろうけど、相手から飛んで逃げるとかは無理よ。」


「くっそ、どっちにしろ相手と話し合えってことか……

言葉が通じないわけじゃ、ないんだけどな。

いっそ、降参した方が早いか……?」


「うーん、うーん、ホントにそれでいいの……?

ギルは、そういう感じじゃなかったし、……そう、ランキングマッチの賞品は、アルトクリフ様の剣だった気がするんだけど。」


「いや、俺、アルトクリフ様とか言われても分からんし。

そこは関係ないでしょ。」


「え、何言ってんの。」


急激に室温が下がったような雰囲気に、俺はとまどう。


「ま、周りを巻き込むくらいなら、俺が負けとけば済むかなって……?」


「違う。

その後よ。」


「何か言ったっけ?

ああ、アルトクリフとか知らんけど、ってこと?」


川島が、俺の襟元をつかんで力を入れてくる。


「それは、許されないよ。

アルトクリフ様のお身体を預かってるんだから。」


「いや、何言ってんだよ。

俺は、有川って人間だって……。

コンビニバイトの、フリーターだよ。

少しくらい見た目イケメンに変わったからって、様とか呼ばれても。」


「もう遅い。」


川島が、スマホの画面を示してきた。

SNSアプリのその投稿には、コンビニで割れたガラスを集めている俺の姿が写っている。

おいおい、盗撮かよ。

でもって、「アルト様、現世に無職転生からのコンビニ店員に採用された件」って。


「何ちゅう記事、投稿してんだよ!」


「私じゃない。

あんだけネットやテレビに顔出ししておいて、何言ってんの。

いい、アルトクリフ様が、この世界に具現化したのよ。

なんなら降臨、と言っても良いけれど。」



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