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107:コスプレ

「こいつぁてーへんだぁ……!」


女が、目を丸くしている。


「なんだ、何が大変なんだよ。」


「だって、アルトクリフ様が、この次元に召喚されてきてんのよ。

二.五次元とか、そういうレベルじゃないのよ……。

いいえ、あれはあれでよいものだけれど。」


「アルトクリフ……様?

誰だ?」


「それを語ると、長くなる。」


あ、これはホントに長くなるやつだ。


「俺はギルじゃないのか?」


「そう、そうね。

あなたは、アルトクリフ様じゃない。

究極の具現化、アバターの域さえ超えたコスプレ。」


なんかまたよく分からんスイッチが入ったらしい。


「ね、コスプレなんだから、ちょっとくらい撮影してもいい……?」


許可するわけねーだろ!

スマホのカメラアプリ、設定詰めてんじゃねぇよ。

全力で冷たい視線を送ったはずだが、また「くっ」とか言っている。


「ギルってのは、あなたが向こうの世界でやってたキャラみたいなものね。

ええと、桎梏の闇魔導士、ギルケヴォール。」


「なんて?」


「しっこくのやみまどうし、ぎるけヴぉーる。」


「俺が?」


「あなたが。」


どういうセンスだよ。


「で、ギルの魂が、アルトクリフ様の肉体に移されてて。」


「ん、んん……?」


「さらに転生したせいで、もうアンデッドの身体に戻れなくなっちゃったのよねー。」


「ちょっと待て。」


今聞いた内容を反芻する。


「属性っていうか、設定盛り過ぎだろ。

それ、ほんとに俺が語ったのか?」


「二つ名とかはあなたが自分で付けたんだけど、あとは行きがかり上かな。」


「あ?

設定っていうか、実際に、向こうで起こった出来事なのか?

俺は、闇魔導士、だったのか?」


「なんか、幾つもの国を滅ぼして原作のストーリー崩壊させてから、森の奥に引きこもってたって自分で語ってたけど。」


「……原作、って。」


「ゲーム本編よ。

$%&”%の。」


「なんて?」


「え、$%&”%の。」


言葉が、聞こえない。

いや、言葉として、認識できない。


「今の言葉に、俺の呪いが関わってるようだな。

ゲーム、なのか。」


「あ、そこから?

どうしちゃったのよ。

スマホのアプリね。

廃人で、ひたすら周回してたって言ってたのに。」


スマホの。


ベッドサイドのスマホを、手に取る。

すっかり充電完了してる。


電源を入れると、着信やメッセージがいくつもあった。

一番新しい着信は、登録されていない番号……メッセージもあるな。

店長代理か。


インストール済みアプリの一覧を見ても、それらしきゲームのアプリは見当たらない。

俺、ソシャゲなんて本当にやってたのか?


ふう。

溜息をついて画面を消す。


「あー、悪い。

いろいろ話聞かせてもらってありがたかったけど、頭の中整理したら、また連絡する。

そろそろ支度して店に戻らないと。

しばらく、あそこで働くことになってるんだ。」


「は?

店って、コンビニ……あのファミリアマーケットのこと……?

働く……?

何言ってんの……?」


「いや、ゲームの話はよく分からんし、向こうでどうだったかは知らんけど、こっちじゃ俺は今、無職なんだ。

貯金が尽きる前に、どうにか社会復帰せにゃ。」


「無職……養う……アルトクリフ様を……いやいや、そこじゃなくて。

そう、こっちで、殺されたんでしょ?

殺されたのは、向こうじゃなくてこっちでの出来事なんでしょ?」


「え、こっちの世界でも、俺がああいう異次元からの敵を倒さなきゃならんわけ?

世界の護り手みたいなもんなの?」


「やー、こっちの世界で役割を持ってるわけじゃないと思うけど、だってバトルの相手はギルを狙ってくるのよ?」


「え、なんで狙われる?」


「だって、マッチングバトルに申し込んだんでしょ?

戦う気が無いなら、なんでよ。」


「申し込み……?」


あ、何かにYes、って応えたわ。

戦わない(NO)なんて選択肢、選んだことないからな。


「そうか、俺はずっとああいう戦いをしてきたのか。」


なんとなく、そこは腹に落ちる。


「狙われるとは言っても、死んでもリスポーンするんだろ。

相手も、あんま緊張感なくて、単なる勝負事みたいな言いっぷりだったし。

詳しい説明聞いてないけど、負けるとペナルティとかあんのか?」


デスゲームに巻き込まれる話か。

学校とか日常生活と共存させてるパターンも定番だ。

負けたら残酷な運命が待っているって縛りは、どうなんだ。


「ペナルティは知らないけど、世界がどうとかじゃなくても、ギルは、向こうじゃそのバトルに結構執着してたよ……?

たかがゲームなんて、絶対言わなさそうだったけどな……」


ふーん。

どうやら、今の俺と以前の俺とは別物になってしまっているようだ。


「ちょっと着替えるから、あっち向いててくれ。


「うっ。バレてる。」


……ガン見しすぎだろ。

壁に向かって反省ポーズをとっている女を背に、クローゼットを開く。


仕事に行けそうな程度の服を見つくろいつつ、しばらく前の感想を反芻する。

確かに、守備力も属性耐性も、なさすぎる。

そりゃそうだ。

ふつうの服だからな。


だからって、ファンタジーなフル装備で出かけろってか……?


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